これは恋か、はたまた(百合。片想い)
「いらっしゃいませ」
私の目の前で微笑む女性。
深い色のワンピースに、艶やかな黒髪。こちらを射貫くぬばたまの両眼……。
「あ……あああ……」
神が、私の願いを叶えたと思った。
ついに、私の恋する相手……二次元に居る彼女を、この世界へ連れ出してくれたのかと。
周りの喧騒は消え、彼女だけが私の世界に残る。
立体的な形を持って、くっきりと。
凛とした声は、想像通りの響き。
私は、くらくらと倒れそうに──……
「? お客様……?」
「あ、す、すみません! 一名です!」
訝しげな彼女の声に、私はハッと我に返った。
途端、周囲の音が戻って来る。
ざわざわとさんざめくここは、教室だ。
大学の文化祭。
友人の勧めで訪れた、文芸サークルの出し物たる『コスプレ文学喫茶』。その会場である教室。
「はい。では、こちらへ」
そこに、『彼女』が居た。
正しくは『彼女』のコスプレをした部員さん、なんだろうけども。
「こちらメニューとなっております」
「ひゃ、ひゃい……」
「ごゆっくりどうぞ」
艶やかに微笑む様も、また想像通りで。
私の心臓が、ギュンッと高鳴った。
(落ち着け……落ち着け……あれは『彼女』のコスプレをした人であって、『彼女』じゃない……)
メニューには、『銀河鉄道の夜』サイダーや、『斜陽』ジュース、『縮図』最中など、文学作品の名前を冠した飲み物や食べ物が並んでいる。
だが、それらよりも、私は壁際で待機しているカノジョの方が気になって仕様がない。
(な、何で? どうして? コスプレって、もっと有名な作品のキャラとかじゃないの?)
何故、よりによって『彼女』に? 人気絵師さんのイラストとは言え、シリーズものでも何でもない一枚絵の、名前も与えられていない『彼女』を、何故選んだのか。
(あんなに、そっくりに)
「……」
「!」
見過ぎていたのか、カノジョとパチッと目が合った。
しまったと思う間もなく、カノジョが微笑む。
蕩けるように、優しく。
「っっっ」
私の胸が、これ以上ないくらい脈打って苦しい。
おずおずと手を挙げれば、案の定カノジョが来てくれた。
「何になさいますか?」
「こ、この『こころ』ティーで……」
「かしこまりました」
カノジョは私の注文を繰り返すと、去り際密やかに言った。
「『しかし君、恋は罪悪ですよ』」
「!?」
バッと振り返り見た私に、カノジョは一瞬だけ艶やかな笑みを浮かべてみせた。
「──……は」
この胸の苦しさは、『彼女』に対する恋なのか。『カノジョ』に対する新たな何かなのか。
わかりそうには、無かった。
END.




