13、厳しい
12、厳しい
それはまだ私が小学生の頃、だから子供は嫌いだ。そう思うほど、その存在が嫌いだった。
智樹は赤ちゃんの頃は、いつもご機嫌で可愛かったのに、喋れるようになったら急に可愛くない。それからというもの、智樹との喧嘩が絶えなかった。
お母さんに叱られた時はいつも、自分の部屋のクローゼットの中で過ごした。そんな時は必ず、兄がうまみ棒を持ってやって来る。
「莉奈、うまみ棒持って来た。開けるぞ?」
私は兄から手渡されたうまみ棒にかじりつきながら泣いた。その涙を「汚い」と言いながらも、嫌な顔せず兄は私の顔を拭いてくれた。
あの日、兄とは兄妹じゃないと知った日も、もうだいぶ狭くなったクローゼットの中にいた。久しぶりだったから、入るために中の物を少し出した。
そこにうまみ棒を持って来たのは、兄ではなく、智樹だった。智樹は何故か、兄が今までそうしていた事を知っていた。
兄には私の知らない時間がある。友達や家族、智樹との時間がある。
私にも、智樹との時間があった。
それは、どんなに嫌でもムカついても、私の大切なもの。これからも続くはずのもの。失いたくないもの。
だからお願い!!
どうか無事でいて!!
神様なんていない。そんなのわかってるのに、こうゆうときにすがるのは何故か神様だった。
神様、どうか智樹を…………
暗い夜道を、全速力でラルと走った。
あの後、私が居酒屋で青ざめながら、オレンジジュースを震えた手で置いて「帰ります」と言った。その瞬間、私の様子から察した元冒険者が言った。
「早く行った方がいいよ。冒険者は生き返れるとか言うけど、一応気をつけて。管理者がいないから今はわからないから」
……もし智樹が死んだら………………そんなの嫌だ!!
急いで宿に駆け込むと、すぐに2階へ上がり部屋ドアを開けようとドアの前に立った。その時…………嫌な予感しかしなかった。
それは…………ドアが少し開いていたから………。
嫌な予感じゃない。予感じゃなかった。これは決定的だ。
決定的に、何か様子がおかしい。
「莉奈、ドアが開いてる!こっちに !」
ラルは私をドア横の壁際に押し付けると、アクションスタントばりに尻尾でドアを開けた。そして、ゆっくりと中へ入って行った。
「やられた!!」
ラルの後から中に入ると、窓が開いていてカーテンが夜風に揺れていた。
私は部屋の中の隅々まで探した。もしかしたらどこかに隠れてるかも!!
「智樹!どこ?どこにいるの?」
いない………………。
「今すぐ警察に届けて来ます!」
ラルが警察に連絡して、すぐに捜索を始めてもらえる事になった。
宿に戻って来たラルが言った。
「これでも、関係無いと言えますか?」
関係無い?
「あなたは前に言いましたよね?魔王なんて私には関係無いって………………」
確かに言った。だって、兄を探したいだけだし。魔王なんか関係ないし…………
「そうですね。誰もが当事者にならなければわからないものです」
何だかラルの言葉が胸を刺す。
「この世界には魔王がいます。誰もが大切な人を失う不安を抱いて、見えぬ危険に怯えています。自分に力が無ければ、力のある者にすがる。それはいけない事ですか?」
刺さった言葉が胸をえぐる。
「あなたにはその力があった。それなのに…………最初から責任を負う事を拒んだ。あなたに冒険者の称号があれば酒場に行く事なんか無かった。一緒にギルドへ行って順調にレベルを上げて…………」
つまりは、私のせい?
私が外に出ようとすると、ラルが背中を引っ張って止めた。
「どこへ行くつもりだ?お前は相変わらずだ!相変わらず自分1人で突っ走って、誰かを巻き込んで…………失敗する」
「じゃあどうすればいいの?」
すると、開きっぱなしのドアの向こうから声が聞こえて来た。
「それはね、頼ればいいんだよ」
部屋に入って来たのは、さっき居酒屋にいたお姉さんだった。長い黒髪の肩の空いた服を着た綺麗なお姉さんだった。
「勝手に入らせてもらった。弟君を探すんでしょ!?私達も手伝うよ!」
「お姉さん…………」
「私はキサラ。本名が如月だから。あ、因みに中身は男だから」
は…………?
