1国外追放された日
初めまして夜風ほたるです。
閲覧いただきありがとうございます!
性別・年齢・職業とか関係なく好きなものは好きでいいじゃないか!と伝えたいがために書いてしまった物語です。
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それではどうぞ…!
絵画が好きな人。くまグッズが好きな人。
どちらも『好き』の形は同じはずなのに、前者の姉は認められて後者の私は認められない。どうして私の気持ちは認めてもらえないのだろうかと、ずっと思っていた。
くまグッズが好きな王女がいるのならば、くまグッズが好きな王子がいても不思議ではない。
そう気が付いたのは、国外追放されたあの日だった。
「………………可愛いな。触ってもいいか?」
無愛想な異国の王子が顔を赤く染めてそう言ったあの日、私の世界は変わった。
そして、その無愛想な王子が結婚相手に求めるものが『くまのきぐるみを着て一緒に寝てくれる人』だったなんてルルカはまだ知る由もない。
◇◇◇
まさか今日が国外追放される日になるとは思っても見なかったルルカは、くまグッズに囲まれて上機嫌だった。
くま柄のワンピースタイプの部屋着に身を包み、膝にはふわふわの白い毛並みのくまのぬいぐるみを座らせて、塗り終わったばかりの爪を見てうっとりとする。
「はぁ〜…やっぱり可愛い!今週も頑張って良かったわ」
自分で塗ったくま柄のネイルを見て、幸せを噛みしめた。
そんな彼女はリンゼル国の第二王女で、一週間前に十六歳の誕生日を迎えて成人したばかりだ。
今日は来客の予定も無く、一人で過ごせる貴重な休日だった。ルルカは休日になると決まって自室に籠る。なぜかというと、大好きなくまグッズに囲まれる空間が一番の癒しだったからだ。
ルルカの部屋には至る所にくまグッズがある。
テーブルの上にはくま型のドライフラワー、ソファーにはくま柄のクッション、カーテンも勿論くま柄、ベッドに至っては寝具一式がくま柄で頭の上にはくまのぬいぐるみが五体座っている。
「今日も相変わらず可愛いわ〜」
癒しの空間でソファーに腰掛けて、部屋中のくまを視界に収めて顔を緩ませる。それも束の間、思い出したくもない言葉が頭の中を過った。
『お前が嫁ぐ時には部屋のくまは全て捨てるからな!王女として恥ずかしくない振る舞いをしろ!』と父に怒鳴られた言葉だ。
ルルカには婚約者がいる。
成人したルルカは、一ヶ月後にその婚約者との結婚を控えていた。……つまり、大切な物が捨てられてしまうのだ。
どうして好きな物を集めてはいけないの?
どうして好きな物を身に付けてはいけないの?
どうしてくまグッズが好きなだけで恥ずかしいの?
どうして………
ーーー好きな物を否定されないといけないの?
