恐らく、私だけの秘密(歳の差薔薇。年上×年下。菓子職人×元塾講師。トーリー×颯太)
リビングのソファーで。
お風呂上がりの颯太さんが、ぼんやりとしていた。
そのぽやぽやとした横顔に、私はキュンとする。
「颯太さん」
「トーリーさん?」
名前を呼んで、そのまま、ぎゅ〜〜〜と長く抱き締めた。
鼻先を擽る石鹸の香りは、もちろん私と同じもの。爽やかで少し甘い。
「どうしました?」
「颯太さんがかわいらしくて。大好きだ〜〜〜という気持ちがいっぱいいっぱいになりました」
こつん、と額を合わせて言う。恋人の少し気の抜けた姿は、何度見ても愛らしくて仕方なかった。
「トーリーさんは、真っ直ぐだね……」
颯太さんは、照れながらそう言って目を伏せ。
「……」
少しの間、考え込んだ。
「颯太さん?」
窺うように名前を呼ぶ。
すると彼は、ぽふりと私の肩口に顔を埋めた。
「いや、ちょっと、自分が嫌になって」
「!? 何故っ?」
このやりとりで? と動揺する。
何か酷いことを言ってしまっただろうかと焦っていると、
「……僕は、トーリーさんみたいに素直じゃないでしょう?」
と彼が話し始めた。
「真っ直ぐに……好きだとか、そういうのを表すのが苦手だから」
それから少し言い淀んで、
「トーリーさんが、不安になったり、嫌気が差したりしてないかなって思うと」
ぽつんと呟くようにそう言った。
私は、その言葉に目を丸くする。
「……ふっ」
そして堪えきれず、噴き出してしまった。
「!? 今、笑いました?」
彼が、不服そうに顔を上げる。
私は慌てて謝った。馬鹿にしたわけでは、決して無かったから。
「すみません、すみません。……知らないんだなぁって思ったら、つい」
「何を?」
……私を見るあなたの目が、この上なく優しいこと。
私を見付けると、嬉しそうに細められること。
さっきも、私が抱き締めたときに柔らかく倖せそうに目元が綻んだこと。
そのすべてが、私を『好きだ』と『愛している』とちゃんと伝えてくれていること。
「……私は、あなたからきちんと愛を受けとってます、ということをです」
再び、彼を抱き締めた。私の言葉が、しっかり伝わるよう。身体と身体をぴったりくっつけて。
「……それなら、いいんだけど」
まだ少し不満げな声ながら、颯太さんも抱き締め返してくれた。その腕の強さに、私の口元は自然と綻んだ。
あなたすら知らないあなたを、私だけが知っている。
そのことが、とてもとても嬉しい。私だけの秘密。
END.