「それは今話す事じゃないだろ?」
後ろから、ラガーマンのような体の大きな男の人がやって来た。その人も、部屋に入ると訊いてきた。
「探す弟の特徴は?」
「えっと、あの…………」
私が答えられずにいると、ラルが言った。
「黄色いヒヨコです!夜でもかなり目立つと思います!皆さん手分けしてお願いします!念のため何人かで行動してください!くれぐれも1人にならないように」
「そうだね、魔王の残りがまだどこかにいるかもしれない。みんなにそう伝えて来る!」
そう言ってお姉さんは部屋を出て行った。その後ろ姿に言葉をかけようとした。
「あ…………」
ありがとうが出なかった。
「どうした?大丈夫?」
男の人が手を差しのべてくれた。
「大丈夫。今は私の事少し怖いかもしれないけど、すぐに慣れるよ。私、中身は女だから」
は?どうやら、お姉さんはお兄さん、男の人の方は女の人。性別を逆にゲームに登録したらしい。すると、お姉さんが戻って来て男の人に訊いた。
「強盗目的だったら、売るか使うかだと思うんだよね。使うならセーブポイント、売るなら道具屋。それぞれにみんなに先に行ってもらったけど、どうする?レイ、どっちに行く?」
男の人は少し考えて言った。
「私が冒険者の称号を持ち逃げするなら、みんなが行きたくないであろう港付近のセーブポイントへ行く」
それって、夕方逃げろって言われてた一番危険な場所じゃないの?
「じゃ、早く行こう!妹ちゃんは?どうする?ここにいる?」
「いえ、私も…………」
私も行くと言った瞬間、ラルに阻まれた。
「ダメだ!!こいつは足手まといになる!莉奈のレベルではプールスで何と戦っても通用しない!武器だってそこらへんの枝で戦えるわけないだろ!?」
「枝!?」
「智樹の拾った木の棒です」
私が木の棒を見せるとやっぱり二人は驚いた。この反応にも慣れて来た。
「こんなんでよく生きてここまで来たね……ある意味強運だよ」
「これ、貸してくれるかな?」
私は男の人に棒を差し出した。トムさんみたいにまた、蒼の気が……とか言うのかな?
「これ、少し加工していいかな?」
「え?別に、かまいませんけど…………」
こんなの道端で拾った木だし……
「すぐ終わるから」
そう言って男の人は、その木の枝を削り始めた。お姉さんは私に防具をつけながら言った。
「レイは武器の加工スキルがあるんだよ?しかも、その属性を高めてくれる。これ、私のお古だけど、その鳥コン衣装よりは防御力上がるから」
「あの…………」
その時、トムさんの言っていた言葉を思い出した。
『蒼の気を高められれば少しは使えるかもしれないよ』
今までは力なんかいらないと思ってた。危険なんかと無縁な所で兄を探して、さっさと帰ろうと思ってた。
だけど、今は力が欲しい。
智樹を…………大切な人を守れる力が欲しい!
「よし、出来た」
レイさんは、私に出来上がった剣を渡してくれた。ただの木の棒から、木刀が出来上がった。
「これなら、ただの棒よりは力の伝わり方が良くなるはず」
「あの………………」
感極まって、何だか声が出なかった。
「ん?どうしたの?」
「あの……あの………ありがとうございます!」
今は、みんなに助けてもらって、智樹を取り戻す。絶対絶対取り戻す!!
「キャー!レイ今の聞いた?生JKありがとうだって!あ、JTかな?」
「気色悪いから離れなさいって」
「よし、今ので元気100倍!」
え?アンパ◯マン?
「皆さん、くれぐれも生きて帰る事を優先してください。もし、智樹がダメでも…………ダメでも皆さんは…………」
「そんな事考えるんじゃないの。死んだら生き返らないなんてのは当たり前。いつだって覚悟はできてる。私達にとっては、ここが現実世界なんだから」
永住権を持つ人達にとっては、ここで死ぬ。その覚悟でいるんだとお姉さんは言っていた。
ここで死ぬ覚悟…………。
いつかにプルスの王子が言ってたっけ。
『俺たちにとっては、ここが現実世界なんや!』
それは、ここで死ぬ覚悟があるって事なの?
私には、そこまでの覚悟は無い。
だって、私にとって…………この世界は、
現実世界より厳しい。




