Game-08 東館の実態
北館の東館寄りの階段前を二人は止まることなく駆け抜ける。
北館の端に到着すると二人はようやく立ち止まり、東館の廊下を見据える。
「さてと、さすがにちょっと仮眠でも取るか」
「えっ?今さら?」
「おう。今さらって言えば今さらだよ。でも、さすがにそろそろ寝ないと頭回らなくなりそうだし、ここらで一度仮眠ぐらいは取った方がいいと思ったんだよ」
「まあ、構わへんけど…。どこで寝るん?」
一応、後ろを振り返れば扉が一つ存在していたのでそこへ入ろうと手をかけるも───
「カギかかっとるよ?」
「とりあえず東館の1階の教室を見回ってみて寝転べる区画でもあればそこで三時間ずつ仮眠だ」
「ん、了解」
目の前に見えている東館の廊下を歩いていく。
東館は北館と同じく電灯はついておらず、また他のプレイヤーもこちらには留まっていないのか静かなものだ。
「なんで他のプレイヤーは東館に残ってへんのやろ?」
「さあなぁ…。東館にも何かしらの特色みたいなものがあるのかもしれないな」
「特色?」
「あくまでも俺の憶測だからな?西館は比較的安全地帯だ。灯りも多いし家庭科室があるから飯の準備も簡単だしな。北館は昼間でもかなりの暗闇だ。階段前を通り過ぎるだけでもかなり緊張したし…」
「なるほど。となると、当然この東館も何かありそういうことやね」
「だと、思うんだが…。問題は、どんな特色なのかってことなんだけど───とりあえず、目の前のことから対処していくとするか」
「うん?」
東館の階段前を通り過ぎ、一つ目の教室の前。
扉を開けようとしていた響は扉のわずかな違和感に手を止めることができた。
(どうなる…?)
「なに固まってんの?」
「寧々さん。俺が扉を開けたら階段の方へ飛んでくれ」
「はあ?」
「いいから。いくぞ、せーのっ!」
扉を横へと引き開けると同時に寧々は階段の方へ、響は扉を開ける勢いのままに廊下へと飛ぶ。
開け放たれた扉からは一瞬遅れて二つの軌跡が扉前の空間を切り裂き、校庭との区切りである金網にぶつかる。
ぶつかった物はそのまま地面に突き刺さると、響は顔を半分だけ教室の中へと覗かせる。
「ああ、うん。これなら確かに残りたくはないな。扉一つ開けるだけでこの有り様なら命がいくつあっても足りないぞ…」
教室の中はさすがに響ですら予想していなかった。
あちこちに血の飛び散った跡が残っていて、奥の窓がある壁にはおそらくここで前回行われた《ゲーム》の参加者の死体がほとんど白骨化した状態である。
見た目的には科学室や保健室に置かれているだろう骨の標本だ。
───白骨の周囲から床に向かって流れ落ちたであろう血流の跡がなければ、だが…。
「───どないすんの…?」
「さて、どうするかな?」
凄惨な有り様の教室に足を踏み入れながらも二人は緊張感を解くことなく教室内を見渡す。
あちこちに生々しい罠による殺人現場もかくやの流血跡が残っているので精神衛生上はあまりにもよろしくはない場所ではある。
「だけど、そうだな。歩き回った感じでは床に罠の発動キーは無いようだし、ここで仮眠取るか」
「うぇっ。マジなん?」
「ああ。少なくともそこの扉を閉めとけば外から入ろうとするプレイヤーはさっきのクロスボウの罠に襲撃されるから、こっちにはわかるだろうし。いざとなればそこらへんの罠を起動しないことを条件に脅せるだろ?」
「悪どい話やけど、それ、死なばもろともやんな?」
「そうともいうな。だけど、少なくとも西館の状況を知ってるプレイヤーはわざわざ来ないだろうし、安全度はプレイヤーから狙われるって意味ならここの方が安全だと思うぜ?」
「そうやろうけどぉ…」
寧々は教室の中を見渡す。
罠によって引き起こされたであろう凄惨な現場のど真ん中で果たして寝られるだろうか?
☆
人間というのは案外図太い神経をしていることがあるようだ。
扉から入り込む朝日の明るさに二人はそれぞれに伸びをしたり、あくびをしていたりとよく眠れた様子で身支度を整えていた。
「こんな環境でも熟睡できてもうた自分の神経を疑いたくなってきたわ…」
「いやぁ、見張りを交代しながら寝ようとか提案しときながら俺も寝てたわ。悪い悪い」
「ええんとちゃう?結局、誰も来えへんかったみたいやし」
「…そうだな。気持ちを切り替えよう。朝日が昇っている以上、少しは建物内に明るさが戻っているはずだ。この危険極まりない東館を探索するにはちょうどいいだろう」
「上はここほど危険なんやろか?」
「少なくとも同程度、と考えておくのが妥当だろうな」
二人はそろって天井、その先にある2階へと意識を飛ばしながらも気持ちを新たに進む。
───教室から出る際に扉の罠を忘れて死にかけたのはご愛嬌だろうか?