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インセンシティブ・センシブル  作者: サウザンド★みかん
第Ⅲ部 影響していく力―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
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第25話 届かぬ声~第一節~

「インセンシティブ・センシブル」では柔道描写が出てきます。分からない点は、こちらをご覧下さい。

柔道チャンネル

基礎知識http://www.judo-ch.jp/knowledge/

審判規定http://www.judo-ch.jp/rule/koudoukan_judge/index.shtml

 雄弁家の三つの大切な心得は、教えること、喜ばせること、動かすことなり



7/19(火)

 雨は夕方まで降り続いて、体育館の窓ガラスを打ち付けるように透明な飛沫(ひまつ)を散らしている。湿気に包まれた館内では、ソフトテニス部も、卓球部も、バレー部も、すでに練習を終え、後片付けの最中だった。柔道部も、とうに練習は終わっているのだが、大事な発表を控える緊張感からだろうか。後片付けの時間を引き延ばしにしている。

 ちなみに、練習場所はステージの上である。ここに畳を敷いて、打ち込み、投げ込みといった稽古を行っている。毎回、その初めと終りに青畳の上げ下ろしをするのだが、約1名の部員から、「面倒くさい。練習時間が減る」との声が上がっている。それもこれも、必要だからやっているのだが。

 2名の教師に、3名の部員。合計5名の部活であるが、日々の鍛錬については、どの部活より熱心にやっているつもりだ。そしていま、部員たちはステージ奥に向かって、教師はその反対側に正座している。


「えー、それでは……1週間後に控える、岡山県予選についてですが……えー……」

「おい、もったぶんな!」


 部井調歌(とりいちょうか)は、憤懣(ふんまん)とした表情で、恨めしい視線をこちらに送るのだが、それも無理はない。


「前回の試合、参加したかったのに。楽しみにしてたんだぞ!」


 本来ならば、1日単位での大きな大会は二度目のはずだった。6月末の全国大会まで繋がる試合には出場しないという方針になっていたから、調歌が残念がるのも無理はなかった。

 約3ヶ月という柔道暦にして、柔道を楽しんでいる調歌は才能を備えている。


「はい、それでは団体戦から発表します。言うまでもなく全員参加で、先鋒から順に調歌、苹樹(ひょうじゅ)、彩季(さき)」

「ええ! わたしが大将……」


 彩季は、くぐもった声で呟くのだが、「かっこいいじゃん」という調歌の言葉に、ますます萎縮を強めるのだった。中学生としては、体格の大きい子だから、その響きにマイナスイメージをもっているのだろうか。些細だが、大事なことだ。


「彩季。大丈夫、大将というのは、まあ、アレだ。名前だけなんだよ。本来は、ミニマムな人間のポジションなんだ」

「え、そうなんですか」


 そう言って、頬を緩ませながら安堵の声を漏らす。頭は切れるが、不安に弱いタイプの子だからな。多少無理やりでも、そのあたりは何とかする必要がある。

 別に嘘はついていない。中学生の場合、同じ体格の選手と当たりやすいよう、体重順に先鋒から並んでいく。高校からは並び替え自由となるが、それでも重たい選手が大将にくるとは限らない。例えば5人団体戦において、強い選手は中堅か副将にくることが多い。


「とにかく、一回戦目、二回戦目は良い組み合わせに恵まれている。問題は準決勝だ。ここ3年間、ハッピーマウンテン市内で優勝し続けている丘野中学校とあたる。気合を入れて臨むように」

「ま、まだ勝ってないです……」

「かめ、細かいこと気にしない! 勝てるから!」


 根拠のない自信は諸刃の剣だが、今はそれを構えることがプラスに働きそうな気がする。

 我らが鴨中学校は、今回が初参加ということで、緒戦は配慮してもらえるよう話を付けてある。こういうとき、名門道場に通っていると色々な意味でことを運び易(やす)くなる。律子に紹介してもらって良かった。


