episode1『If it is destined』
もしあの時、彼に出会ったのが私でなくて文様だったら
もしあの時、もしあの時……
いくつもの偶然が重なり、私は彼と行動を共にした
それが私に何をもたらしたかは定かではない
私はこの奇妙な出会いと経験を、心の奥底にしまうことにした
他の誰の物でもない
大切な、大切な私だけの思い出だから……
「どうも皆さん。私です、清く正しい射名丸です!」
「文様、どこ向いて喋ってるんですか?」
「いやぁ、なんか誰かに見られてる気がして」
文は椛に向き直ると、ポケットからスケジュール帳を取り出す。
妖怪の山は秋真っ盛り、紅葉した木の葉が綺麗な絨毯を作っていた。
「今年ももう秋ですねぇ。秋と言えばやっぱり食べ物の季節ですよね!」
「また食べることですか……太りますよ」
「私は取材であちこち飛んでるので全然太りません! そういう椛こそ太ったんじゃないんですか?」
また二人の間にしょうもない言い合いが始まる。
お互い一歩も引かなかったのだが、今回は椛が急に話題を変えた。
「ところで、今日は紅魔館まで取材なんですよね。こんなところで油を売ってる暇はないと思うんですが……」
「ふむ、それもそうですね」
ようやく仕事モードに戻った文はスケジュール帳を開くと、今日の予定の確認を始めた。
今日は紅魔館まで出向いて、門番から連載記事の下書きを受け取らなければならない。
「あの居眠り門番の太極拳連載が人気なのは癪ですね」
「そんなにですか?」
「まあそれ目当てに新聞を取る人も出て来ましたからね。里でも妖怪の山でもちょっとした太極拳ブームです」
「へー……」
椛はあまり興味がないのか生返事を返す。
「で、それって私もいないとダメですか?」
「えーっと……」
言葉を濁す文を睨む椛。
頬をかく文は苦笑いしながら必死に言い訳を考える。
正直なところ、メイド長撃退用の用心棒程度にしか考えていなかった。
「また私を置いて逃げるつもりじゃないですよね」
「ギクリ……」
「口でギクリなんて言わないで下さい。まさか本当に私を盾にするつもりで?」
「それは……そう、アレです。『ここは任せて先に行け』ってやつです」
「それ完全に死亡フラグじゃないですかぁ!」
予想通りの反応に思わず声を荒げる椛。
文も椛を必死になだめるが仏の顔も二度三度、椛はついに怒りだしてしまった。
「そう言わずに、お願いしますよ椛」
「私毎回その役じゃないですか! いっつもわざわざ当番を代わってもらってついて行ってみれば、博麗の巫女にカツアゲされたり、半人半霊にいきなり切り掛かられたり、悪酔いした座薬の愚痴を延々と聞かされたり、黒白に弾幕の盾にされたりと毎回毎回大変な目に合わされてるんですよ!」
「そこをなんとか、お願いします!」
「今日こそマシな頼み事かと思えばまた用心棒ですよ? もう嫌です!」
「そんなぁ……椛ぃ!」
「だいたいあなたって人は……」
話の途中で急に黙ってしまった椛。
不審に思った文は椛の顔を覗き込む。
「椛?」
「あ、文様。後ろ、後ろ!」
「へ? え? えぇぇ!!」
急速に開くスキマは、近くにある物を吸い込んでいった。
剣を地面に突き立てて何とか吸い込まれないようにしている椛。
何も掴まるものがなかった文も必死にもがいて何とか椛の足に掴まる。
「ちょっ、文様! 痛い、痛いです!」
「そんなこと言わずに助けて下さい!」
しかし結局剣一本では二人も支えることは出来ず、剣は地面を掘り起こして抜けてしまう。
「あ……」
「え?」
宙に浮いてしまっては何も出来ず、文と椛はスキマに吸い込まれてしまった。
「何でいつもこんな目にぃぃぃぃぃぃ!」
椛の叫び声と一緒にスキマはその大きな口を閉じた……
「ん、んん……うぅ」
まだ意識がぼやける椛は頭を軽く振ると、まず周りの状況の確認を始める。
どうやら石か何か、変わった素材で作られた建物の隙間に転送されたらしい。
「文様……大丈夫ですか?」
返事はない。
代わりにいつも使っていたメモと、羽根が2枚落ちているだけだ。
椛はそれらを拾い上げると、とりあえず通りらしきところまで出てみることにした。