好きな物を買い集めて部屋に置いているだけなのに、何が悪いのだろうか。くまグッズを買うお金は、自分で育てた花を商家に売って得たお金で買っている。邪魔だと言われても、自室の中にしか置いていない。なにがそんなにいけないのだろう。
くまグッズを可愛いと思うこの気持ちは、誰にも認めてもらえないのだろうか。
苦しい、悲しい、寂しい。
好きな物を認めてもらえないこの世界が苦しい。
ふわふわの白い毛並みのくまをぎゅっと抱き締めて、心にぽっかりと空いた寂しさを埋める。
この子たちとずっと一緒にいたい。
それが私の願いなんだ。
癒しの空間で心を落ち着かせていると、メイドが慌てた様子で部屋に入って来た。どうしたの?と声をかけるよりも先に、メイドは小走りで駆け寄って来て言った。
「急遽フォルタード様が見えられました!至急お召し物を着替えさせていただきます!」
ミハイル・フォルタード。ルルカの婚約者の名前だ。
返事をするより先にお気に入りの部屋着が脱がされていく。自分の好きな物が体から剥がされていく光景は、心を否定されているみたいで悲しかった。
「ルルカお嬢様、いかがでしょうか」
メイドに声をかけられるまでは、放心状態でよく覚えていない。気がついた時には大きな全身鏡の前に立っていて、髪もメイクも服も上品に飾られていた。
鏡に映る自分は、自分であって自分ではなかった。
「問題ないわ」
メイドにそう返事をして心を殺す。問題はない。だけど望んでいる姿ではないと胸の奥がズキズキと痛む。
高いヒールを履いて癒しの空間を後にする。
自室の扉を開けた瞬間から第二王女の仮面を被る、それがルルカ・リンゼルだった。
客間に案内されて入室すると、そこには婚約者のミハイル・フォルタードと、父であり国王のダラス・リンゼルが向かい合わせに座って待ち構えていた。
「お待たせ致しました。フォルタード公爵様、本日はお越しいただきありがとうございます」
婚約者に微笑みかけて、ドレスの裾をつまんでカーテシーをする。
「もうすぐ結婚するんだ、そんなよそよそしい呼び方ではなくてミハイルと呼んでくれないか?」
婚約者は手でルルカに座るよう誘導しながら、困った表情をした。確かに言われた通りだけれど、ルルカにとって呼び慣れたものを変えるには時間が必要だった。
「善処しますわ」
顔に熱が集まるのを感じながら、父の隣に座る。
婚約者は赤らむルルカの顔を見てにこやかに笑い、視線をルルカの顔から下げていく。そして、一点を見つめて顔を引き攣らせた。
あれ…?この服、気に入らなかったかしら?
婚約者の表情の変化に不安が芽生える。恐る恐る引き攣っている顔の視線を辿り、ルルカは視界に入ったものに頭が真っ白になった。
視線の先にはくま柄のネイル。
よりにもよってカラフルに塗ってしまったそれは、少し離れた距離から見ても目立っているに違いない。
落とし忘れてたーーーーっ!!
なんでこんなに目立つ色なのに気付かなかったのかと、数分前の自分を殴りたくなった。この数秒間、何も言ってこない婚約者に不安を通り越して恐怖すら覚え始める。
フォルタード公爵様は何を思っているのかしら…?
もしかして……婚約破棄とか……?
ルルカは目の前の婚約者に気を取られていると、婚約者よりもくま柄のネイルを見せてはいけない人が、横からそれを見てしまった。途端に部屋の空気が凍り地獄へと変わる。
眉間に深い皺を刻んだ父が、わなわなと肩を震わせて声を荒げた。
「恥知らずなお前はこの国から出ていけ!」
父が振りかざした両手がテーブルを叩きドンッと音を立てる。その勢いのまま立ち上がった父が、唖然としている婚約者に申し訳なさそうに謝罪を口にした。
「すまない。こんな恥知らずの娘など嫁には出せない。今日、この時をもって君とルルカの婚約を破棄させてもらう」
国王である父が謝罪した。それは事の重大さを物語っていて、咄嗟に言葉が思い浮かばない。婚約者も聞いた言葉を理解しきれていない様子で、無言のまま口が開いていた。
「失礼する」
耳の鼓膜を刺激する父の足音が、心までもを刺激して不安が溢れ出す。
「父様!お待ちください!」
離れゆく父を必死に止めようと声を張る。父がこの部屋から出て行ってしまったらもう撤回は叶わない。だから必死に呼び止めようとした。
ルルカの声の後に婚約者も血相を変えて立ち上がる。
「私はルルカとの婚約破棄は望んでおりません!どうかお考え直しください!」
婚約者は父に深々と頭を下げて請う。
父は背中で二人の声を聞いたまま、振り返らずに部屋を出て行ってしまった。パタンと扉が閉まる無機質な音が、第二王女ルルカ・リンゼルの耳に届いた最後の音だった。




