ステーキハウス編 後編
「あーくそ、また余計なやつが出てきやがった」
西村は、怒り心頭で胸倉を掴みかかる女の後ろに、ある男の姿を見た
その男は、先ほど店に来た環境活動家だ
「牛のメタンガス問題って、地球単位じゃねぇかよ!
牛を殺すのはいいとして、わざわざ焼く必要あるのかよ!」
その瞬間、時が止まった感覚がした
キッチンには誰もいない、ただ空虚に肉が焼かれる音がするだけだ
キッチンスタッフは、西村が女と喧嘩している途中にバックレた
「……今、なんて?」
「誰だお前、出てけよ
今そこのクソ店員に話しかけてんだよ」
「あなた、牛を殺すとか言ったよね…?」
西村は乱暴に突き放される
女は、男に掴みかからんとする勢いで詰め寄る
「あぁ?いいだろ別に、メタンガスが減って
地球環境が守られんのだから」
直後、平手打ちが飛ぶ
男は意味が分からず、叩かれた頬を抑える
「この……エゴイズムのクズがぁ!!!」
女は飛び掛かり、食器が飛び散る
男は張り倒され、応戦しだす
「地球環境のためとか言って、全部自己肯定のためなんでしょ!
このゴミクズ!人を攻撃するための口実が欲しいだけなんでしょ!」
「そっちこそ!お前が気に入らないやつを攻撃したいだけだろ!
本当に動物のことを思ってんのか!この自己中野郎!」
「…クソ、めんどくせぇなこれ」
西村はどうするか少し悩んだ
取っ組み合いの大喧嘩が始まってすぐキッチンに避難は出来た
このままでは流血沙汰どころか、互いに殺意を持っていて
今すぐにでも殺人事件が起こりかねない
「……いや、どうせなら……」
だが西村はこの状況すらも利用することを決めた
西村はキッチンから出て、仲裁を始める
「ちょっと待て、お前らの気持ちはよくわかる」
「はぁ!?馬鹿言ってんじゃないわよ!!」
「あぁ!?お前なんかにわかるもんか!!」
「お前は地球の環境を守りたいんだろ?
それでお前は動物が可哀そうで守りたいんだろ?」
「だからなんだよ」
「互いに攻撃するべきじゃない、諸悪の根源がいるんだ」
「…それって」
「そう、■■だ」
数刻の時が止まり、争っていた男と女は理解した
「確かにそうだ、あいつさえいなければ…」
「えぇ、牛がこれ以上ここで死体蹴りされることはなくなるわね」
「そうだ、俺が合図を出すからその時に…」
西村は作戦を伝える
自分で考えられぬ愚か者の男と女は、西村の言葉を簡単に信じ込んでしまう
恐らく、詐欺罪の検挙数が減らない原因だろう
時間が経ち、西村は一人キッチンに立つ
店長はこの事態をバックレた店員から聞き出し、今店に向かっているようだ
ホールは滅茶苦茶、机はひっくり返り、食器は割れ地面に刺さり
床は油や水、ステーキソース、ステーキで汚れ切っている
「……どういうことだ」
キッチンのスタッフルームにつながる扉から店長が現れる
想像以上に酷い光景に、目元が影で覆われたように見える
「西村、説明しろ」
「あー、客が勝手に喧嘩してこうなった
理由は思想の食い違い、以上」
「…わかった、だがまだ帰るな
俺から話しておきたいことがある」
西村は、静かに舌打ちをしたつもりだ
だがその行為がより店長の握りこぶしを震えさせる
「警察を呼ぼうと思わなかったのか?
客が怪我を負ってないか心配じゃないのか?
お前は店員だろう?なぜしなかった?」
「だから何?
どうして俺がやらないといけないんだ?
飛んだキッチンのやつらがいただろ、そいつらは?」
店長はため息を吐き首をふる
「そいつらには、やる気がなかったんだ
それに、この場に連れてくることもできない」
「それ、八つ当たりだよな?
全員の責任を俺が一人で背負えと?頭おかしいのか?」
「それ、暴論だよな?