(ここはどこだろう。もしかして外の世界? だとしたら早く文様を見つけないと大変なことに……)
頭だけ出して通りを覗き込む。
この世界の人らしき男が二人、棒のような物を抱えて立っているだけで他に人影はない。
(あの人達から何か聞こうか……)
一応背後を確認してメモ帳と羽根を袖のポケットにしまうと、椛は通りに出た。
「あ、あのーすいません」
「ん? なんだ貴様は。妙な格好をしているな」
「おい、証明書を見せろ」
一人は耳にかけた通信機に向かって何やら話している。
もう一人は棒の先を椛に向けて微動だにしない。
(証明書? 何だろう)
戸惑う椛。
当然証明書なるものを持っているはずもなく、椛はただ立っているだけしか出来なかった。
「あの、証明書って?」
「何? 証明書を持ってないだと?」
「やはりな。その変な格好をした女を連行しろ!」
男が椛の手に輪をかける。
一人は椛の耳を掴むと思い切り引っ張った。
「ちょっ、痛い、痛いです!」
「おとなしくしろ! よそ者め」
男の手を振りほどこうとする椛だったが、抵抗虚しく護送車に押し込められそうになる。
「やめて下さい! 誰か、誰か!」
「待てよ」
声の主は男の手を掴んで引っ張る。
「何だ、邪魔をするなら貴様も連行するぞ!」
「まあまあ落ち着けって、そいつは俺の連れだ」
「証明書を出せ」
「ほらよ。さぁ、彼女を離してくれよ。あと女性は丁寧に扱うことだな」
声の主の男は胸のポケットからカード状の何かを取り出すと男に渡した。
引ったくるように奪う男。
やがて通信機で一言二言話した後、椛を力任せに解放した。
「きゃっ!」
「おいおい、丁寧にって言ったばかりだろ」
「黙れ。今後またその格好でうろついていれば即時連行だからな」
「はいよ、じゃあ行くぞ」
「えっ、ちょっと!」
椛は男に連れられてまた路地裏に入って行った。
細い路地裏を右に、左にと走る。
ある程度走った後、男はいきなり立ち止まって後ろを振り返った。
「追って来ないみたいだな」
「あの……ありがとうございました」
「まったく、この街は今勝手な出入りが禁止されているのは知ってるだろ?」
男は額の汗を拭うと、ジャケットの衿で顔を扇いだ。
「今すぐこの街を出な。俺が送ってやる」
「え、ちょっと待って下さい! 私はまだ……」
「また捕まることになるぞ? 早く出た方がいいって」
仕方なく事情を話す椛。
自分が別の世界から来たということ、自分ともう一人この世界に飛ばされているということ。
男はあまり信じてなさそうだったが、やがてふんふんと頷いて腕を組んだ。
「なるほどな、とりあえず事情はわかった。だがここにいればまた見つかって捕まるぞ?」
「…………。」
ゴミ用のケースの上に座って押し黙る椛。
男はため息をつくと、椛の目の前に手を差し出した。
「仕方ない、ついて来な。なんとか頼んでみよう」
「いらっしゃいませ! カフェ『キャッツテール』に……ってケイじゃない。買い物は終わったの?」
「ああ、けどちょっと面倒なことになってな。フェイスさんは?」
「パパなら厨房よ。あら?」
ケイと呼ばれた男の後ろに隠れていた椛は、いきなり目の前に現れた女の子に驚いて後ろに飛びのいた。
女の子の方はと言うと変わった格好をしている椛に興味を示したのか、ほっぺをつついてみたり耳を触ってみたりと椛に近付く。
「ちょっと、ひゃあ!」
「ひゃあ! だって。かぁわいぃー! ねぇねぇ、もしかしてケイの彼女?」
「違う。ほら、ミオリは放っといて行くぞ?」
ケイは椛の手を掴むと、ミオリのわきをすり抜けて店の奥へと入る。
厨房の戸を開けると、焼きたてのパンのにおいや、コーヒーのにおいが一気に溢れ出てきた。
「おいしそうなにおい……」
厨房では一人の男の人があっちへこっちへと忙しそうに歩き回っている。
ケイは持っていた袋を適当な場所に置くと、上着を近くのハンガーにかけた。
「ちょっと邪魔にならないところで待っててくれ」
それだけ言ってケイは厨房の外に出て行った。
客とミオリが何やらもめているようだ。
「はぁ? てめぇらの不手際だろうが! すいませんって頭下げて謝れや」
