コンビニバイト編 前編
「…暇だ」
彼は西村 英城
数日前は無職だった男だ
「ここ人来ないんだよな、まぁ楽して金もらえるならいいけど」
このように、見事なクズである
しかし、そんな暇をしている場合ではなくなる
火のない所に煙は立たぬ、人が来ないのにも、理由は必ずある
立地か?知名度か?ブランドイメージか?……どれも違う
「…どうせ人来ないなら勝手に休止中のあれ置いとくか」
ほかに働くものは見当たらない
そのため、すべてのレジが休止状態になった
この店は、セルフレジがない店だ
普通の客ならば、待つなり別の店に行くなり
公然秩序を守る方法で解決を図るだろう
しかし、客が寄り付かない理由であり、常識を知らない者は無慈悲にやってくる
「おい!!どういうことだ!!」
そう、迷惑客である
彼らは店に支払った金銭以上の損害を与えるケースが多い
普通の店の常識ある店員なら、宥めるためへりくだり落ち着かせることが多い
だが、この店にはそんな常識ある店員はいない
「すべてのレジがしまっとるぞ!店員が休むな!!」
迷惑客は持っている杖で地面を強く何度も叩く
大声で喚き散らす、それが、悪魔の召喚の合図となった
「…んだよ、ジジィ、俺今休憩中なんだけど?」
なぜ西村は、数日前まで無職だったか
それは、彼の最低最悪な特性が災いしてのことだった
西村は沸点が非常に低く、生意気な物言いが特徴だ
いくつものアルバイトを転々とし、就労先でいつも喧嘩をする
「あぁ?若造がなめるな!!今の日本を築き上げたのは誰だ!?」
「そりゃ、昔の政治家だろ、お前政治家だったのか?」
そう、このように売り言葉に買い言葉で相手を怒らせてしまう
西村はこういう時だけ無駄に頭が切れる
「ちがう!!政治家だけじゃなく、わしらの世代あってのことだ!!」
「そうすか、じゃあ今の日本にいらないのでとっとと死んでくれ」
「なんてことを!!老人に敬意はないのか!!!」
「はぁ、いいか?敬意は払うだけ無駄だ、使わない月額サービスみたいなものだ」
「さー??んん??
わからん言葉を使うな!!敬意を払え!!そして働け!!」
「それ、お前がいうことか?
主張をしたいならもっとまとめてから話せ
まず何をしてほしいか、次に根拠、最後にメリットとデメリットだ」
「これは主張じゃなくて命令だ!!ご老人の言うことには従え!!」
「命令?寝ぼけてるのか?
今の立場考えろ、お前は店の害になる暴漢、俺は店を守る店員
追い出すのは容易、お前に足りないのは用意、その思想はもはや妖異」
「が…ぐぐぐ……」
「わかったら出てけ、右回って進め」
「お、覚えていろ!!必ず復讐してやる!!」
「その老いぼれた体と頭で何が出来るのやら」
これが彼の本気のレスバトル力
社会生活において何一つ必要性のない力だけはピカイチ
おそらく、ほとんどを罵倒で構成したラップバトルなら勝てる者は皆無だろう
だが西村にはラッパーになる気は一切なく、なったとしてもいつか炎上するだろう
「さーて、ちょっとは働いてやるか」
西村は乱雑に休止中のパネルをどかす
だが、迷惑客ばかり来ることで有名か、客は訪れない
2分もたてば、カウンター内の椅子に座り、スマホを眺める西村
普通の店じゃ考えられない光景だが、この店ではこの異常こそ普通だった
「……最近のUNKNOWN、なんだか治安悪いな」
内容は見ていないが、おそらくこの店の治安より
マシだと思われる
数十分たち、新たな老人が現れる
顔のしわは眉間によっており、常に怒っているような気難しい印象を与える
「ッチ、客かよ」
幸か不幸か、その言葉は老人の耳には届かなかった
老人は、わずかに不安定な歩き方で酒と卵1パックを持ちレジに向かう
もし、ここで老人が酒を買わなければ平和に終わっただろうか
(酒かよ、年齢確認させんのくそだるいのによ、ふざけやがって)
西村は、少しだけいつもより乱暴にレジリーダーで商品のバーコードを読み取る
酒をレジ台に置くとき、苛立ちが伝わったか少し音が鳴り缶の中で酒が揺れる
卵も同じく、よく見ればわかる程度にヒビが入った
「……年齢確認お願いしまーす」
その言葉に反応して、眉間のしわが一層深くなる
老人は、大きく口を開く
「わしが未成年に見えるのか!?」
西村は、年齢確認ボタンを指さす手に力が入る
(くそが、もうこの店で酒取り扱うのやめろよ)
「…義務なので、ボタンをちょいと押すだけだろ」
「昨日も行っただろ!!なぜわからん!?学習しないのか!?」
「あなたいつも卵1パック買ってますよね?昨日も買ってましたし
本当に学習するべきなのはあなたでは?」
「お前、店員ごときがわしに楯突くな!
わしはペリカン商社の元部長だ!立場をわきまえろ!」
「はぁ、いるんだよな、こういう浅はかなやつ
だからなんだよ、ペリカン商社の顔に泥塗るような真似すんなよ
お前家族は?知り合いは?そいつらが見たら失望するだろうな
“元“部長なのもうなずけるな、管理職がこんな人間性しているなら
こんなことする暇あるならもっと老後の為になるようなことしろよ
あーあ見てられないな、ちっぽけなプライドに振り回されて
たかがこんな関係もないようなコンビニで偉ぶって」
「き、貴様ぁぁぁーーー!!!!
こんなに言って、そう簡単に許されるとでも!?」
「だから何?お前に許してもらう必要は?
誰にもその権威を振りかざせると思いあがるな
本当にペリカン商社で働いたのか?その態度で
お前の言葉一つ一つが嘘くさく感じるんだが
よくそんな信用性の欠片もないような言葉で就職できたな
それで本当はどこで働いてたんだ?言ってみろ」
「こ、こここ、こんのクソガキがぁ!!
今ここで教育をしてやっても…」
「と、ここまで言ってもお前は理解しないし反省もしない
だからここまでの言葉に意味はないよ、ここが一区切りだ
お前は虚像に八つ当たりしただけで何も成してないぞ」
「ふんがあぁぁぁーーー!!!
人をここまで舐めくさりおって!!許さん!!」
「人を舐めくさっているのはどっちだ
関わりが一切ないやつに権威振りかざせるほど偉いのか?
残念だが俺に権力は効かない、わかったら回れ右で進め」
「くっ………この、あんぽんたんが!!」
老人は、激しい怒りを抱え込みながら酒と卵を乱暴に取って帰っていく
「あ、金…まぁいいか、どうせ俺の給料に影響ないし」
西村の、社会不適合さは、時に才能となる
だが、その才能は社会で生きていくには非常に不利になる
誰にだって得意不得意はある
だが、それは社会に定められた規定内での話だ
誰だって、暴力が得意な危険人物とは一緒に過ごすことは出来ない
そうやって、爪弾きされた者はどう生きるのだろうか
意外な職に就いて生きるかもしれないし
ゴミを漁ってその日の飯に困りつつ生きているかもしれない
社会から拒絶された世界
もしもそんな世界があれば、どんな世界が広がっているだろうか
tips :UNKNOWNは、現実で言うYの前の文字のSNSのこと
由来:アルファベットは時に、数学とかで不明な数字として扱われることがある




