第五章 鏡の中
自分がどんな顔なのか
変わってないのか
感覚としては幼くなっている。
あまり思い出したくはないが、青い目の女の子に連れられた時同じ目線だった。
部屋に案内され
そこには大きな姿見があった。
期待と同時に緊張していた。
自分の顔を確かめることに躊躇するなんて
考えもしなかった。
すっーと深く息を吸い込み覚悟を決める
鏡の前に立つ
そこに映っていたのは、見慣れているようで見慣れていない顔だった。
黒髪、黒い目
少し癖のある前髪
だが、年齢だけが違う
頬はまだ丸く、肩幅も狭い
「……子供か」
思わずそう呟いた。
身長は小学生くらいだろうか
百四十センチあるかないかくらいに見える。
転生したならもっとこう、美形になったり
強そうな身体になったりするものだと思っていた。
正直、少しがっかりした。
だが同時に、不思議な感覚もあった。
――やり直せる。
そんな感情が胸の奥にじんわり広がっていた。
前の世界では、何をやっても中途半端だった
才能もなかった。
努力しても、人より少しできる程度
それすら続かなかった。
でも今は違う。
この身体には、まだ何も積み重なっていない。
失敗も、後悔も、黒歴史も。
全部置いてきた。
鏡の中の自分を見ながら、自然と口角が上がった。
「……悪くないかもな。」
その時だった。
「気に入りましたか?」
後ろから声がした。
振り向くと、カインが部屋の入口に立っていた。
穏やかな笑みを浮かべている。
「まあ……思ってたのとは違いましたけど。」
「ははっ。私も最初はそうでしたよ。」
カインは部屋へ入り、姿見の横へ並ぶように立った。
「ちなみに、この世界では十五歳で成人です。今のあなたは十歳前後に見えますね。」
「十歳……。」
どうりで身体が軽いわけだ。
「この世界に転生者……。僕とカインさん以外にいるんですか?」
「どうでしょうね、私はあなたが初めてですから。」
「へえ……。」
「ただ。」
カインは少し真面目な顔になった。
「あなたは運が良かった。」
「……え?」
「街に入ってすぐ奴隷商に捕まった程度で済んだんですから。」
あの白い手。 青い目の少女。
助けてくれたと思っていた。
「あの子……仲間だったんですね。」
「ええ。恐らく“誘い役”でしょう。」
少し胸が痛んだ。
異世界に来て最初に出会った人間が、善意ではなかった。
だが。
「……でも。」
「?」
「泣いてる俺を慰めてくれたのは、本当だった気がするんですよね。」
変顔をしたり、笑わせようとしてきたり。
あれが全部演技だったとは、どうしても思えなかった。
カインは少しだけ目を細めた。
「この世界は、優しいだけでは生きていけません。」静かな声だった。
「ですが、悪人にも感情はあります。」
その言葉は妙に重かった。
しばらく沈黙が流れる。
「……さて。」
カインが空気を変えるように手を叩く。
「今後の話をしましょうか。」
「今後?」
「ええ。」
そう言うと、カインは指を一本立てた。
「この屋敷で保護されながら暮らす。」
二本目
「文字や言葉、この世界の知識を学ぶ。」
三本目
「そして三つ。」
カインは少し笑った。
「強くなる。」
その言葉に、胸が少し熱くなる。
異世界に転生したんだ道中の大きな動物
おそらく魔物なのかもしれない
冒険者だっているかも
魔法なんてあったら……
そういうものに、少なからず期待していた。
「……ちなみに。」
「はい?」
「魔法って、あるんですか?」
カインは微笑んだ。
「もちろんありますとも。」
その瞬間。
心臓が跳ねた。
失敗だらけだった人生。
何者にもなれなかった自分。
でも――。
この世界なら。
今度こそ何かになれるかもしれない。
そんな期待が、初めて胸の奥で燃え始めていた。