「何回も言ってるけど、うちに金髪の従業員はいないよ。ほら、金だけ払って帰った帰った」
相手は男が二人、ミオリにコップを突き付けて怒鳴っている。
ケイはペンを胸ポケットに挿してお盆だけ持つと、ミオリの元に歩み寄った。
「どうかしたのか?」
「ケイ、聞いてよ! こいつら、自分の髪の毛コップに入れて怒鳴ってくるんだよ」
「あー、そういうこと」
「んだよてめぇ、ぁあん?」
「御自分で髪の毛を入れられたなら謝罪もしませんし、返金も致しません。代金だけ払ってお引き取りを」
「どうやら痛い目に会わねぇとわからないようだな」
ケイを睨んで指を鳴らす男達。
その様子を厨房から見ていた椛は、ケイを助けるために急いで外に出ようとする。
しかし、それはいきなり腕を掴まれて止められた。
振り向く椛。
腕を掴んでいるのはさっきまで厨房で動き回っていた男だ。
「あいつのことなら心配するな」
「でも……」
「まあ見てなって」
ニヤニヤしながら店の方を見る男。
わけのわからない椛も仕方なく黙って見守ることにした。
「おいガキ、謝るなら今のうちだぜ?」
「あっそ。んじゃ、そっくりそのままお返しします」
「んだとてめぇ!」
男の渾身の右ストレート。
ケイは軽く身体を捻って横にかわすと、男の右腕を掴んで引っ張る。
男は大きくバランスを崩し、そのままケイの右足につまずいて床に倒れ込んだ。
「いってぇ!」
「てめぇ、ナメんなよゴルァ!」
残った方の男は蹴りを繰り出す。
「っと」
机が邪魔で今度ばかりはよけられない。
仕方なくケイは手に持ったままだったお盆の角を突き出した。
ゴッ
鈍い音と共にお盆の角はすねに直撃、男はうずくまってすねをおさえる。
「うぅ……」
「ちょっとは懲りたんでしょうね? さぁ、さっさと金を払って帰りな」
最初の男の肩を踏み付けて満面のドヤ顔を浮かべるミオリ。
結局男達は金を払い、逃げるように帰って行った。
「紫様、どうするんですか! 本命の転送に失敗するなんて!」
八雲邸の一室、藍は計算式をものすごい早さで書き立てながら頭をわしゃわしゃとかく。
確かに転送には成功したのだが、二人を同じ場所に出現させることに失敗したのだ。
藍はその問題を解決すべく、転送された先を計算で導きだそうとしている。
「わかってるわよ! 橙、白狼天狗のトレースは頼むわね」
「がってん!」
橙は紫に敬礼して見せると、またスキマの中を覗く。
白狼天狗、椛は今店の閉店準備を手伝っていた。
「紫様、もし鴉天狗が見つからなかったらどうするんです?」
「橙、もし……はないのよ。絶対に見つけなければならないの」
紫は藍の計算式に目を通しながら橙の質問に答えた。
この世界、特にこの街はよそ者を徹底的に排除している。
見つからないということはすなわち、死に繋がる。
(絶対に、何としても見つけ出す……)
転送失敗はスキマの設定を誤った自分のミスだ。
計算式が書かれた紙を握る紫の手にも力がこもった。
「へぇ、椛ちゃんって言うんだ! 私はミオリ、ミオリ・カルマン。よろしく!」
「よ、よろしく……」
閉店後の店内で椛達はテーブルを囲んでいた。
椛もとりあえず自分の名前と、今までの経過を他の三人に話す。
一度聞いたことがあるケイは軽く聞き流していたが、他の二人、特にミオリは興味津々だ。
どうやらこういう類の話が好きならしい。
「ふむ、それが本当なら大変なことだな。もしかしたら既に奴らに捕まってるかもしれん」
さっきまで厨房にいた男、フェイス・カルマンは自分のコップに水を注ぐと、それを一気に飲み干した。
「今日はもう遅い、うちに泊まるといい。幸い部屋は余ってるし、二人も異論はないだろ?」
「同じ居候の俺に異論を唱える権限はないさ」
「私も、文句なしだよ!」
「ありがとうございます!」
「ふぅ……この家はお風呂広いなぁ。うちにもこんなお風呂が欲しいよ」
あの後、フェイスさんに言われてまずはお風呂に入ることにしました。
うちのお風呂が狭いせいか、ここのお風呂が妙に広く感じてちょっと居心地が悪いなぁ。
とりあえず今晩はここで泊まって、明日から文様を探しに行こうと思う。
私の足に掴まってたんだから、きっとこの世界のどこかに飛ばされたはず!
