雨降り好天気(百合。真面目×自由人。高校生時代)
電車内。ドア傍に立ちながら、窓の外を眺める。
そこに広がるのは、雲の敷き詰められた空と水滴たち。
(雨、強くなってきましたね……)
窓を叩く雨音が、どんどんと強くなっていく。思わず、ため息が零れた。
(当初の予定通り先週だったら! 晴れてたのに!)
そう。今日のデートは、本来なら先週に行く予定だったもの。
私の塾の振り替えが、運悪くデート予定日に被ってしまい、仕方なく今日に振り替えたのだ。
謝り倒す私に、ミイさんは特に気にした風は無かった。軽く「じゃあ来週末にしよ」と言っただけだった。
恐らく本当に気にしていなかったのだろう。
私は先送りになってしまい、けっこう気落ちしたのだけど……少し寂しい。
いや、こっちが悪いのにそんなことを考えてはいけない。
頭を軽く振って、気持ちを整える。
が、続く雨音に、やはり気分は落ち込んでいく。
(せっかくの水族館デートなのに……ショー関係は中止ですよね。申し訳ない)
はあ、とまたため息が漏れた。
(久しぶりの休日デートだから、ミイさんとめいっぱい楽しみたかった……)
くよくよしている内に、待ち合わせの駅名がアナウンスされる。
暗い顔を見せるのはよろしくない。両頬を軽く叩き、しょんぼりした考えを無理矢理追い出した。
電車を降りて改札へ向かう中、耳を打つ雨音が、先程より和らいで聞こえるのに気付く。
(良かった。雨脚がちょっと弱まりましたね)
このままどんどん弱まってくれればいいな、と考えたところで「あ」と声が出た。
視界の先、改札を出たところに、ミイさんの姿が見えた。
腕に傘をかけ、スマホを見つめている。
「ミイさん!」
慌てて改札を出た。
私に気が付いたミイさんが、スマホから顔を上げる。その口元に、ふわっと笑みが浮かぶ。それに、ほっとすると同時に胸が一つ大きく鳴った。
可愛い。
「おはよう、馨くん。そんなに急がなくても。待ち合わせの時間はまだだよ?」
「ですよね。え、早くないです?」
現在、約束の十五分前だ。
私の言葉に、可笑しそうにミイさんが笑った。
「そう言うそっちこそ」
「私は……その、癖なので」
「いい癖だねぇ」
「ありがとうございます」
ミイさんが私の頭へ手を伸ばす。察して、ほんの少しそちら側へ身を屈めた。
すると、優しい手が私の頭を擽るように撫でていく。
「私は、ちょっと用事があって早くに家を出たから。そのままこっちに来たんだよね」
「では、けっこう待ったのでは?」
「ううん。着いたの、ついさっき。JRから来たの」
ここは私鉄の駅で、徒歩五分未満のところに同じ名前のJRの駅がある。そうか。ミイさんはそちらを使ったのか。
しかし、それでも待たせてしまったのに変わりない。
「すみません。何だか、しまらないですね」
雨ですし、とつい苦笑と弱音が漏れてしまった。
ミイさんが、そんな情けない私を見上げ、キョトンとした顔になる。
「何で? 時間より早く集まれたし、雨だから、より良いんだよ」
それから、ふふっと笑った。楽しげな、それでいて何処か悪戯な笑み。
「雨だから……?」
「うん。新しい傘を使い出すには、今日のデートが一番いいの」
そう言いながら、ミイさんが外へ向かって歩き出す。
「見て」
そして手にした傘を、バッと開いて見せる。
「これは……」
私の目の前に現れたのは、美しい世界だった。
藍色の空間に、白いクラゲたちが揺蕩う幻想的な光景。
「じゃーん。クラゲ水槽モチーフ・アンブレラ~」
ミイさんが、得意げに言う。
「可愛いでしょ」
「はい、とても」
それは、あまりに今日のデートにお誂え向きな傘だった。
「今日にぴったりですね」
ミイさんが、にっこりと笑みを深めて頷く。
「でしょう? 今日が雨で、良かった」
その言葉を心から言っているとわかる、あまりに楽しそうな笑顔に。
「……本当に」
私は、胸がいっぱいになった。
「じゃあ馨くん、入って。相合傘しよう」
「喜んで」
私たちはひと足先に、私たちだけの水族館を纏って、雨の中へと歩き出す。
END.




