14、捜索
14、捜索
この世界に来て始めて、智樹以外の人とパーティーを組んだ。闘技場で兄と一時的に強制的に組んだけど…………それはシステム的な事のようで……。
こちらは本気で生き残るためのパーティーだった。
大きな体の蒼の戦士レイさんと、色気たっぷりの青の魔法使いキサラさん。
その二人は移動しながら、隊列の組み方や役割など、どんな戦術で進んで行くのか話し合いながら進んだ。
「焦る気持ちはわかるけど、こっちも命かかってるからね」
「死んでもいいならもっともっとテキトーなんだけどね~」
なんて、キサラさんが冗談混じりに言っていた。
あれから、ラルとは口を利いていない。利ける雰囲気でもなかったし、元々私とはあまり口を利いていなかった。
ラルはきっと私を許せ無いんだと思う…………智樹を置いて行った事、何も知らずあんな所に泊まった事。
「キサラ、まだ回復呪文覚えてる?」
「う~ん、やってみないとわかんない」
「じゃ、私にかけてみてください」
私は回復呪文の被験者に立候補した。何故なら、異世界に来て、1度も魔法をかけられた事がないから!!異世界にいるのに1度も魔法未体験なんて…………そんなの勿体ない!
「お願いします!回復してください!」
「うわっリアルJKの破壊力っ!」
「それキャラだから、キャラの破壊力だから」
キサラさんは軽く集中すると、呪文のようなものを唱えた。
「空の青さ知るは魂の光、海の碧さ知るは深き闇の灯、地の蒼さ知るは万象の癒し。その力をもって癒したまえ」
お~!何だか呪文が祝詞みたい!!
おおお~!!
少し私の体が光ったと思えば…………その光はふっと消えた。
結局、何も起こらなかった。
「あっれ~?やっぱり久しぶりだから魔力足りなかったかな~?」
「それ、回復が必要無い人にかけたから意味が無いだけでしょ?」
「あ、そっか、回復する必要の無い人には何も起こらないか!!あはははははは!ごめんごめん!」
途中まではそんな調子だった。
「ここから先はちょっと警戒してね」
一番先頭を行くランプを持ったレイさんが言った。何だか二人の顔つきが変わるのがわかった。
私は念のため、ラルを抱き抱えた。
「な、何してんだよ!」
「この方が逃げやすいから」
「バカにすんな!いざとなったら俺も戦うわ!」
ラル…………なんかいつもと違う。やっぱり、智樹がいないと不安だよね…………。
すると、突然キサラさんが叫んだ。
「下がって!!」
左方向から何かが飛んで来た。
「来たよ!レイ!」
「わかってる!左方向に1体、その奥2体リナちゃんは下がってて!」
すると、キサラさんが私の前に出て来た。
「私も戦います!!」
「下がれって言われただろーが!」
ラルに、怒られると、目の前に氷の矢のようなものが飛んで来た。
「なるべく右の方に逃げて、どこかに隠れてて!」
「でも…………」
「大丈夫!あれくらいなら何とかなるから!」
そう言ってキサラさんはレイさんを援護しに行った。本当に?本当に大丈夫かな?
でも、私はこれ以上足手まといになっちゃいけない。そう思って「すみません!」と言って右方向に逃げた。右方向は広場の方に続く道だった。
広場には街灯の明かりがポツリ、ポツリと見えた。
その街灯の下に、大きなマント姿のフードを被った人がいた。良かった!人がいた。
何だか安心した。せっかくだから、智樹を見ていないか訊いてみよう。
「あの、すみません…………」
そう話しかけた瞬間…………その風貌に驚愕した。
この人は………………話しかけちゃいけない人だ。話しかけた事を瞬時に後悔した。
だって、その人は…………人じゃない。
そのフードの下は、死神のような骸骨の顔だった。え?何これ?新手のホラー?
「莉奈!逃げるぞ!こいつアンデッドだ!!」
「…………………………」
ラルにそう言われても、恐怖で体が動かない!!声すら出ない!!痴漢に襲われた時より怖い!!
