第八話 地球の異変③
龍之介は今アラサーだ。
この年になるまでに大体のことは経験してきた。もちろん、女系統は抜いて、だが。
だからこそ、そんじょそこらのことでは驚かない。その自身がある。
だが、こればっかりは無理であった。
「うわあああああ」
左ハンドルを急いで切る。
目の前の、よくわからない、狼の姿をした怪物が襲いかかってきていた。
狼だけど狼じゃない。第一、眼球が腐ってる。それに3メートル以上はあるその体躯。狼では考えられなかった。
そいつは急に出てきた。
彼が山道を運転していると、山から落ちてきたんだ。
そしてそのまま襲いかかり、今に至る。
車は、その場で180度回転し、きた道を戻り始める。
後ろからは、なお怪物が追ってきていた。
「流石に車よりは早くないか」
龍之介は少し安心しながら車を走らせる。
「それにしても、今のは一体・・・」
だが、彼が思考の沼にはまることは許されないようだ。
「おいおい、嘘だろう」
なぜなら、彼の目の前には、もう一匹、狼の魔物がいたのだから。
急ブレーキをかけ、車から降りる。
後ろを振り返れば、そこにはまた、同じ光景が、狼の魔物が住んでいた。
「これ、つんだな」
龍之介は、少し伸びてきたひげを触りながらつぶやく。
そしておもむろに武術の構えをした。
彼は己を至って普通のサラリーマンと称しているが、その実、そうではない。
その理由は、彼の経験の多さにある。
性欲を犠牲に、人間ができるほぼすべての経験をしてきた。
それが彼だ。
もちろんその中には武術も含まれているし、狼を殺したことだってある。
だが、本来ならば、かじった程度の武術では、狼、ましてや魔獣を殺すことなど不可能出会った。
そう、それだけであれば。
ーーー龍之介殿 あなたを世界で最初の、『勇気あるもの』と認めますーーーー
この声は、龍之介のみに届いた。
そして、次の瞬間、龍之介の肉体に光が宿る。
「こ、これは・・・」
その光は数十秒続いた。
そして、その光が収まる頃には、彼の手には、一本の剣が握られていた。
其の名を
勇者の剣
混沌とした世の中に、秩序と正義をもたらす剣である。
本来であれば、地球に存在はするはずがなかったが、なぜか剣のみ存在が証明されている。
龍之介は剣を持った瞬間、その命運を悟る。
己のではない。
醜き狼たちのだ。
「さあ、始めようか」




