荷台で大丈夫ですか?
来海と君香、そして佳奈はタートル号の中にいた。
古い車なので、とにかくガタガタと振動がすごかった、なぜなら時速100kmで東名高速道路を西に向かって走っていたからだ。
メグミは、後ろの荷台に簡易ベッドを積んでその上で休んでいた。ギリギリ道交法違反なのだが非常時なので勘弁してもらおう。
とにかくもう渋谷にいる訳にはいかなかった。
君香と佳奈も1人にしたり家族の元に行かせられない。とりあえずみんなで一緒にいた方がいいと考えた。
タートルもひた走ったが、愬山のいる三重県までは遠いので、愛知県で愬山と落ち合う手はずになった。
東名高速道路を進んで、富士山をすぎる頃には日が暮れてきてしまった。燃費の悪いタートルにも軽油を入れてやらなければならない。
来海たちは”日本平パーキングエリア”で給油とトイレ休憩をとることにした。
ようやくの休憩なのだが、それぞれみんなの顔色はいいものではなかった。
渋谷での事をなるべく気にしないように、タートルの中ではラジオをつけなかった。
車を停めて、日本平パーキングエリアの建物の中に1歩足を踏み入れると、備え付けられている全てのテレビがけたたましく渋谷の惨劇を伝えていた。
エリア内にいる人々も何が起こったのかとかなりザワザワとしていた。
テレビのニュースでは”フライトレコーダー”の回収が待たれる、というような専門家の解説が聞こえてきたが、回収して分析しても”乱”の仕業だという証拠は見つからないだろう。君香はそう思いながら佳奈と一緒にお手洗いに歩いていった。
「潤兄さん、何か飲み物をお願い!」メグミが荷台の窓からそう言う。
来海は運転席から降り、ここまでの運転で固まった足腰を伸ばしている。
「メグミはトイレ大丈夫なのか?」来海が案じてそう聞いた。
「大丈夫!もうひと眠りする!」メグミは荷台の中からそう応えた。
来海は飲み物を買う前にトイレへと向かった。
その途中、何やら聞き覚えのある曲が流れている。
あの夜巳幻子プロデュース!”JT2スピード”の『パラサイト』だ。来海はすぐに耳を手で塞いで走り出した。
その曲を大音量で流しているのはパーキングエリアの駐車場に停まっている1台のスポーツカーだった、運転席を見ると宙を見つめ虚ろな表情で何かを呟いている男がいる。
『ヤバいぞ!』
ダッと走る来海の視線の先に女子トイレに入ろうとしている佳奈と君香が見えた。
「君ちゃん!佳奈ちゃん!耳を塞いでタートルまで走って!」来海はダッシュしながらできる限りの大声で叫んだ!
キュルキュルキュルキュル!スポーツカーの後輪が突然唸りをあげた!そして、サイドブレーキが解放されると途端に車は猛スピードで走り出した!
フランクフルトや焼きそばなどの屋台が並ぶエリアにスポーツカーが正面から突っ込んで来る!
そこにいる来海めがけて!
フワッ!!
前触れもなくエリア脇に備え付けてある金属製の大きなゴミ箱が宙に舞うと、スポーツカーの右側前輪に向かって飛んでいった。ガリガリバキバキ!ゴミ箱を巻き込んだせいでスポーツカーは右に進行方向が変わった。
タートルの窓からメグミが呪文を唱えてゴミ箱を飛ばしたのだ!
「助かった!メグミ!」来海はそう言うと君香と佳奈を引き連れてタートルへと走った。
パーキングエリア内の人々は何事かと騒いだ。
暴走するスポーツカーに他の車からクラクションが鳴る。
「なにやってんだ!止まれ!」そう言ってスポーツカーに怒鳴っていたおじさんがあっという間に轢かれて吹っ飛ばされると、パーキングエリア中に悲鳴と恐怖が伝染していった。「きゃーー!」「逃げろ!」「助けて!」
君香と佳奈をタートルに押し込むと来海はサッとスポーツカーに向き直った。
「潤兄さん!」メグミも荷台から飛び降りてきた。
「今までは、周りに被害が出ないようにと、あえて戦いを避けてきたが、ここからは全力でいくぞ!」来海はスポーツカーをグッと睨みつけるとメグミにそう言った。
キュルキュルキュル!スポーツカーはその場で高速旋回して来海の方を向くと、全速力で向かってきた。
タートルの中から顔をのぞかせて佳奈が様子を伺う。
『そういえば、来海さんが”整”を戦いに使うのを見るのは初めてだ』
ブォーーン!猛スピードで走ってくるスポーツカー。
手を前に出し、一言二言呪文を唱える来海。
すると、、
キュルキュルキュルキュル!
その場で突然車輪が空回りし始めるスポーツカー。そして止まった。
もうそれ以上は、うんともすんとも言わなくなりエンジンも停止した。
来海がゆっくりと手をおろす。そしてメグミと一緒にタートルに戻った。
「えっ!?えっ!も、もう終わったんですか?」佳奈が驚いて、運転席に戻ってきた来海に尋ねる。もっとすごい事が起こるんじゃないかと思っていたのだ。
後ろの荷台から運転席にひょいと顔を出したメグミがこう言った。
「私は修行が足りないから、信号機とかを引っこ抜いて攻撃しちゃうの!でも、今ここでそれをやるとパーキングエリアの人や車を巻き込みすぎちゃうでしょ!……私と違って潤兄さんは”整”の使い手の中でも特殊でね。複数の精霊を同時に使う事が出来るの!」
「複数?」君香が聞いた。
「そう!今、潤兄さんは地面のコンクリートに宿る精霊を使って、道路を一瞬でツルツルに変えたの。するとタイヤは摩擦がなくなって空回りした!」
「あぁ!なるほど!」君香が頷く。
メグミはさらに得意げに続ける
「それでも車が前に進む勢いは止まらないから、空気の中にいる精霊を使って車の前に『空気のクッション』を作って停止させたの!」
メグミが解説をしている途中だったが
来海はタートルのエンジンを始動させた。
ゆっくりと動き出したタートルは静止したスポーツカーの横を通った。
「スポーツカーの運転手、気絶してる!」君香がスポーツカーの中を見て声をあげた。
「空気の精霊を使ってあの運転手の周りの空気を薄くして、気を失わせるようにしたの……潤兄さんがね」
『あの一瞬でそれだけの事をしていたんだ!?すごい!』佳奈は”整”の技の奥深さを知って感嘆した。




