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刀子月譚  作者: どるき
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カーマ・セマン

 神官長から説明を受けた会議室からパブまではエーテル式エレベータですぐに到着した。

 乗っている時間が長かったので、この神殿はなかなかの高層建築なのかもしれないとボクはふと思う。

 さすがに初めての場所と言うこともあってジロジロと辺りを見回してみると、ギルドメンバーとおぼしき先客たちの反応は二つに別れていた

 一つはボクの挙動不審な行動を逆に観察する者。

 そしてもう一つは興味なしと完全に無視する者。

 見知らぬ人間がエレベータで降りてくるという時点でボクが転生者だと宣伝しているようなモノなのかもしれないが、今のところ向こうから声をかけてくる人間はいない。

 無視にしても関心を持つにしても今は様子見ということだろうか。

 しばらくうろついていると目的の武具コーナーにたどり着く。

 ボクは早速、店番らしき三人のうち太った男にたずねた。


「初めましてだ店員さん。武器を見せてもらってもいいかな?」

「ああ、いいぜ。その格好に回りの目線から察するに、お前さんは新しく来た異世界人だろう? この世界は不馴れだろうし、色々と教えてあげるよ」

「ありがとう」

「ほどほどにしておけよ。新顔に優しくしても何も出ないぜキブ」

「そうそう。惚れっぽいのはキミの悪い癖だよ」

「うるせえなツジム、ザン」


 どうやらこの親しげで太った店員はキブと言い、店の奥にいる会計担当らしき痩せた店員はツジム、小柄な店員はザンと言うようだ。


「確かに今のボクはお金なんて持っていないが、魔物を退治すれば収入になるんだろう? すぐには払えないが体で返すから安心しておくれ」

「見るのは構わないし、ある程度は神官様が立て替えてくれるから遠慮せず武器を選んでくれ。だがいくら異世界人とは言えキミみたいな華奢な子が魔物の相手をするのなんて大丈夫なのか?」

「僕も同感だな。戦うにしてもエーテル銃や魔法弓での後方支援をおすすめするよ」


 ザンの心配は確かに一理あるだろう。

 ボクはまだ十六歳と若いのもあるが、パブに来て見回した人々と比べるとだいぶ小柄に当たるようだ。

 大柄な百八十センチは越えていそうな筋骨隆々の男は身の丈ほどの大剣や柄の長い槍や斧を持ち歩いているが、ボクと同じくらいの百六十センチ未満の人間は若い男でさえ剣を持っている様子はない。

 ナイフや鉈の類いなら持っている人もいるが、あれは武器ではなく野営の道具だろう。

 エーテルなる不思議な力があっても体格の差は覆せないのだろうか。


「心配してくれるのは嬉しいが剣を見せてほしい。それもなるべく反りのある刀を」

「刀はかっこいいから憧れるのはわかるが、その様子だとお前さんの出身世界は科学(テック)系か?」

「???」


 ボクは言われた意味がわからなくて小首を傾げた。


「科学系ってのは魔法が存在しない、または魔法なんて一般人には縁がない世界のことだ。魔法がないぶん総じてブレイドより科学技術が発達しているからそう呼ばれている。逆にブレイド同様に魔法が当たり前の世界は魔法(マジク)系」

「へえー」

「それでだな……魔法系出身のヤツは元の世界でも魔物だなんだは慣れてるぶん、最初から自分のやり方は決めてあって俺らの忠告なんて聞きもしないわけよ。逆に科学系出身はアドバイスは聞いてくれるんだが何て言うかだな……魔物のことを舐めているから無茶なことばかりやりたがるのが悪い癖なんだ」

「つまりボクじゃ、剣一本で魔物相手に立ち向かっても死ぬだけだと?」

「当たり前だ小僧」

「なっ?!」


 キブの言うことはおそらく正論なのだろうが、ボクだって国一番の剣士と称されたおじいちゃんから手解きを受けている。

 ボクを軽く見るのは構わないが、おじいちゃんとムガイの技を軽く見られるのは釈然としない。

 そんな反抗心を沸々と燃やし始めていたボクの後ろから野太い声。当然ながら振り向いたボクはつい目付きが悪くなっていた。


「見た目の派手さで魔物を倒せたら苦労はしない。これだから科学系のガキは嫌いなんだ」

「いきなり頭ごなしに暴言だなんて、何者だよキミは?」

「来たばかりのヤツに語っても意味もわからないだろうが教えてやろう。俺様はカーマ・セマン。邪竜百体斬りのカーマだ」

「ずいぶんと御大層な肩書きだ。お返しにボクも名乗らせてもらってもいいかな」

「むしろ名乗らずに逃げるつもりだったら斬っていたぞ」

「よろしい。ボクはトーコ……トーコ・月丹(ゲッタン)。ちなみにキミは何歳だ?」

十五歳(ジューゴ)だがなにか?」

「ボクは十六歳だぞ。態度でもしやと思ったが、年下の癖に随分と態度が大きいじゃないか」

「な! バカにしているのか?」

「事実を言っているだけだよ。だってボクが新顔だと知っていて、その上でケチをつけてくるのなんてガキの行動じゃないか。二十歳を過ぎたお酒の飲める大人がやることじゃない。髭も薄いし、同じ十代だろうなとは思ったがズバリってわけさ」

「酒と二十歳がどう関係があるって言うんだ。いちいち反抗的な野郎だな」

「ボクの故郷では飲酒は二十歳ってのを前提に話をしてしまってゴメンね」

「そうかい、俺様の故郷じゃ十七歳からだ」

「どっちにしてもキミはまだお酒を飲んではいけないお子様じゃないか」

「うるせえ!」

「面倒だから謝っておいた方がいいよ。カーマはブレイドに来て三ヶ月で頭角を表している剣邪討伐の達成者候補なんだ。口は悪いし態度もでかいが実力は充分だし、エーテルも操れない今のキミではとても勝ち目がない。まあ……邪竜百体斬りってのは自称でしかないんだけどね」

「ああん?」


 ボクを心配するキブの助言はその通りかもしれない。

 だがボクは目の前にいる彼に対して無性に腹が立っていた。

 彼にも彼なりにボクを怒る原因があるのもわかるが、その見え見えの虚栄心をへし折ってやりたくなったからだ。

 それにさきほどから彼がボクに向けるあることも訂正したい。


「いい機会だから俺様が直々に稽古をつけてやろうじゃないか。決闘(デュアハ)で勝てばお前の好きにすればいいが、負けたら俺の舎弟になれ。ちょうど後方支援をしてくれる相棒(サイドキック)が欲しかったところなんだ」

「その条件、受けてたつよ」

「こっちについてこい。ギルドの修練場に案内してやる」

「ありがとう」

「ちっ!」


 心配するキブをよそにカーマに従ったボクは修練場へと向かうことにした。

 神官長との約束は破ってしまうが仕方がなかろう。

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