第六章 魔法
魔法がある。
私は思わず身を乗り出した。
「どんな感じなんですか!? 火とか出したり?」
「ええ、可能です。」
カインは静かに頷いた。
「ただし、魔法は才能だけで扱えるものではありません。」
庭園へ移動すると、カインは噴水のそばで立ち止まった。
夕日が白い石畳を赤く染めている。
「魔法とは、“知識”です。」
「知識……?」
「魔力だけでは発動しない。術式を理解し、正しい詠唱によって世界へ干渉する技術。それが魔法です。」
そう言うと、カインは懐から細い銀色の杖を取り出した。
表面には見たこともない文字が刻まれている。
「杖……ですか?」
「ええ。術式を安定させるための道具です。杖だけではありません。宝石、魔物の素材、血液など、魔法によって様々です。」
カインは杖を軽く構えた。
空気が静まる。
そして、彼が何かを唱え始めた。
だが……理解できない。
それなのに、何故か力のようなものは感じる。
音としては聞こえている。
聞こえてはいるが、一つとして意味を結ばない。
言葉というより、“音の連なり”に近い。
「……」
次の瞬間。
杖の先に火が灯った。
ぽうっと浮かぶ小さな炎。
赤い光がカインの横顔を照らした。
「おお……。」
火は数秒浮かび、やがて静かに消えた。
「これが基礎魔法です。」
「すごい……。」
思わず見入ってしまう。
だが同時に、別の疑問も浮かんだ。
「今、何言ってたんですか?」
「分からないのも当然です。」
「この世界の言語は、覚えなければ理解できません。当然、詠唱も。」
その言葉に、私は固まった。
「もしかして魔法って……言葉を覚えないと使えないんですか?」
「当然でしょう。」
当然らしい。
「魔法は術式を言語化し、世界へ伝える技術です。正しい発音、意味、構成。その全てが必要になります。」
頭を抱えたくなった。
異世界に来たら魔法が使える。
そんな簡単な話ではなかった。
「ちなみに、独学はおすすめしません。」
「なんでです?」
「詠唱を間違えると暴発します。」
さらっと恐ろしいことを言われた。
「怖っ!?」
カインは平然としている。
どうやら冗談ではないらしい。
「ですので、まずは文字と言語からです。」
「うぅ……。」
結局勉強だった。
異世界でも勉強から逃げられないらしい。
だが。
それでも不思議と嫌ではなかった。
前の世界では、“やらされる勉強”だった。
でも今は違う。
言葉を覚えれば、魔法が使える。
知らない世界へ踏み込める。
カインはそんな私を見て、小さく笑う。
「焦る必要はありません。」
「はい。」
「あなたには時間がありますから。」




