二日遅れのバレンタイン(義姉弟。ほのぼの)
玄関ドアを開けた瞬間。
「ハッピーバレンタイーン!」
家主の……義姉の明るい声が俺を迎えた。
……嫌な予感がする。
〆切明け(義姉は小説家だ)のテンションであることを差し引いても、何か可笑しい。
「ってことでね」
靴を脱ぐ間も惜しむように、彼女は俺をリビングへと引っ張って。
「チョコだよ!」
高らかにそう言い放った。
ローテーブルの上に所狭しと並べられたチョコ、チョコ、チョコ。
いや、正しくは、箱、缶、箱、缶、袋、なのだけど。
それらは、深い海の色をしたようなものもあれば、花束みたいに可憐で華やかなもの、キャラクターモチーフの可愛らしいものや、はたまたシックで高級感漂うブラウン基調のものなど、驚くほど種類が豊富だった。本当に色んな装飾があるものだ。
部屋には甘ったるい香りが漂っていて、それらの中身がチョコレートだと否応なしにわかった。
「義弟への日頃の感謝を込めて」
「本音」
「すみません、買い過ぎました助けて」
全部食べられない……。
と顔を覆う義姉に、俺は遠慮なく呆れた視線を向けた。
何でこんなに、と問えば、〆切明けのご褒美にと思ったら箍が外れたとのこと。
「そんなこったろうと思った」
「あ、でも本当に感謝の気持ちはある」
義姉は、待てと言うようにこちらへ掌を向け、慌てて反対の手に持っていた箱を差し出す。
「はいこれ、君に」
綺麗な葉っぱが描かれた黄色の箱は、見覚えのあるものだった。
はっと目を瞠る。
「君が前に『食べてみたい』って言ってたやつ」
そうだった。少しお高くて、学生の身分ではおいそれと買えないもの。
別にねだったわけじゃない。
一緒に観ていた番組で紹介されていて「味が気になる」と零した。それくらいのことだった。何とはなしに呟いたそれを、覚えていたのか。
「……ありがと」
嬉しいような、照れくさいような気持ちになる。が、ちゃんと礼を言って受け取った。
「賞味期限長そうなのが救いだな」
机の上を見て言った。
何せ、今日食べなくてはいけないだろうチョコレートの量があまりに多い。
しばらくはチョコを口にしたくないはずだ。
「ほんっっっとごめん……」
義姉が、両手を合わせ首を垂れた。
二日遅れのやけくそチョコ祭りが、いま開催されようとしていた。
END.
お義姉さんは社会人(既に一人暮らし中。作家)になってから、弟くんも高校生になってから、親の再婚で姉弟になった二人です
お義姉さんは執筆に夢中になると寝食を忘れるタイプなこともあり、心配する両親の代わりにちょくちょく〆切明けを目安に様子を見に行っている義弟さん
ちなみにこちら、バレンタイン当日ではなく、二日後とか三日後の出来事です
この二人の始まりの方のお話もまたいずれこちらでもアップする予定です




