↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
百花繚乱~一日一作短編集~  作者: 飛鳥井 作太


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
186/257

雨降り好天気(百合。真面目×自由人。高校生時代)

 電車内。ドア傍に立ちながら、窓の外を眺める。

 そこに広がるのは、雲の敷き詰められた空と水滴たち。

(雨、強くなってきましたね……)

 窓を叩く雨音が、どんどんと強くなっていく。思わず、ため息が零れた。

(当初の予定通り先週だったら! 晴れてたのに!)

 そう。今日のデートは、本来なら先週に行く予定だったもの。

 私の塾の振り替えが、運悪くデート予定日に被ってしまい、仕方なく今日に振り替えたのだ。

 謝り倒す私に、ミイさんは特に気にした風は無かった。軽く「じゃあ来週末にしよ」と言っただけだった。

 恐らく本当に気にしていなかったのだろう。

 私は先送りになってしまい、けっこう気落ちしたのだけど……少し寂しい。

 いや、こっちが悪いのにそんなことを考えてはいけない。

 頭を軽く振って、気持ちを整える。

 が、続く雨音に、やはり気分は落ち込んでいく。

(せっかくの水族館デートなのに……ショー関係は中止ですよね。申し訳ない)

 はあ、とまたため息が漏れた。

(久しぶりの休日デートだから、ミイさんとめいっぱい楽しみたかった……)

 くよくよしている内に、待ち合わせの駅名がアナウンスされる。

 暗い顔を見せるのはよろしくない。両頬を軽く叩き、しょんぼりした考えを無理矢理追い出した。

 電車を降りて改札へ向かう中、耳を打つ雨音が、先程より和らいで聞こえるのに気付く。

(良かった。雨脚がちょっと弱まりましたね)

 このままどんどん弱まってくれればいいな、と考えたところで「あ」と声が出た。

 視界の先、改札を出たところに、ミイさんの姿が見えた。

 腕に傘をかけ、スマホを見つめている。

「ミイさん!」

 慌てて改札を出た。

 私に気が付いたミイさんが、スマホから顔を上げる。その口元に、ふわっと笑みが浮かぶ。それに、ほっとすると同時に胸が一つ大きく鳴った。

 可愛い。

「おはよう、馨《かおる》くん。そんなに急がなくても。待ち合わせの時間はまだだよ?」

「ですよね。え、早くないです?」

 現在、約束の十五分前だ。

 私の言葉に、可笑しそうにミイさんが笑った。

「そう言うそっちこそ」

「私は……その、癖なので」

「いい癖だねぇ」

「ありがとうございます」

 ミイさんが私の頭へ手を伸ばす。察して、ほんの少しそちら側へ身を屈めた。

 すると、優しい手が私の頭を擽るように撫でていく。

「私は、ちょっと用事があって早くに家を出たから。そのままこっちに来たんだよね」

「では、けっこう待ったのでは?」

「ううん。着いたの、ついさっき。JRから来たの」

 ここは私鉄の駅で、徒歩五分未満のところに同じ名前のJRの駅がある。そうか。ミイさんはそちらを使ったのか。

 しかし、それでも待たせてしまったのに変わりない。

「すみません。何だか、しまらないですね」

 雨ですし、とつい苦笑と弱音が漏れてしまった。

 ミイさんが、そんな情けない私を見上げ、キョトンとした顔になる。

「何で? 時間より早く集まれたし、雨だから、より良いんだよ」

 それから、ふふっと笑った。楽しげな、それでいて何処か悪戯な笑み。

「雨だから……?」

「うん。新しい傘を使い出すには、今日のデートが一番いいの」

 そう言いながら、ミイさんが外へ向かって歩き出す。

「見て」

 そして手にした傘を、バッと開いて見せる。

「これは……」

 私の目の前に現れたのは、美しい世界だった。

 藍色の空間に、白いクラゲたちが揺蕩う幻想的な光景。

「じゃーん。クラゲ水槽モチーフ・アンブレラ~」

 ミイさんが、得意げに言う。

「可愛いでしょ」

「はい、とても」

 それは、あまりに今日のデートにお誂え向きな傘だった。

「今日にぴったりですね」

 ミイさんが、にっこりと笑みを深めて頷く。

「でしょう? 今日が雨で、良かった」

 その言葉を心から言っているとわかる、あまりに楽しそうな笑顔に。

「……本当に」

 私は、胸がいっぱいになった。

「じゃあ馨くん、入って。相合傘しよう」

「喜んで」

 私たちはひと足先に、私たちだけの水族館を纏って、雨の中へと歩き出す。


 END.


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。