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4.俺の夢

 そんなわけでさっそく彼女を連れて丸太屋根の家に入る。

 

「すごいね! 屋根裏部屋まであるんだ!」


 中に入った途端、彼女は両手を胸の前で合わせて明るい声でそう言ってくれた。

 そうだろうそうだろう。

 家の中には仕切りがなく、玄関から見て右手に煮炊きができる竈と大き目の棚があり、中央には縄梯子が吊るされていて、ここから上へ登ることができる。

 上部こと屋根裏部屋は頭がついてしまうくらいの高さしかないけど、ベッドと屋根を一部くり抜いたような窓があるんだ。仕切りはないから、屋根裏部屋から下を見渡すことができる。

 内装は全て自然木を活かした温もりのある作りとなっているのだ!

 

「あ、食材を持ってくるの忘れた」

「それなら、私が……あ」

 

 ハッとしたようになってブルブル首を振る彼女の肩をポンと叩く。


「燃えちゃったんだよな。気にしなくたって大丈夫。軽く一週間分以上の食材をストックしているから」

「畑の様子を見てみないとだけど……何もかもごめんね」

「ううん。炎竜が襲撃してきたんだから仕方ないさ」


 ついでにベッドをもう一台持ってこようかな。

 踵を返すとアメリアもトコトコと後ろからついてくる。

 

「私にも手伝わせて」

「ほんの手の平に乗るくらいだけど」

「そうだったわ。それでも」

「あはは。その気持ちだけで嬉しいよ」


 クスリと微笑みを浮かべ、二人で再び馬車へ向かう。

 

 必要な物をポケットに入れて馬車から出たら、アメリアが馬車の横扉辺りをコンコンと叩いていた。


「真っ黒な馬車ってやっぱり珍しいよな」

「そうなんだ。私、村から外に出た事がないから」

「この馬車さ。鉄よりは軽いんだけど、普通の馬車に比べたら数倍重たいのが難点なんだよな。だけど、少々のことでは傷一つ付かないのが気に入っている」

「うん! 炎竜のブレスでもビクともしなかったものね!」


 両こぶしを胸の前で握りしめ、ぱああっと笑顔を浮かべるアメリアの様子に俺も顔を綻ばせる。


「これ、もらいものなんだ」


 ポンと手の平で馬車を叩く。

 

「こんなすごいものをポンと渡すなんて、どんな人なのかしら……」


 タラリと額から冷や汗を流すアメリアの眉がピクピクしている。

 

「爺ちゃんから独り立ちしろって言われてパーティを出る時にもらったんだ。アーチもその時にさ」

「あなたのお爺さんって、とんでもない人なのね……」

「引退するって言ってたけど、まだまだ恐ろしく強いよ」

 

 筋骨隆々で真っ白な髭を蓄えた爺ちゃんを想像し、背筋に寒いものが走った。


「炎竜も軽々と倒しちゃうエリオがいたパーティなら、強いというのも納得だわ」

「え、いや。俺さ。荷物持ちだったんだよ」

「え! えええ! エリオが! 冗談……じゃあないようね……」


 額に手をやりクラリときたアメリアを慌てて支え、苦笑する。

 ただの荷物持ちでも俺はとても楽しかったんだけどなあ。爺ちゃんはともかく、他のみんなは今何をしているんだろうな。

 

「立ち話も何だし、食事をしながらにしようぜ」

「うん!」


 そう言って話を切りあげ、再び丸太屋根の家に戻った。

 

 ◇◇◇

 

 ソラマメ、大豆、エシャロットとイノシシの肉を煮込んだ簡単料理を食べながらアメリアとの会話に花を咲かせている。


「それで、エリオは行商をしながら各地を回っていたのね」

「うん。拡大縮小の能力があるから、行商にはもってこいだろ。嵩張らないし、量ももてる」

「行商をしながら、消えない虹がかかる土地を見つけたらどうするつもりだったの?」

「その土地に家を建てるだろ、いずれは村、そして街へと発展させていきたいなあって。一人だったら城にならないじゃない」

「あははは。何だか子供みたい。でも、素敵な夢だと思う。私、この村で一人きりになって、またこの村にたくさんの人が住んだらいいなって思ったもの」

「いっぱい人がいた方が絶対楽しいって! だから、土地が見つかっても行商は続けるつもりなんだ」

「そういうことね! 私もついて行っていいのかな」

「もちろんさ。一緒に行こうって言ったじゃないか」

「うん!」


 なんて話をしていたら、あっという間に時間が経ってしまった。

 さすがに遅くなってしまったので、この後すぐに就寝することにしたんだ。

 アメリアは一階部分で寝てもらい、俺は屋根裏部屋でね。

 

 翌朝、外に出たらとんでもない事態になることを俺はまだ知る由もなかった。

 

 ◇◇◇

 

 アメリアが朝からコトコト煮込んだオニオンスープを作ってくれた。

 お手製スープと昨日の残り物の肉と香草を挟んだパンが本日の朝食だ。


「エリオ、あ、あの」


 対面に腰かけたアメリアが上目遣いで俺の名を呼ぶ。何か聞き辛いことがあるんだろうか。

 少しでも話し易いようにと、言葉が続かず口籠る彼女へ笑いかける。


「何か気になることがあるのかな?」

「あ、うん。あのね。私、アーチの寝床を取っちゃったのかなって……」

「そんな事を気にしていたのか! 入ろうと思えばアーチは屋根裏部屋でだって、一階でだって寝ることができる。アーチには外を見張ってもらってたんだ」


 炎竜が出たから念のためにと思ってさ。彼は俺より遥かに鼻が利く。

 それに確認せずとも家の中にはアーチが入るスペースが十分にあることが見て取れるじゃないか。俺が気を遣って彼を家に入れなかったとでも思ったんだろうか。


「そ、そうだったんだ。私が怖がるからとか思わせちゃったのかなって。だから、寝た後に(アーチが)こっそり来ると思ってたの」

「怖いの? アーチが?」

「ううん。私を背に乗せてくれたし。カッコいい! 銀色の毛はふわふわしていて、触れるととても幸せな気持ちになるよ」

「あはは。この後、アーチのご飯なんだけどアメリアがあげてみる?」

「いいの!?」


 彼女はぱあぁと顔を輝かせ、机に手をつき前のめりになる。すごい食いつきだ。


「でも、朝食の後ね」

「うん! あ、それと」

「ん?」

「ううん、何でもないの。今日はいい天気になりそうと思って」

「確かに、そうだな!」


 小さな窓から差し込む光が、外の様子を物語っている。

 彼女の言う通り外はいい天気で間違いない。

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