決闘準備
濁拷会の建物は随分と大きい。
一階は武器屋を併設したパブでギルドメンバーらしき老若男女でごった返しており、階段を昇って二回にある修練場は天井も高くかなり広い。
さらにこの上には会議室やテレポト神を奉る神殿もあるのだから高さはどこまでになるか気になるほどだ。
さて……これからボクは年下ながらガッチリとした巨漢のカーマと戦うことになったわけだが、具体的には何で決着をつけるのだろう。
決闘と言うくらいなのだから一対一なのはまず間違いないのだろうが。
「神官様、俺とコイツの決闘を承認してください。」
「カーマ六位と……キミは誰だ? 初めて見る顔だが、序列認定は受けているのか?」
「ボクはトーコ。ブレイドには来たばかりの転生者なので、その序列ってのは持っていないよ」
「まったく……最近活躍がめでたいからと調子に乗ってはいないか? カーマ六位。下位どころか序列すら持たない新顔相手に決闘だなんて新人潰しにしては陰湿だぞ。神官として認めるわけにはいかない」
「待ってくださいよ。今回は俺の強さに興味を持ったコイツの方から挑んできたんだ。俺が矢面にたっているのはギルドメンバー同士の争いは決闘で決着をつけるって言う濁拷会教典に従ったまでのことですよ。なあ、トーコ」
コイツさっきと言っていることが違うぞ。
それに神官の前では敬語を使って下手に出るのだな。
そんなカーマの態度をボクは呆れた目線で見る。
だがここで「一方的にカーマに絡まれただけ」だという真実を神官に告げても面白くない。
ボクに失礼なことをし続けている彼は一発ガツンと叩いてやりたいし、それに彼にまるで歯が立たないようならキブたちが進めるように裏方や後方支援に精を出す方が得策だ。
ボクにも退却の二文字はない。
「彼の言うとおりです」
「お互い了承の上でなら認めるしかないか。だが序列もないと言うことはエーテルの扱いすら学んでいない証拠だ。エーテルを操れないと話にならないんだが、どうやって決闘を行うつもりだ?」
「エーテルチャブを使ったワンメイクチャンバラ。これなら神官様が言っている心配はありません」
「うむ。それなら安心だな。七番スペースが空いているからそこを使うといい」
「ありがとうございます。神官様」
「イッチ! 決闘の取り仕切りはお前がやれ」
「はい。わかりました」
受付をしていた神官の指示でイッチという少年に連れられて僕らは第七スペースに移動した。
場外を意味するのであろう囲い線が引かれているだけで何もない広い区画で、ここで決闘を行うようだ。
さきほどのカーマの台詞からするにチャンバラらしいのだが、さてエーテルチャブとは何のことであろう。
「決闘開始前に確認します。対戦者は序列六位カーマ対序列なしトーコ。エーテルチャブを使用したワンメイクマッチ。ルールはチャンバラ。これでいいですか?」
「待ってくれ。そもそもエーテルチャブって何だ?」
「え?!」
イッチの驚愕はボクの立場を把握していないと言うことだろう。ボクのことを「小さな子供でも知っている常識も知らない」とでも言いたそうな顔で見てくるのはさすがにいい気はしない。
「面倒だから教えてやってくれイッチ」
「わかりました」
そう言うとイッチは壁際に向かった。
そこには木剣や長い木の棒と共に竹刀の柄だけを切り取ったかのような何かが吊るしてあり、あれがエーテルチャブなのだろうか?
両手に一つずつそれを手に取ったイッチが戻ってくると、彼は片方をボクに手渡す。
「これがエーテルチャブです。柄をこうやって強く捻ればエーテルの剣が出て来るんです」
「こうか?」
言われるがままに握りこむと、柄から白い棒状の光が伸びた。
「この刀身はエーテルで出来ていて、思い切り斬りつけても相手を怪我させる心配がないんです。まともに当たれば痛いので、注意はそれなりに必要ですが」
「へぇ。原理はよくわからないけれど怪我も心配がないってのは練習用としては便利だ」
「軽くなら触っても大丈夫ですが、思い切りぶつけた場合は当たった相手を衝撃が襲う仕組みです。刀身を戻すときは柄をこうやってさっきと逆に捻れば戻ります」
「なるほどね」
ボクは試しに剣を出し戻ししたり軽く振り回してみた。
手応えとしては軽いが重みはあり木刀に近い。
初めて持つ道具だが竹刀や練習用にスポンジ巻きにしたパイプと比べたら手に馴染む。
転生の影響か血が騒ぐボクは、さきほどから失礼なカーマをお仕置きしてわからせてやりたい気持ちに駆られてきた。
「そろそろ準備はいいか? 短小包茎虚弱児」
「ああ。待たせたね独活の大木」
「それでは改めて……序列六位カーマ対序列なしトーコの決闘を始めます。取り仕切りは神官に見習いのわたくしイッチが勤めます。お互いに勝利時の要求をのべてください」
「俺は勝利の際には対戦相手……トーコを絶対服従の舎弟にする」
「ボクは対戦相手……カーマに一言言いたいことがある」
「承りました。濁拷会の教典にそって互いの主張を認めましょう。それでは決闘開始!」
さりげなくカーマの要求が絶対服従にエスカレートしているし、単なる喧嘩の延長でもなく濁拷会が決闘の要求を遂行するように見届けるシステムならば、これは思っていたより大事なのだろうか。
気がついたのは開始の寸前なのでもはや遅いのだが、これは是が非でも勝たなければなるまい。
だって絶対服従はさすがに嫌だし。




