Game-09 工作室で起きたこと
東館手前の階段を注意深く二人は上がっていた。
東館の階段にはバリアフリーが西館よりは行き届いているようで手すりがついていたり、階段の段には滑り止めのマットが敷かれていたりと安全対策が随所に施されている。
しかし、この安全対策がネックになっていた。
「本来の学校の施設としてみればこれだけバリアフリーにしてくれてるなら多少の身体障害程度なら通えるって喜べるんだろうけどな…」
「今は罠を隠せる立派な目隠しに使われてるあたり、ゲーム側の底意地の悪さが際立っとんね…」
手すりの裏側に圧感知型の罠の起動スイッチがあったり、滑り止めのマットのはずが実はトラバサミのような設置型の罠の隠し場所の温床になっていて階段を踊り場に上がってくるまでに二人はすでに少し疲労していた。
「つーか、なんでこんなに厳重な罠が目白押しなんだここは…」
「昨日響さん自身が言うてた各館のコンセプト、ちゃう?」
「冗談は大概にしてほしいよな…。これ、ゲームクリア目指す前に死人出るレベルだぞ…」
「女性一人、すでに死んどるけどね…」
「…だったな。本当、笑えねーわ」
予想していなかった時間をかけてようやく東館の2階へとたどり着く。
「もう朝の10時か…。一フロア上がるだけで一時間とかどんな拷問だってんだよ…」
「このフロア。工作室だけみたいやね」
フロアを見渡すと教室に掲げられた名前には『工作室』と銘打たれている。
「工作室ね。子どもの頃なら目輝かせて教室に入ろうとするんだろうが、今は恐怖の館の入口にしか見えないな…」
「アレ、本物なんかな…?」
「多分、な…」
二人の見つめる先は工作室の入口の扉、その前の廊下に教室内から流れ出ている赤黒い『何か』。
しかし、フロアにはその『何か』によるかなり独特な鉄臭い臭気が充満している。
「あれは、嫌な想像しかできないんだが…覗きにいくしかないのがなんともな…」
工作室の扉をわずかに開く。少し待つが変化は起きないので勢い任せに扉を開ききる。
「何もなかったね」
「工作室の中はそういうわけでもなさそうだな。…端芽や楓はコレを見てるからああいう態度だったんだろうな」
人の死というものは回数を重ねると感覚が麻痺でもするのだろうか?
工作室の中は無数の刀傷のようなもので斬り刻まれていた。半壊したテーブルやイスがそこかしこに転がり、響は入口近くに転がっていた刀の鞘を拾い上げる。
そして、部屋の少し入ったところに『ソレ』はあった。
右肩から腕が斬り取られ、心臓を刀で一突きにされた男性の死体が机に寄りかかっている。周囲の血がある程度固まっているのでそろそろ一日が過ぎるのではないだろうか。
「右腕が欠損した死体、か。心臓を一突きされて死んでるわりには身体のあちこちが斬られてるところを見るとかなりの抵抗はしたんだろうな」
「響さん、落ち着き過ぎへん…?」
「まあ、いちいち驚くのもな。下手したらこのあとも何度同じ光景を見るかわからないんだ。感覚を麻痺さしとく方が後が楽さ」
「そういうもんなんかな…。ウチには無理な感覚やけど…。に、しても、一体何があったんやろうか?」
「少し調べてみるしかないだろうな。罠に気をつけて調べるぞ」
室内は床や壁と言わず、天井等にも刀傷のような傷が刻まれている。
破壊の痕を見ながら工作室の黒板の前まで来た響は、ポケットのなかで携帯器機が振動したのに気づいて携帯器機を取り出す。
『ポイント到達を確認しました』
「…ああ、そういえば工作室は15ポイントの一つだったか」
携帯器機をポケットにしまうと改めて室内を見渡す。
室内にあったもののほとんどは原形を留めないほどに破壊されているのだが、部屋の一番奥に鎮座している機械だけは無傷に近い。
(こいつだけが無傷なのか?)
