Game-10 『カギ』を手に入れるために…
「協力すんのは構わへんし、むしろ望むところやけど具体的にはどないするん?」
「まずはそれを考えることから手伝ってくれ」
「えぇ~…。まったくの考えなしかい…」
「そうは言うけどな。罠の数とか種類がまったくわからない状態の今のままにスイッチ押すのはさすがに俺でも怖い」
さすがにノーヒントでスイッチを押せばそこの死体と同じ目に合う。それだけは勘弁願いたいところだ。
となれば当然だが、この部屋にどのような罠が点在しているか?ということになるのだが…。
「正直なところ、ウチには細かい罠はわかれへん…。ただ、天井に走っとる線のいくつかに違和感はあるわ」
「天井の線?」
言われて天井を見上げてみると確かに不自然な線のような隙間がいくつかある。それは明らかに建築時にできたような隙間には見えない。
「本当だな。気にしてみないとまったくわからなかった」
「あとはまったくわかれへん。この天井の仕込みは明らかに見たらわからんこともなかったんやけど、他のところ…例えば壁とかやけど天井ほどの明確なもんは見当たらん」
「いや、天井の分だけでもわかってるなら壁とかの分はそれらを補うために設置されてるだろうしな。それなら対処できるかも」
「──で?この『カギ』の取得にはウチか響さん、どっちがやんの?」
「いや、取るのはさすがに俺がやるから安心してくれ」
ここまでやっておいて『任せた』はいくらなんでも酷すぎるだろう。さすがにそこまで外道じゃない。
「とはいえ、そうだな…。寧々さんには扉の外で扉を押さえててもらえるかな?」
「扉を押さえる?なんでまたそんなことを?」
「嫌ぁな感じがするんだよな、この部屋の罠。この機械にスイッチ一つで全ての罠が動いて中にいる人間を殺すのなら、扉は閉じるのが確実だと思わないか?」
「まぁ、言われたらそうやろうけど…」
「過剰かもしれないが、やり過ぎるほどに警戒するに越したことはないさ」
「うん。わかった」
寧々は先に部屋を出るとスライド式の扉の窓枠に指をかけると足を前後に大きく開き、腰を少し落として踏ん張る体勢を作る。
「こっちは準備できたよ!」
「よし。それでは、鬼と出るか蛇と出るか、試してみますか!」
響は機械のスイッチを押し込む。
数秒間は何も変化は起こらなかったが、機械がカタカタと何かを出力するような音を奏で始めると中の『カギ』が少しずつ機械の中からせり上がってくる。
──そして、それに連動するようにソレラは起動した。
「──っ!」
まず起きたのは機械を囲むように落ちてきたギロチンの刃。すぐに手を引っ込めると空を切った刃は床の隙間へと消える──と同時に黒板に無数の黒い穴が開くとそこから矢が射ち出された。
矢は機械を盾に回避すると機械の側面から今度は歯車の刃が回転しながら飛び出すと挟み撃ちをするように横へと動く。
これを機械から離れることで避けた響だったが、不意に頬に温かさを感じて触ると切れていたのかべったりと血がつく。
(いつの間に…!)
そこで気づいたのは先ほどの矢が通り過ぎたライン上に鈍く輝く硬質な糸のようなものがわずかに見える。
(斬鋼線とか殺す気マンマンじゃねーかよ!)
