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再会は花のように  作者: 猫寝子cat
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side:C 第3話 「許せない」

お久しぶりです。ステア編は続きませんでした。

「お父、さ……」


 突然やってきた先代剣聖、グラジオラス……私の父に一瞬停止した頭を動かし、漏れ出そうになった言葉をグッと飲み込む。

 ここでそんな事を言えば、ステアに私の事がバレてしまう。

 っ! そうだ! はやく顔を隠さないと!

 急いで念の為用意しておいた仮面を取り出そうとするが、そこで父と目が合ってしまった。


「あっ……」


 どうしよう、ここで殺す……? 私が、お父さんを? いや、でも……。

 それとも、お父さんならもしかして……ダメだ、こんな私が今更許してもらおうなんて、親に守ってもらおうなんて。

 でも、あぁ……なんて声掛けようかな……そんなことを考えてしまった私は、馬鹿で、傲慢で、どうしようもなく愚かで……だから、罰が当たったんだろう。


「さて、魔族の嬢ちゃん! 一人息子の前だ、ちょっくらカッコつけさせてもらうぜ!」


 目の前の男は、そんなことを宣った。


「…………え?」

 

 魔族の嬢ちゃん……? 一人息子……?

 目の前にいるじゃないか、お前の娘が。

 たしかに私の見た目は変わった。

 髪は金髪から黒になったし、肌も真っ白だ。

 でも、それだけじゃないか。角も生えてない、顔も変わってない……ステアは当時、まだ物心すらついていなかった。だから分からなくても仕方ないし、分かって欲しくない。

 けど父親なら……お前ならわかってくれるんじゃ、そう思わされたのに。

 

「…………なんで、なんで……」


 茫然自失としている私を見て、男は言葉を飛ばす。


「おいおいそんなアホ面晒してどうしたんだ? 俺に惚れちまったか?」

「…………っ!!」

 

 その瞬間、私の中で何かがブツリと切れた。


「あ、あ……あああああああああ!!!!」

 

 氷の剣を携え、風でその身を纏い、男に切りかかる。

 しかしそんな我武者羅な攻撃では届く筈もなく、簡単に防がれてしまう。


「随分と鬼気迫る様子だな」


 そしてこの男は、信じられない言葉を吐いた。


「俺に家族でも殺されたか?」


 コイツの言葉は……どこまで私を失望させれば気が済むんだっ!!


「ふざけるな! お前が!! お前がぁ!!」

「ハッ、当たりかよ! 魔族のくせにお涙頂戴ご苦労さんっ!」

「くっ……あああああああ!!」


 あの日、私の全てが変わった日……コイツは王都で酒を飲んでいた。

 お母さんが殺され、私が命懸けでステアを守り抜いたあの日に、何があっても私達を守るなんてイキがってたコイツは! 結局何もしてくれなかった!

 もちろんこれが理不尽な怒りだと言うのは分かっている。

 片道1週間以上かかる王都から、狼煙すら見えないような距離にある私達の村へ事態を把握してやってくるなんて無理に決まってる。

 でも、それでも……コイツが酒なんて飲んでなければ、家に居てくれたら……そう思ってしまうのは仕方ないじゃないか。

 

「死ね! 死ね! 死ねぇ!」


 風の刃を、炎の球を、石の礫も、氷の剣も、届かない。

 落ち着け……冷静になれ……。

 頭に血が上ったままじゃ、絶対にコイツを殺せない。


「おいステア! 怪我ないか!」

「……っ!」


 何でコイツは! 私の神経を逆撫でする事しか言わないんだ!

 そんなに息子が大切か! そりゃそうだ、なんせ勇者だもん! 私だって死ぬ気で守り抜いた。

 じゃあその姉は! お前の娘は! 魔に堕ちてしまった娘には価値ナシか!

 もういい、コイツ相手に落ち着こうなんて土台無理な話だったんだ。

 もっと怒れ、もっと叫べ……感情を爆発させろ。

 数年ぶりの激情だ、精一杯味わえ。


「……ふぅ、はぁ」


 一度大きく息を吐き、胸いっぱいに空気を吸い込む。

 

「あああああああああ!」

 

 そしてその空気を全て使い、絶叫する。

 そして自分の声に魔力を乗せ、あの男にぶつける。

 音という回避不能の速度でやってくる衝撃に一瞬動きを止めた男に一瞬で肉薄し、氷の槌を横薙ぎに振るう。


「うおっ!」


 この攻撃事態は当然防がれるが、その質量で吹き飛ばすことに成功した。

 飛んで行った先に、さっきの剣聖との戦闘で使った特大の氷柱を落とす。

 しかしこんな物で死ぬ訳が無い。改めて氷の剣を生み出し距離を詰めっ!?