「賢先生。そろそろ時間が……他の部活はもう更衣室に入ってます」


 苹樹の突っ込みに、一時の冷静さを取り戻す女子2人。


「個人戦はどうなってるんですか?」


 苹樹はにっこりと微笑みながら、私に視線を傾ける。可愛い。


「う、うん。組み合わせの良し悪しは判断できないが、階級だけ発表していく。まず、44キログラム級、部井(とりい)調歌。52キログラム級、音恋苹樹(ねこいひょうじゅ)。ろく……」

「あーー!!」


 彩季である。


「どうした?」

「体重のことは……」


 まあ、女子だったら気にするよな。


「心配いらない。私は、おおまかな体重しか知らないし、厳密な体重は量ったりしないからな」

「ほ、本当ですか……頭では分かっていても、なんだか」


 生徒が気になるという以上、教師は気にすべきじゃない。今回は、選手を体重計に乗せておらず、階級を自己申告してもらう形式としている。

 本来ならば、計量結果を備後柔道連合にデータとして送る必要があるのだが、計量を気にする女子がけっこういる、ということは律子から聞いていた。柔道連合に、階級内で間を取ったようなデータを送るのは、正直迷ったが、今回はそういう方針でいくことにしている。


「彩季、大丈夫だって。賢先生がそう言ってるんだから」

「うん……」


 苹樹に諭され、彩季は俯いていた顔を上げた。淡々として調子で、それを告げる。


「すいません、続きをお願いします」

「63キログラム級、加目田彩季」


 ここで、掌同士を叩く音。律子だった。


「みんな、初公式試合だけど。がんばろうね。前回の市内大会に出なかったのはね。全国に繋がる大会だったからなの。どの学校も気合が入ってる」


 空気が変わる。女子全員、律子の話に集中している。


「あなたたちは、正直けっこうな才能がある。でも、もし丘野のような強豪とあたった場合。相手は本気で潰しにくる。なんたって、県大会でも重要なのに、全国大会まで繋がってるんだから。「一筋縄ではいかない」と判断されたら、相手は本気になる。怪我をさせられるかもしれない」


 一瞬、間を置いて、律子は口を開く。


「だから、見送ったの。ちなみに、今回は県大会まで繋がってる。6月の大会ほど会場内に張り詰めた空気が漂ってるわけじゃないし、かといって、ローカル大会みたいに、のびのびとした空気でもない。今回は大事な試合です。貴重な機会にしましょう」

「はいっ」


 3人の声の調子が揃っている。やはり、女子柔道の経験者(しかも三段)は言うことが違う。


「その2週間後には市内大会があるの。そんなに殺伐としていないはずだから、ひとまず安心していいからね」

「……ええと、それでは解散とします。畳の片付け、今日は急いでやろうな」


 青畳の片付けを進めながら、思う。

 柔道部としての活動は軌道に乗ってきている。立ち技の乱取り以外にも、寝技の乱取り、連続での投げ込みなど。初試合のときに比べれば本格的になっていると思う。

 教師にしてもそうだ。初めの頃は、例えば受身を教えても理解されないことが多かった。だが、思考錯誤や教本研究を重ねるうち、模範を見せる→言葉で教える→させてみる→褒める、という4段階で教えていけば良いことが分かったし、何より、生徒が3人とも自分の得意技を見出せたことが幸いだった。

 贔屓目に見ても、地区大会で通用するのではないか。というのが教師側の意見であった。自分の生徒はかわいい。期待感をもってしまうのは仕方ないが、それでも大会の日が楽しみで仕方なかった。


「賢先生、なにか嬉しいんですか?」

「苹樹! いや、何でもないぞ」

「賢先生、へんなの」


 苹樹に突っ込みを食らえど、テンションの高まりを抑えるのは難しかった。

毎週、金曜日から更新です。注釈は最終節に。それでは、ゆっくりお読みください(。。)...

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