でっかいマフィンが魔法をかける(百合。真面目×自由人)
晩ご飯の後。
自室で持ち帰った仕事をしていたら、ミイさんに「ちょびっと休憩しよーぜー」と呼ばれた。
ちょうど煮詰まっていたので、ありがたくそのお誘いに乗る。
部屋を出ると、甘い匂いに気が付いた。
果たして、リビングのテーブルの上にはマフィンが二つ乗っていた。
両手で持ってやっと安定するくらいの、大きなチョコチップマフィン。
何というか、見ているだけでわくわくする大きさだ。
早速手に取って、いただきます。
お行儀はよろしくないだろうが、そのままガブリとかぶりついた。
チョコレートとバターの甘味がぐわっと口内に広がる。けれど思ったよりもしつこくない。優しい味だ。
「んっ、美味しいですねぇ、これ!」
「ほんと? 良かった」
ミイさんが、満足げに笑う。
……心なしか、得意げにも見えた。
「がんばって作ってみた。某会員制デカデカスーパーをリスペクトして」
「どうしてまた、そこを?」
いや、あそこは楽しいので、リスペクトの気持ち自体は勿論わかるのだが。
「あそこのマフィンをまふまふ食べてる馨くんが可愛かったから」
「……ちょっと恥ずかしいですね」
「そう? 何かね、癒されるんだよ。平和の象徴って感じで」
そう言いながらマフィンにかぶりつくミイさんこそ、愛らしいし平和の象徴だと思う。
ちっちゃい子みたいに、もぐもぐと頬張って。ほっぺたにはマフィンの欠片。
ああ、なんて可愛い……自分の胸がずっとキュンキュンと騒がしい。
「……うん、いいね」
ごっくんと飲み込んで、ミイさんが微笑んだ。
「馨くんの顔、良い感じに緩んでる」
「え?」
「駄目よー。家でくらい、のんびりしてないと」
もちろん仕事は大事だけどね。と言って、彼女が肩を竦める。
「……怖い顔してました?」
「怖くは無いけど。でも眉間に皺は寄ってたかな」
「すみません」
「家に持ち帰ってるってことは、大詰めでしょ? 無理せずがんばって」
ミイさんの手がこちらへ伸ばされ、私の頭を優しく撫でた。
「はい」
勝手に追い詰められていた気持ちが、ふっと解される。
そうだ。がんばるときは、無理はしない。
気を抜くことは無いが、力を入れ過ぎることもしない。
……うん。
「いい感じに肩の力が抜けました。残りもがんばれそうです」
「ん」
先程より息がしやすくて、目の前が明るい。
すごいなあ、ミイさんは。
こうしてたやすく、私の気持ちを上げてくれる。
「馨くんは、いい子」
「ミイさんは、すごい人です」
真面目にそう言った私に、彼女はきょとんとしたあと、にっこり満面の笑顔になった。
END.