あいつらの責任をどうやって果たせと?頭沸いてるのか?」
「なんのための上司という役割だ?
仕事を任せて責任を取るものだろ?
お前は仕事と責任、押し付けてるだけ
存在価値は?無いに決まっている」
「なんのためのアルバイターなんだ?
任せた仕事を責任もってするものだろ?
お前こそ仕事と責任、押し付けてるだけ
雇用する価値は?無いに決まっている」
「俺は仕事、やってるが?
あくまで接客するだけ
仲裁?警備?俺の仕事じゃない
マネジメント能力が足りていない」
「お前仕事、やれてないが?
何が接客するだけだ
仲裁も警備もお前の仕事だろうが
忠誠心が足りていない」
「忠誠心なんてクソくらえ
あんなの、独裁者の手綱だろうが
人が勝手にお前のために動くと思うな
妄想は他人に垂れ流すな」
「反抗心なんてクソくらえ
あんなの、わがままの言い訳だろうが
お前が自分勝手に動けると思うな
暴走で他人に迷惑かけるな」
「じゃあ辞めます
貴様みてぇなクズ野郎の元で働く義理はない
とっとと潰れて死ね、灼熱地獄の鬼が」
「じゃあ損害賠償
ここまで荒らされて黙っている義理はない
とっとと金出して去ね、傍若無人の屑が」
「ッチ、じゃあ辞めない
むかつくけど、働いてやる」
「その態度もむかつくな
お前の給料、半分にするから」
ついに西村が折れた、店長はそう思った
だが、あり得るだろうか?
脊髄のすべてが反骨精神で出来ているような西村が
そう簡単に理不尽に折れるのだろうか?
だが、次の瞬間予想だにしないことが起こった
「くそったれが!!!」
西村がいきなり、シンクを蹴った
轟音が鳴り響き、大きな凹みと濃く残った足跡が付けられる
「何してんだお前!
今ここで損害賠償請求したっていいんだぞ!おい!」
店長は西村に食い掛り、説教をしだす
しかし西村はいつものように説教を一切聞いていない
「お前のような奴がいるから…」
しかし、説教は突然終わりを迎える
店長がいきなり殴られたのだ
そして店長の後ろから、二人の人間が出てくる
「死ね!このクズ!
排気ガスを出すと環境が悪くなるだろうが!」
「くたばれ!ゴミ!
牛や豚、鶏にその他に地獄から謝りなさい!」
そう、西村が言いくるめた環境活動家とヴィーガンだ
店長を二人係で殴り続けている
西村はそそくさとレジから金を盗み店を出る
もちろん、レジはちゃんと壊して証拠はもみ消した
「さて、ゴミは一網打尽するに限るな」
西村は警察に通報し、家に帰った
後ろからは赤色の光が周期的に光り、警察の到来を知らせている
だけど西村は振り返りもしない
ステーキハウスをバックレてから1か月半、西村は家でテレビを見ていた
ニュース放送を見ているようだ
「熱中症注意ねぇ、あの灼熱地獄よりかはマシだろ」
その時、衝撃的なニュースが流れる
『本日、リニアモーターステーキ殺人事件の判決が下されたようです』
西村は当然ながら、半休を取り麦茶を飲んでいた父親もモニターに視線を向けた
『1か月半ほど前、ステーキハウス、リニアモーターステーキで発生した撲殺事件の被告人二名は、無期拘禁の判決を下されたようです…』
ニュースを聞いていた父親は、西村に質問をする
「なぁ英城、このニュース知っていたか?
なんでも、店長が殴り殺された事件らしいって
怖いよな~、英城も気をつけろよ」
「へぇ、そうなんだ」
「……あれ、そういやお前
1か月半前って、リニアモーターステーキで」
突然、扉が開く
そして母親が求人票を一枚持ってリビングに入ってくる
「英城!また無職期間を増やすつもりなの!?
ステーキハウス辞めてからまだ働いていないじゃない!
お母さんコンビニに履歴書送っといたからね!」
「は?まじかよ」
「ま、七転び八起きって言うしな
英城、コンビニバイトがんばれよ」
「…クソが」




