夕焼け、湯上がり、幸福なひと(歳の差夫婦。年上×年下)
その光景は、何故か俺の胸に深く「いいなあ、嬉しいなあ」という気持ちを刻み込んだ。
「じゃあ、上がったらここで」
「わかりました」
ちょっと足を伸ばした先にあるスーパー銭湯。
当然お風呂は男女で分かれるので、上がったあとの待ち合わせ場所を決め、暫しそれぞれの入浴を楽しんだ。
俺は、お風呂全種はもちろんのこと目的のサウナを味わい、整い尽くして浴場を出た。
服を着て、おざなりに髪を乾かし、休憩所へ向かう。
「──……」
そこには、アイスキャンデーを舐めながら、窓の外の暮れゆく夕陽を眺めるおひいさんが居た。
少し離れたところから、その姿を見る。
アイスは、サイダー味。それを大切にゆっくり味わいながら、夕焼けに目を細めている。
湯上がりの頬はしっとりと薔薇色で、艶やかさがほのかに香る。
ゆったりとした微笑もあいまって、それはそれは幸福そうな姿に見えた。
そしてそんな幸福そうな彼女の待つ相手は……俺なのだ。
そのことが、たまらなく嬉しい。
(なんて倖せなことだろう)
多幸感で胸が詰まり、声を出せなかった。
しばらくして、俺に気が付いた彼女が手を挙げる。その微笑は、更に明るく輝きを増す。
ああ、もう。
「嘉助さん!」
可愛くて、愛しくて。
「……おひいさん、ごめん。待たせたね」
倖せだ。
「いえいえ。サウナ、楽しかったですか?」
「うん。いいサウナだった」
「良かったです! こちらも露天風呂が気持ち良くて……、あら」
傍までやって来た俺を見上げ、おひいさんが眉を下げた。
「嘉助さん、髪が半乾きですよ。お風邪をひきます」
「これくらい、大丈夫」
「駄目です。……そうだ、お座りになって」
彼女は、食べ終えたアイスの棒を袋に戻しテーブルへ置くと、立ち上がった。
そして代わりに俺を座らせ、肩にかけていたタオルで俺の頭を拭いてくれる。
「本当は、ドライヤーをもう一度かけて頂きたいんですけど」
「せっかくおひいさんに会えたんだし、また離れるのやだな」
今は彼女と居たい。この気持ちは本当だ。
「もう、上手いこと仰って」
しかし彼女は冗談と取ったらしかった。残念。
「このあと、どうしようか? ここで、ごはんも食べてく?」
「あ、私、気になるメニューがあります」
「いいね、なになに?」
「お素麺なんですけど……」
心地好い彼女の手に身を任せ、今日は横並びでご飯を食べよう、などと楽しい予定を企てる。
この倖せをとことん享受しようと、強く思った。
END.