機械に近づいてみてわかったがこの機械だけはどうやら後付けでこの工作室に設置されたようで、明らかに学校の備品という物ではなかった。
「他に変わったところはなさそうだな。だとしたら、この機械はなんでここに置かれたんだか…」
「響さん。この部屋、罠のスイッチとかも見当たらんよ?」
「はあ?さすがにそんなこと無いだろ。これだけ部屋が傷だらけになってる理由がそこの男と誰かが斬り合ったとか考えたくないぞ」
そこまで答えてから響はふと違和感を覚えた。
破壊された教室内。無傷に存在している『後付け』の物体。
この工作室とほとんど同じような光景を響はすでに見ていた。そして、そこでも同じような違和感を覚えたことを覚えている。
響は改めて機械に向き直ると機械の隅々まで調べ始める。
(───っ、何か、あるな)
機械の少し奥まった辺りに何かが煌めいている。
それは見様によっては『カギ』にも見える何かだ。
(これを取り出せれば…って、機械の中なんだから機械のスイッチを見つければそれで解決じゃ───機械のスイッチ?)
そこまで考えて先ほど寧々が気になることを言っていたことを思い出す。
『響さん、この部屋、罠のスイッチとかも見当たらんよ?』
つまり、部屋の中には罠が無いように見える。
しかし、機械を動かして中にある『何か』を取り出すためには機械を動かすためのスイッチを押す必要があって、しかもそのスイッチは機械の側面に存在していた。
これを押せばおそらくだが『何か』は機械の中から出てくるだろう。
ここにある死体もそう思ったから機械を動かしたのではないか?
「…うーん」
「さっきからその機械見つめて何悩んでんの?」
「うん?中に何かあるんだ。そして、それを取り出すためにはおそらくだが機械を動かす必要がある。そして、機械を動かすためのスイッチは機械の側面に見つけた、わけなんだが──」
「んぁ~。なんとなくやけどわかった。これは、アレ、やね…?」
「たぶん、なんだよなぁ…」
二人は同じような結論に至っている。そもそもここまであからさまだとこの部屋に来るまでにあったことからも十分考えられることだ。
「…ん?」
そして、響はだからこそこの死体に疑問を持てた。
(俺達と同じプレイヤーだと仮定して。こいつもここに来るまでに罠の存在は理解していたはず、なんだよな?)
だとしたらなんでこの死体はばか正直に目の前の機械のスイッチを押したのだろうか?
ここまで来るのにあれだけの罠があり、しかもどれを取っても悪質極まりない罠の数々。
そんな罠の数々を見ていればこの部屋の状況と目の前の機械のスイッチの配置から罠であることは見抜けそうなものではあるが…。
「あっ、違うな。前提が違うのか…」
俺達はここまで来るのにあれだけの罠があったから目の前の機械に対して疑問を向けることができる。
しかし、この死体のプレイヤーのスタート地点がこの部屋で外にある罠に触れることなく、またこの部屋を調べていく内に機械の中にあるものを見つけたのだとすればどうするか?
「悩むことなく機械のスイッチを入れたんだろうな…」
その結果としてこのプレイヤーは死んだのだろう。しかも、おそらくだがゲーム開始まもなくに、だ。
「それを、罠を掻い潜ってきた端芽や楓、あとは死んだ女性プレイヤーがこの惨状を見つけたのだとすれば──」
そもそもがこのゲームは他人との協調だけではクリアは難しいはずだ。俺や寧々さんのように出会っていたりすれば多少は違うのかもしれない。
しかし、出会った矢先に『誰かの悲鳴』が聞こえて罠を掻い潜ってたどり着いた『部屋の中』には『胸を一突きにされた死体』があったとしたら?
「二人の反応の理由はわかった。あとは、二人の態度についてもな」
「響さん?」
「寧々さん。危険なのは百も承知なんだが、手伝ってくれ」
価値のあるものかわからないが機械の中の『カギ』。
命を賭けるだけのだけはあるかもしれない。




