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インセンシティブ・センシブル  作者: サウザンド★みかん
第Ⅳ部 本物の大人になるために―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
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第31話 不愉快な痛み~第三節~

 ハッピーマウンテン構内にあるショッピングモール。大した娯楽があるわけじゃないが、主要駅にそういう施設のある市自体が少ないのだから、田舎都市とはいえ、中核市たる面目を感じる数少ない機会である。

 そこまで幅広くもない通り道に、壁際の空間をこじ開けるような造りの店々が並ぶ。服屋が最も多い。その次にレストラン、次いで小物屋。


「ああ、あそこ美味しそう」

「駄目駄目、もうすぐ飲み会ですよ、優子」


 珍しく旺盛な気持ちを表す優子を千璃が引っ張って止める。といっても、自分よりも10センチ少々は高いであろう彼女を留めておくだけでも大変そうだ。

 私たちは道場での稽古を終えた後、飲み会までの僅かな時間をこのひと時にてている。練習が思ったよりも早く終わったため、定刻までの数十分間、はぴ☆らきモール(どんなセンスだよ……)で暇を潰すことにしたのだった。

 参加者は、私と千璃と優子。宇野はタバコを吸いに行っており、志上しかみは自動車の移動中。優子は「駅前で待っている」と言ったのだが、同級生である千奏せんかが無理やり連れてきた。こういうの興味なさそうだしなあ。その千奏も、今はどこで何をしているやもしれない。さっき行きたい店があるといって一目散に走っていったのだ。

 そういうわけで、若々しい面子ばかりが揃ったわけだが(乾賢太朗だって、年齢的には若い世代だ)、何をするでもなく、ぶらつくだけだった。

 これでは何やら勿体ない気もする。せっかく優子と一緒にいるのだから、接触してみてもいいだ――


「あーーっ! かわいい!!」

千璃せんり、どうした」


 小物屋だった。壁際に出店している小じんまりとした店舗。本来的な壁は設置されておらず、家具的な仕切り板を用いてこれを演出している。

 千璃が見ていたのは、毛糸で編まれたポシェット、帽子、小銭入れなど。確かに、こういうのは女性が好きそうだ……あ、ちょっと待てよ。


「おい、久間野さん」

「その呼ばれ方はされない……優子でいいよ」

「ああーーっ、また呼び捨て……って、え、ちょっと!」

「頼む、今は黙っててくれ」


 そう言って私は、千璃の肩を掴むと強引に後ろを振り向かせた。


「適当に歩き回っててくれ」


 少しだけ視線を落とすと、そこには女のうなじがあった。染みひとつない、綺麗な首筋。どんな表情をしているのだろうと少し気になったが、それでも真っ先に優子の方を向いた。


「実はよ、律子に贈り物がしたいんだ。選んでくれよ。いや、意見を聞かせてくれ」

「うーん……」


 優子は、黙って小物入れを眺めている。小銭入れから始まって、四角布、ポーチと、様々なものを触って確かめていく。その仕草が女の子らしくて、いや、とにかく私(元)は彼女との接触を望んでいるのだ。

 乾賢太朗の守備範囲にはかすりもしないが、その身体の中に入っている私という人間の本来の意志が彼女を欲している。

 さて。この単純極まりない作戦、単純であるゆえに強力にはたら……。


「乾!」


 『なんだよ』と思い振り向くと、ギラギラにデコられた腕輪(?)のような、とにかくおぞましい光を放つ物体が差し出される。

 

「これが、正解です!」


 正しい。千璃が言うとおり、律子はこういうのが好きだ。カラス並みに光物を好むのである。だが、だがなあ。違うんだよ、千璃。


「優子、どうだ」

「これ」


 筆入れだった。布製の筆入れ。モノはたくさん入りそうにないが、赤、黄、オレンジと暖色で編まれた豊かな色彩は見る者の心を落ち着かせてくれそうだ。


「よし」

「あっ……」


 店員の元に行き、黙ってそれら(・ ・ ・)を買った。1200円か、けっこう高いな。


「ほら優子、筆入れ。やるよ」

「え? くれるの」

「ああ、大事にしろよ」

「大事に……」


 それを言いかけたとき、優子が少しだけ辺りを見回したかと思うと、その面持が歪む。


「できない」


 それを知覚するのと、後頭部への衝撃は同時であった。


「ばかっ」


 斜め目線で、千璃が怒りの視線を向けている。

 私が悪い……かどうかはさておき、優子の気を引くために千璃の提案を無下にしたのは違いない。彼女の顔を潰してしまっている。


「……言っとくけど謝らないからな。私は、正解が欲しかったんじゃないんだよ。腕輪買ったんだからいいだろ。あ、おいどこいくんだ」


 告げるや否や、どこかに行ってしまった。優子の方を振り向くと、そこに誰もいなかった。いなかったのだ。この僅かな間にどこに消えた?

 何分か歩き回ったものの、発見することは出来なかった。そして歩きながら、反省した。無神経すぎるのだ。まったく私は、人の心というものの理解が鈍い。おそらくは本来的に自分本位なのだ。乾賢太朗も、私(元)も。

 千璃を探して謝ろうとしたが、なかなか見つけられない。一瞬でも見失うと人の波に紛れ込まれてしまい、捜索はたちまち困難になる。電話に出てくれるはずもなし。私は、サービスカウンターまで来た。


「いらっしゃいませ。お子さんをお探しでしょうか」


 迷子サービスじゃねえ! 店内地図を見るのだ。彼女たちが行きそうなところを慮るも、そんなに深い付き合いでもない。探すのは困難に思われた。飲み会の開始まで、あと15分を切っている。

毎週、金曜日から更新です。注釈文は最終節にあります。それでは、ゆっくりお読みください(。。)...

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