姿勢を低くしていた響の鼻先数㎝を再び天井から落ちてきたギロチンが通り過ぎた。一歩前にいたら首が落ちていた。
続くのは機械回りの床に先ほど矢が放たれたような穴が無数に開く。嫌な予感とともに穴が開いた床部分から串刺しにするように円錐形の鉄柱が現れる。
「まだかよ、くそっ!」
壁や床、果ては天井から様々な形で罠が作動していく。罠を回避することを最優先にしつつも響は機械から目を離すことなく部屋の中を走り回る。
そして、そんな時間も5分ほど経ち、ようやく『ソレ』が機械の上に姿を現した。
「ようやく来た!」
矢を避けて、部屋中を走る斬鋼線を潜り抜けて機械の上に現れた『カギ』を掴み取る。すぐさま扉へと走る。
「寧々さん、よく耐えてくれた!」
「ええからはよ来んかい!ウチもええ加減手が痛いんや!」
罠が作動し始めると扉はゆっくりとではあるが閉まろうと動き始めていた。それを寧々は自分の持てるかぎりの力で抑え込んでいる。
「よし、これで──」
扉を潜り抜け──ようとした瞬間に悪寒が走る。このまま出たらマズイことになると何かが警鐘を鳴らした気がした。
「寧々さん、手を離せ!」
「──っ!」
寧々が手を離し響が扉を潜り抜ける前に急ブレーキ。一歩分身体を後ろに引いた瞬間、扉の隙間からギロチンが飛び出し壁の隙間へと消えていった。そして、響を閉じ込めようと勢いを増して扉が閉まろうと動く。
「こな、くそ、さすがにふざけんなよ?!」
急ブレーキをかけたとはいえ完全に止まったわけではない。手を伸ばして閉まろうとする扉の枠を掴むと身体に扉が擦れるのも無視して身体を引き寄せる。
思いきり扉に顔からぶつかるも鼻を打ち付けた痛みからか涙目になりつつも半分ほど閉まった扉の隙間を潜り抜けて部屋の外へと転がり出る。
その背後で扉が閉まる音とともに扉に何かが無数に突き刺さる音が鳴るとようやく静けさが戻った。
「はぁ、はぁ、はぁ…」
「響さん、生きとる?」
「はぁ…。あちこち傷だらけだが、なんとかな…。さすがに矢に毒物とかは、仕込まれてなかった、みたいだしな…」
あがる息を調えながらしゃべるために話す内容は途切れ途切れ。しかし、寧々は響の身体を見て言っていることは理解していた。
身体といわず頭の先──正確には額に真一文字に裂傷、頬にも同じような傷が左右に一ヶ所ずつ。服も上下であちこち切り裂かれていてその所々に血が滲んでいる。
もし毒物が罠に塗られていれば今目の前の人間が死にかけながらも息ができている可能性はかなり低いだろう。
「ほな、とりあえず傷の手当てから始めよか。身体お越してや、響さん」
「悪い。もうちょっと待ってくれ…」
苦笑する二人は工作室の前で束の間の休息を取ることになった。
★
─ ??? ─
その部屋は少し特殊な様相をしていた。一人の男性がイスに座り、その前の壁には十個ほどの小さなモニタとその中心に一つの大きなモニタが取り付けられている。
男性は自身の座るテーブルに置かれた水の入ったボトルに口をつけて大きなモニタに映る一組の男女を眺めていた。
「こいつらが要注意プレイヤーになるのかねぇ。他のプレイヤーにもけっこうヤバイやつはいるけど《ゲーム》のクリア進行度で見るならこいつらだよな」
男性はテーブルに置かれた紙の束を捲る。そこにはプレイヤー達の顔写真とプレイヤーナンバーが振られているのみで、他には何も記入されていない。
「こいつ、とこいつか。何を話してるのか聞きたいがこいつらの映るカメラはマイク無しなんだよなぁ。せめてマイク有りのところに居てくれたらいいんだが…」
数十分、画面に映る男女は止まっていた。が、それからはカメラの死角に入ったのか姿が見えなくなる。
「このモニタの数もなぁ…。せめて全カメラ分欲しいよなぁ。映ってるカメラ番号探すの面倒なんだよ…」
男性はぶつくさ文句を垂れながらもモニタを切り替える。
「映らないな…。仕方ない、気にはしとくが他のプレイヤーも気になるところだしな。今はそっちを優先するか。さてさて、プレイヤーの移るカメラは、っと──」
男性は独り言を呟きながらカメラの切り替えを行っていた。