待ってて下さいね文様、私絶対に文様を探し出して見せます!
「ぶくぶくぶくぶく……」
「ヤッホー、椛たん!」
「わひゃあ!」
び、びっくりしたぁ……。
いきなりドアを開け放たないで下さいよ!
入って来たのはミオリさん。
でもなんかこう……怖い。
「フヒヒヒ、椛たんの背中を流しに参りました!」
いや、じゃあその嫌らしい手つきは何ですか?
あとよだれ自重して下さい!
「あの、もう上がるつもり何ですけど……」
「なぬ! 私としたことがタイミングを誤ったか……ならばもう一回洗うまで!」
「あ、ちょっと引っ張らないで下さい!」
「よいではないか~よいではないか~親交を深めようではないか~」
「よくないです! あ、ちょっと!」
いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
「ふう、さっぱりした。ああそうだ。パジャマ、私のお下がりしかなくてごめんね」
「もう……お嫁に行けない……」
ミオリは鼻歌混じりに自分の部屋に入ると、何やらごそごそと漁り始める。
椛も自分に割り当てられた部屋に入ると、ベットの上に座り込んだ。
何もない部屋だけど自分の部屋よりも広いし、ベットもふかふかだ。
(本当に外の世界なんだ……)
ふと椛は自分の装備がなくなっていることに気付いた。
よくよく思い出してみると、こっちの世界に来た際に既になくなっていた気がする。
もしかしたら文と一緒にどこかへ飛ばされたかもしれない。
「ま、考えても仕方ないか……」
とりあえず細かいことは明日考えることにして、椛は仰向けに寝転がった。
胸のあたりが少々苦しいが、それ以上に疲労が椛を眠りへと誘う。
(あ……そういえば明かり消してないや)
今にも寝てしまいそうなのを必死に堪えて起き上がる。
が、この後椛は起きてよかったと安堵することになった。
ドアの隙間からこちらを見る目が光る。
予感的中、ドアを開けて入って来たのはミオリだ。
助走をつけつつ飛び上がり、かの有名な泥棒も顔負けなダイビングを決めてきた。
しかし椛も負けていない。
枕を掴んでミオリの顔目掛けて投げ付ける。
ボフッ
枕の着弾と共に、ミオリはお腹から墜落した。
「ぐへぇっ……み、見事……」
お腹を押さえるミオリはヨロヨロと立ち上がり、自分が脱ぎ捨てたパジャマをいそいそと着始めた。
椛もその間に枕を回収して、次の敵襲に備える。
「よし。じゃ、もう一回……」
「しなくていいです」
「え~、私この為にさっき練習したんだよ? ル○ンダイブ」
「何やってんですかこんな夜中に!」
「こういう展開を期待してる人もいるんじゃないかと」
「いません! というか文様といいあなたといい、どこ向いてしゃべってるんですか!」
「椛ちゃん、世の中にはこんな格言がある」
急に真剣な口調と表情になるミオリ。
そのまま近付くと、満面の笑みと一緒に椛の側に立つ。
「もみじもみもm……」
「変っ態!」
「ケイ、俺は娘の教育を誤ったんだろうか……グスッ」
「泣くなよ、みっともない……」
風呂上がりのケイは長めの髪をタオルで拭きつつリビングに出ると、泣きながら酒を飲むフェイスの隣に座った。
上の階からはずっと椛とミオリの声がする。
『よいではないか~よいではないか~』
『やめてください!』
(気に入られたな……)
つけっぱなしにされたテレビはずっと、面白くもないコメディー映画を流し続けている。
ケイはリモコンを取ると、テレビのスイッチを切った。
「で、こっからは真面目な話だ」
「椛って子のことか?」
「ああ。フェイスさん、あんたの見解は?」
フェイスはサッと涙を拭くと、まだ赤い鼻を擦りながら飲みかけのグラスを置く。
