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インセンシティブ・センシブル  作者: サウザンド★みかん
第Ⅲ部 影響していく力―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
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第24話 フレアダンス~第四節~

 すべてが終わった。敗北はしたものの清清しい気分であった。人事は尽くしたのだから、負ける以外の選択は私にはなかった。必定だった、ということになる。これで良い。満足だ。

 今回の定例試合も志上チームが勝利し、これでスコアは並んだ。ちなみに、優子は次戦を諦めた。本来ならば3人抜きはするところを、実質一人目と引き分けに同じ結果、ということになる。


「いやあー、乾くん。君のおかげでまた勝てましたよ! かなりギリギリでしたが」

「そう言って下さると……」


 恐縮しつつ答えるのであるが、試合の回想で頭がいっぱいで上手く言うことが出来なかった。


「いやあ、でも……やっぱり、影のMVPは……」

「ん、乾くん。誰のことですか?」

「おい、千璃!」


 その名を呼ぶと、憮然とした表情で千璃が歩いてくる。同時に、志上は千奏に呼ばれ、あちらに行ってしまった。


「ありがとうな、寝技。あれがなかったら、もっと簡単に負けてた」

「つーんっ!」


 なんだよ、その反応。

 思い出した。乾賢太朗が好きなアニメで見たことがある。確か、ツン……何だったかな。そんなに詳しくないんだよな。


「本当に感謝してるんだぞ。前は優子の応援ばかりしてたのに。どういう風の吹き回しだ?」

「……」


 千璃は、黙っている。

 俺は近づいた。警戒するようなそぶりは見せない。私は、腕を上げる。

 千璃は、ビクッとしながら瞳を萎縮させる様子を見せる。いけない、驚かせたな。千璃が、ゆっくりと目を開けたのを確認して、私は――その髪を撫ででやる。


「いい子だな、千璃は!」


 蹴り飛ばしに対する準備は出来ていたが、彼女は何も言わず、ぼうっと私の上腕あたりに視線を遣るばかりだ。


「お、おい……?」


 千璃は、黙っている。

 その瞼を閉じて、撫でつける掌に対して何らかの思念があるような面持ちであった。


「……そんな、おい。どうしたんだ? 本当に大丈夫か?」


 千璃は、黙っている。

 やがて今度は、ぱちっと見開いた瞳を真っ直ぐこちらへと向けてくる。


「……そんなことより。前、優子とあまり話せなかったんじゃ?」

「うん、恥ずかしながら、その通りだ。あんまり、良い反応が返ってこなかった」

「反応が返ってきた……?」


 千璃は、驚いた面容で続ける。


「それだけで奇跡です。普通は、話すら出来ないんですから。あの子、人見知りなんですよ? それだけじゃないです、何より気が小さい」


 信じられなかった。どうみても肝っ玉がありそうなのに。人を見た目で判断してはならぬ好例であろう。


「さ、いきますよっ」

「ど、どこに?」

「優子のところっ!」


 前回と同じところに優子は座っていた。じっと考えごとをしているものと推察する。心ここにあらず、とでも言わんばかりの面持ちである。


「ゆ~う~こっ!」

「ん!……なに?」


 驚嘆。今のビクッとした反応には、その語彙が相応しい。優子は、私の方を見ると、真下に目を背ける。再度、彼女は肢体を震わせることになるだろう。なぜなら……


「はい、敢闘のあくしゅっ」


 千璃が、私と優子の掌を無理やりに繋ぎ合わせたのだから。

 そのときの優子の面差しをシャッターに収められたなら、私(元)の心は発狂して使い物にならなくなるに違いない。優子はばつの悪そうな飼い犬のような行儀で、私を見上げる。

 ちくり、とする透明な針に刺された心。それらは無数に心臓を突き立て、痛みは、液体のように浸透していく。

 (第24話、終)

※1……組み手を嫌う、と表現されます。実際の試合でも、ほんの少し持ち位置がずれただけで技の威力に影響するものです。組み手にこだわる選手は、とことんこだわります。

※2……前回も述べましたが、乾先生の特技は、今まさに自分が投げられようとしている瞬間を実況することです。


毎週、金曜日に更新です。ゆっくりお読みください(。。)...

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