↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
5/201

疲れに効くのは(百合。同棲中。どちらも社会人)

「ただいまー……」

「……どしたん。顔、すごいよ」

 先に帰宅していた恋人が、私の顔を見るなり目を見開いた。

 風呂上がりなのか、まだ毛先が濡れていて、ほのかに石鹸の香りがする。

「今日はもう朝からトホホの連続で」

「トホホの連続」

 私は、よろよろと鞄を置きながら説明する。

「発注ミスするわ、聞き間違い連発するわ、電話かけ間違えるわ、挙句の果てに帰りの電車乗り過ごすわ!」

「あらら」

 口にしてみると、本当にミスばっかりだ。

「もうやだ、今日は厄日だ……」

「そりゃあ災難だったねぇ」

 自分の駄目さに顔を覆う。気持ちのリカバリーがまったく出来ず、ミスがミスを呼んでいた。

 認識すればするほど、気分が落ち込む。

 またため息が零れ落ちかけたところで。

「まああれだ」

「!」

 彼女にタオルを差し出され、ハッとした。

「サクッと風呂に入って来い」

「……うん」

 私がめそめそしている間に、お風呂の準備をしてくれたらしい。

 心が少し、ほっと緩んだ。


 ※


 とりあえず身体を清め湯船に浸かると、多少気持ちに余裕が出来る。

 良かった。ありがたい。

 そんなちょっとほっこりした気分でリビングへ戻る。

「上がったよー……、!?」

 すると、何故か。

 机の上に、ババンッと。目立つように肌色成分多めの薄い本が、数冊並べられていた。

 その隣には、いい香りのお茶(多分カモミール)と米菓(ふわふわさっくりのきなこ餅)が置かれてある。

「な、なんこれ、???」

 センシティブかつ刺激的なものと、ほんわかしたお茶セットのコントラストがあまりにも強く、動揺した。

 わずかにあった余裕など消し飛んだ。

 何これ。

「最近読んだエッセイであったんだよね」

 ソファーでゲーム機をいじりながら、彼女が言った。

「人間の求める究極の一つは『美味いもん食ってセックスだ』って!」

 真面目な顔で、しかし高らかに。はっきりきっぱり、言い切った。

「だから、美味いもの食って、えっろい本読みな」

 そうすれば元気になる、と深く頷く彼女に(そのときだけゲーム画面から視線を外し、こちらを見ていた)、

「何だそりゃ」

 ぷはっ、と思わず噴き出した。

 私の笑いに、

「笑えればそれで良し!」

 彼女が、何故か不敵に微笑む。

 いや、何でそんな勝ち誇った笑みなのよ。

 だけど、気持ちは嬉しかった。

「とりあえず、ありがたくきなこ餅は頂くね」

 これは本当に美味しいから。

 袋を開けてひと口。さく、ふわ。

 香ばしいきなこの甘味とさくさくなのに溶けゆく食感。最高だ。

 彼女にもそれを分けつつ。

「ていうか、セックスは別にアンタが担当してくれてもいいのでは?」

 恋人だろうに。とツッコんだ。今度はゲーム画面から視線を逸らさず、彼女は言う。

「だって今夜はゲームがしたい」

「ひどい」

 私は苦笑し、カモミールティーを飲んだ。

 それでも、悪い気分は既に何処かへ消えてしまった。


 END.


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。