その視線が、その空気が、私を凍らせる。
「莉奈!!」
体は震えるだけで、何もできなかった。背筋が凍るってこうゆう事を言うんだ…………体が…………冷える。
「莉奈!動け!」
そう言ってラルは私軽くを突き飛ばした。それで、私は少し動けるようになった。
「走れ!!あっちの二人の所へ!!」
ラルはドラゴンの姿になると、アンデッドの前に立ちふさがり、私を背に走らせた。
走っている途中で、視界にツール画面が出て来て、メッセージが来ている事を知らせていた。
「お兄ちゃん!?」
すぐにメッセージを開いてみると、キサラさんからだった。智樹が無事見つかったという連絡だった。
良かった…………。ひとまず安心した。
安心したけど…………ここ…………どこ?
ラルともはぐれて、迷子…………地図を見たら、港のセーブポイントが近かった。
嘘…………無我夢中で走って、敵とかぶっちぎってここまで来ちゃった感じ?
変に運がいいのと、変な所で運が悪い。そんな自分が嫌になる。
セーブポイントには誰かがいた。
もう、嫌な予感しかしなかった。 警戒しながら、セーブポイントに少しづつ近づいた。
「君は…………」
「トムさん!?」
そこには見覚えのある姿があった。
「どうしてここに?」
すると、後ろからラルがやって来た!
「お前!何でこっちに来るんだよ!!智樹見つかったって聞いただろ?」
「だって、セーブポイントに来れば他のセーブポイントに飛べる…………」
何故か膝が崩れた。
「莉奈!!」
ラルが叫ぶと、トムさんがとっさに支えてくれた。
何が起こったの!?
「お前、本当にバカだな!!足を喰われたんだ!」
「え?足って喰われるもんなの?」
「恐らく瀕死のアンデッドの上でも走って来たんだね」
いやいや、虫に刺されたね~!ぐらいのトーンだけど?よくあるの?これ、異世界あるある?
足を見ると、右脚のふくらはぎの当たりから下が氷のように冷たく砕けていた。
「何だか足が冷たいな~とは思ってたんだけど…………」
全く痛みも感じない。
「だから、言っただろ?莉奈のレベルじゃ瀕死を踏んだだけでもこうなるんだ」
「空の青さ知るは魂の光、海の碧さ知るは深き闇の灯、地の蒼さ知るは万象の癒し。その力をもって癒したまえ」
足が少し光を帯びて消えた。そのまま?
「回復が利かない?」
ラルが言った。すると、トムさんがこんな提案をした。
「ここから私の家が近いんだ。何か使えるアイテムがあるかもしれない。少し寄って行くかい?」
トムさんの家!?
「はい!!喜んで!!」
こんな事なら菓子折の1つも持って来れば良かったな~って片足だと歩けないんですけど…………
するとすぐにトムさんが肩を貸してくれた。優しい!!やっぱりトムさんは…………
と、思ったらラルがドラゴンになって、私を鷲掴みにして運んだ。
「ねぇ、これ雑じゃない?扱い雑じゃない?私、一応怪我人なんだけど?」
トムさんの家はとりわけ大きいとか豪華とか、そうゆうわけではなく、典型的な冒険者が一番最初に与えられる家そのものだった。つまりは普通。うちと同じね、仲良しね。
その外見とは裏腹に、中は所狭しと物が溢れていた。よく分からない草や木の枝、虫や動物の毛皮、水槽、実験機器、鉱石、砂…………
トムさんはソファーの上の枝の束を退かして、ソファーの上を手で少し払った。私はラルにそこに置かれた。
「恐らくは、想定外な事で回復するようにプログラムされていない可能性がある。今回のようにBランク以下の冒険者がアンデッドに遭遇する事はまず無い」
それ、システムの話?
「Cランク以下は本来プールスにさえ来られないはず」
「それは、密入…………」
途中まで言ってラルの視線に気がついて止めた。
「君、ちゃんとアクアへ行って冒険者の称号を得て来なさい。称号が無ければ、今後もこんな風に想定外の出来事に対応しきれなくなる」
つまりは…………やっぱり私のせい?
「私がもっと恐れているのは、君の行動で致命的なバグが生まれる事だ。このゲームは更新されないんだ。バグを直す人手が無い」
私のせいでこのゲームが壊れるから?
アクアに行きたくないのは、私のわがまま?
私だけ…………私だけが我慢すればいい?
思わず涙が溢れた。