正直言って椛の話は信じられない。
それに街の外から来た人間を匿っていることがばれたら余計ややこしい話になる。
そうなったら一般人であるケイ達には手に負えなくなるどころか、シビルガーディアンに逮捕される可能性もあるだろう。
「俺は悪いが彼女の言うことを真に受けることが出来ない。娘のこともあるからな」
「…………。」
「お前はどうするんだ?」
「明日店は休みだし、闇市に行こうと思う。なんにせよ椛に証明書を持たせておかないと」
ケイはタオルをキッチンのバスケットに投げ入れると、まだ水の残った自分のコップを洗って乾燥機にいれた。
「ケイ、用事はそれだけか? なんか嬉しそうじゃないか」
「おやっさんが明日帰ってくる。銃を受け取りに行くのさ」
「そうか」
「何事も最速でカタぁ付ける。それが俺のモットーさ」
それだけ言うとケイは自分の部屋に引っ込んだ。
「咲夜さ~ん。こんなところでサボってていいんですか?」
「お茶の時間までまだ時間はあるわ。それに、これはサボっているんじゃなくて休憩よ」
咲夜は懐中時計を胸のポケットにしまうと、日の照り付ける空を見上げた。
もう秋だと言うのに湿度が高いせいで少し暑いように感じる。
美鈴も帽子で顔を仰ぐと伸びを一つ。
今日はブン屋の天狗が原稿を取りに来る予定だが、その気配はいっこうにない。
代わりに門が内側から開けられ、中からフランが出て来た。
「めーりん! 遊んで!」
「い、妹様! どうやって出て来たんですか!」
さすがに驚いたのか、壁にもたれ掛かっていた咲夜がずっこける。
「え? 普通にドア開いてたし、日傘もいつものところにあったよ?」
「お嬢様に見つかったら大変なんです! 美鈴、妹様を早く屋敷の中へ……」
「ああ、お姉様にならさっき会ったよ」
さらにもう一回ずっこける咲夜。
後できっとお目玉を食らうことになるだろう。
昨夜からレミリアはちょっと機嫌が悪いのだ。
「ああああ! これも全部天狗のせいよ!」
「何かあったんですか?」
理由を知らない美鈴とフランはお互いを見合わせると、首を傾げる。
咲夜はため息をもらすと、足元のかばんから黒い箱状のものを取り出した。
「カメラ……ですかね?」
「そう。これがお嬢様の寝室と、食堂のお嬢様が見える位置に……」
俯いたまま震える咲夜。
よほど怒っているのだろう。
「半殺し、いや……ただ死ぬだけじゃ収まらない。じっくりジワジワと痛め付けて……」
「あの、咲夜さん?」
「フヘっ、イヒヒヒヒ」
「さ、咲夜が壊れたぁ!」
危険を感じて後ずさる美鈴とフラン。
二人には咲夜から出る黒いオーラが見えていた。
「万死に値する!」
「いや、咲夜さん。まずは鼻血拭きましょうか」
「…………。」
「どうしたのレミィ、浮かない顔ね。やっぱり咲夜みたいに怒ってる?」
「いや、そうじゃなくって……」
レミリアはベッドから出ると、少し開いていたカーテンをきちんと閉める。
「嫌な予感がするんだ」
「運命視?」
「それもあるかもしれない」
パチュリーは普段と違うレミリアの反応に本を閉じると、かけていた眼鏡を外した。
(レミィの嫌な予感ってありえないぐらい当たるのよね……)
「今日は寝なくていいの? フランはさっき美鈴に会うって出て行ったけど」
「大丈夫。なんだか今日は眠たくならないの」
ニッと笑ってみせるレミリア。
パチュリーもその様子を見てくすりと笑うと、あくびを一つして席を立った。
「そうだパチェ、一つ聞き忘れてた」
「なに?」
「あんた眼鏡なんて使ってたっけ?」
「そりゃあ、あれよ。眼鏡かけてた方がインテリっぽいじゃない。ちなみにこれ、度が入ってないやつだから」
「ああ……今のは能力使わなくてもだいたい予想できたわ」




