貴女の笑顔とほんとうのさいわいを祈って握る(同棲百合)
おにぎりを頬張り、清風が満面の笑みを浮かべた。
「んーっ! 美味しいです!」
「……まったく」
つい、呆れた声が出てしまった。
「朝ご飯以外何にも食べてないなんて。夏にそれは自殺行為だぞ」
ダイニングの椅子に座りながら、向かいの彼女に注意をする。
今は、夜。清風が食べているおにぎり(私が急きょ握ったもの)は、彼女にとって、昼食兼おやつ兼夕食だという。
どうしてそうなった。
「いやあ、ご心配をおかけしまして」
清風が、困った風に眉を下げ笑う。
「まさかお昼を食べたと思い込んでるとはね、自分に吃驚です」
なるほど、だからこうなった。
「真っ白な顔で帰って来たときは、肝が冷えた」
遡ること十数分前。
覇気のない声で「ただいま」と言った彼女に、すぐさま「大丈夫か!?」と問うてしまった。そのくらい、彼女の顔色は酷かった。
紙のような白さだった。
「あ、でも塩分飴を舐めたり、水分補給したりは、ちゃんと定期的にしてましたよ」
お茶を飲みつつ、えっへんと清風が胸を張る。
「当たり前のことを偉そうに言うんじゃない」
いや、でも。
「……そのお蔭で、ギリギリ倒れるのは回避できたのか」
「やっぱり」
「二度目は無いと思え」
「やっぱり?」
その反応に、ついため息が零れた。
「本当にお弁当を作ってやりたい……」
「駄目ですよ、あなたの負担が大きくなっちゃいます」
それはいけない、と真面目な顔で彼女が首を振る。が。
「なら自分でしっかり用意してくれ……」
「それが出来たらいいんですけどねぇ」
ギリギリまで寝ちゃうんですよねぇ、と清風が遠い目になり、つられて私も遠くを見てしまう。
「にしても」
彼女が、二つ目のおにぎりをはむはむと食べながら、
「どうして人が作ってくれたおにぎりって、こんなに美味しいんでしょう」
しみじみとそう言った。
その口元と目元は、柔らかく綻んでいる。
──もっと厳しく叱らなければ、とわかってはいるけれど。
こうも倖せそうに食べてくれるのを見たら、厳しい言葉は何処かへと散ってしまう。
(まったく、困ったものだ)
こちらの口元も、勝手に綻んでしまう。
「……祈りがこもってるからだろうな」
「祈り?」
「そう」
言いつつ、私は清風の頬へ手を伸ばした。
「どうか健やかでありますように。美味しく食べられますように。……笑顔になってくれますように」
そして、そこに付いた米粒を取る。目が合って、己の笑みが更に深くなるのを感じた。
「そんな祈りが、自然とこもってしまうから」
「!」
目を丸くする彼女が、愛おしい。何よりも大事だ。この美味しそうに食べる笑顔が、その健やかさが、どうぞこれからも保たれますように。願わずに居られない。
「~~~反則ですよ、充希」
「? 何が?」
「無自覚だし……」
こっちに来て下さい、と小さな声で清風が私を呼んだ。
首を傾げながら立ち上がり、その傍へ寄る。
きゅ、と手を握られ、彼女の頭が私の腕にもたれかかった。
「……あなたの気持ちが伝わって来たので」
髪の間から見える耳が、ほんのりと朱い。
「もう少し、自分のことを顧みます」
照れているのだ。胸が、きゅっと甘く締め付けられる。
「あなたの気持ちに応えたいので」
「……清風」
そっと頬に手を滑らせ、上向くように誘った。
おずおずとこちらを見上げる目端もまた、朱く染まっている。
その部分に、ありがとうのキスを柔らかく落とした。
END.