「かはっ」

「はは! ビックリさせるじゃねぇの!」

 

 氷柱を真っ二つに切り裂き、突っ込んできたソイツに腹を蹴られる。


「ほぉら! 今度はこっちの番だ!」


 物凄い速度で飛んでくる剣を必死に捌く。

 なんてパワーだ、数度受けただけで氷の剣が粉々になる。


「っあぁ!」


 熱を極限まで圧縮してレーザーを生み出し掌から射出するが、上体を反らし躱される。


「なんでお前は! そんなに強いんだ!」


 止まらない剣戟を防ぐのに必死で飛んでくる蹴りに気が付かず、また吹き飛ばされる。


「はっ! 鍛えてるからな!」


 地面に激突し、砂塵に紛れる。


「そんなに強いなら……なんであの時私達を……」

「あぁ? 聞こえねぇなぁ」


 砂埃の向こうから歩いてくるソイツに、改めて突っ込んでいく。

 ……頬を伝う水に、気が付かない振りをして。


「っくぅ……はあああああ!」

 

 飛び上がって風の刃を飛ばし、意識を上に向ける。

 剣で防がれた瞬間に地面から槍を発射して後退させ、着地したところに今度は面で地面を突き上げ、吹き飛ばして距離を取った。


「ふーっ! ふーっ!」


 クソ、瞼から流れる血で視界が霞む……脳内麻薬が切れてきたのか炭化した左腕が信じられないくらい痛い……。

 あぁ、でも……。


「ああああああ!」


 そんなのまったく気にならない程、思考が怒りで満ちている!

 芸も無くまた突っ込んできた男に全力の氷の礫を飛ばす。

 思っていたより速かったのか少し驚いていたが当然防がれる。でも関係ない、ほら見ろ体勢が崩れた。

 すかさず少し細工をした一際大きな礫を飛ばす。


「らぁ! ……あ?」


 気合いで弾いたようだが、その影に隠していたもうひとつの礫が男の脇腹を貫通する。


「これで、終わりだあああ!!!」


 すかさず視界いっぱいに風の刃を出現させ、射出する。

 しかしそこに、一筋の紫電が走った。


「すみません、遅くなりました」

「いや、よくやった。完璧だ」


 ちっ、余計なマネを……。


「さて、お嬢ちゃん、なんだかさっきよりも静かだと思わないか?」

「何を言って……っ!?」

 

 ステア達がいない!


「随分と俺にメロメロだったからよ、その隙に逃がしてもらったぜ」


 そっか、逃がしてくれたのか……。

 ステアが無事だった安心感に、頭が少し平静を取り戻す。

 

「……で、なに? 2人がかりなら私に勝てるとでも?」

「あぁ、もちろん……と言いたい所だが」


 そこでアイツは剣聖の肩をポンと叩く。

 な、まさか!


「ここで死ぬ訳にもいかないもんで、あばよ!」

「ま、待て! おい!!」


 また一瞬、紫電が走ったかと思うと、2人の姿はもう何処にも見当たらなかった。


「………………はぁ」


 誰の気配もしないのを確認し、その場に倒れ込む。


「はぁ、はぁ……っつぅ……」


 ステアが無事だったことへの安心と、アイツへの煮え滾る様な怒りと、一向に収まる気配のない痛みで頭がぐちゃぐちゃだ。

 いつもの魔力を回復する草を噛み締めながら、絡み合った思考をひとつひとつ解いていく。

 ……とりあえず、これなら魔王に殺されることは無いだろう。

 ただでさえ剣聖が居たのに、そこに先代まで出張ってきたんだ。逃がしてしまっても仕方がない。

 そして、その先代剣聖……私の、お父さ……いや、あんなもの家族でもなんでもない。唯の糞野郎だ。

 

「殺してやる、殺してやる……殺して、やる……」


 ぐるぐると渦巻く殺意を募らせながら、体力の限界だった私はそのまま気を失った。

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