お嬢様、ストーカーする
眉毛よし、マスカラよし、グロスよし、ファンデよし。
ふふ、今日も完璧な美しさですわね。
元々人形みたいに顔立ちが整っておりますが、日々メイクを勉強した甲斐があり、より磨きがかかっております。
制服は男の憧れであるセーラー服、胸元のリボンを綺麗に結び、スカートの丈も長すぎず短すぎず、誰からも好感を持たれる長さに致しました。
勿論……鼻毛も処理済ですわ!!!
あれから毎朝、必ず入念に確認していますの。
あんな屈辱、二度と御免ですから……!
先程からすれ違う、同じ高校に通う方々が、
(うわ、有栖川さん、今日も可愛いな~)
(あ、あれが噂の有栖川さんか。マジ美少女)
(綺麗~!メイク真似した~い)
男女問わず褒め称えて下さいます。
まぁこんなに際立った美少女、滅多にお目にかかれないですもの。
当然ですわね。
いくらでもご覧下さいませ♪
なんて、呑気に言っている場合ではございません。
SPに学校へ送らせると言い張る親を説得し、この私が徒歩で通学しているのには、勿論理由があるのです。
それは。
「おはようございます、山田くん♡奇遇ですわね~」
眼前に現れた、ぬぼっとして冴えない、前髪が長すぎて顔が見えない、新入生なのに小汚い学ランを着ているこの男。
そう、こやつが山田 健太郎!!!
この私を見て、鼻毛にしか目がいかなかった無礼な奴!!!
けれど今日こそは(すっっっげー可愛いな♡)と思わせてみせ
「あー……おはよう……」
(えっと、誰だっけ……?)
ヌオオオー!!!
何てこと……何てことですの……。
高校に入学し、同じクラスになって早1ヶ月……。
既に校内一の美少女と名高い私の名前を、覚えていないですって……!?
他の方は一瞬にして脳に刻まれますわよ?
そして生涯忘れられない(予定)ですのよ?
いえ、落ち着いて、落ち着くのです、美麗。
もしかしたら山田は、一時的な記憶喪失なのかもしれません。
こんなにぼんやりしているのだもの、頭を何処かに打ち付けたのですわ。
挙げ句貧乏ゆえに、治療も受けられないのです。
嗚呼、可哀想に……。
心底同情した私は、ニッコリと極上の笑顔で、
「私、同じクラスの有栖川 美麗でございます」
「……あ、ああー!」
(鼻毛出てた人かー)
ってオラアアアー!!!
……失敬。ついお下品なお言葉が。
にしてもお待ちなさい、山田 健太郎。
私の顔と名前を記憶せずに、何故鼻毛のエピソードは出てくるのです。
それこそ必要ございません、記憶を喪失させるべきです。
コホン。
とにかく平静を装い、気持ちをこちらに向けさせなければ。
私はこれ以上ないくらい、甘ったるい声を出しました。
「山田くんは、部活は入ってらっしゃらないの?」
「うん、まぁ。面倒臭いし」
(朝ごはん、もうちょっと食べてくりゃ良かった。腹減ったな)
「でも運動神経がいいのに、勿体ないですわ。走るお姿、とても格好良かったですし♡陸上部とか入られたらいかが?」
「ん~別にそんな速くは……陸上やる程じゃ、全然ないよ」
(こうなりゃ早弁するかぁ。けどそれはそれで、後半きつくなるかも)
「ふふ、謙遜なさって。そういう所も……素敵ですけど♡」
「そりゃどうも」
(よし、売店でジャムパン買い足すか!ビッグサイズのやつ。あれ美味いんだよ)
オーーーイ!!!
昼飯のことばかり考えるんじゃぬぁーい!!!
わ・た・く・し・に・きょ・う・み・を・も・てー!!!
せっかく必殺・華麗なる上目遣いを連発してやってるのにー!!!
ハァハァ……、……いけませんこと、また言葉遣いが荒くなってしまいましたわ。
全くこの男、一筋縄ではいきません。
他の殿方ならば、私が話し掛けただけで目が♡になり、瞬時に虜になりますのに。
そんな実にならないやり取りをしている内に、学校に到着致しました。
ここは一つ、押して駄目なら引いてみろ、でございます。
「では、山田くん。先に教室に行きますわ」
「えっ」
(そんな……同じクラスなのに……)
フッフッフ。
これは効果ありましたわね?ズドンときましたわね?
今まで人懐っこく微笑みかけてくれていた、とびきりの美少女が、急に素っ気なく去っていく。
さすがの山田も、喪失感に打ちのめされ
(もしかして……今日も鼻毛、気にしてたのかな……?)
山田あああーーー!!!
いい加減、鼻毛から離れろおおお!!!
そう叫びたいのを堪え、私は後ろ髪を引かれつつ、足早にその場を後にしました。
おのれ、山田 健太郎。
こんなに上手に操れない人間は、生まれて初めてですわ。
全てを思い通りにして、順風満帆な人生を歩んできましたのに!
彼と出会ったあの日から、私の運命の歯車は大きく狂いだしたのです。
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