第七章 鶴千代、客から相談される
ある日、広美が母の手伝いで芸者としてお座敷に出ていた。
お客様から、「芸者さんは、色んなお客様とお知り合いなのでしょう?警察にお知り合いはいませんか?」と聞かれた。
広美は、「ええ、知り合いはいますが、何か事件に巻き込まれたのですか?」とお客様の相談にのろうとしていた。
お客様は、「じつは先日、用事があり大阪に行ったのですが、帰りの新快速が混雑していて立っていました。電車が揺れた時に隣に立っていた男性の足を踏んでしまいました。男性の仲間数人で無理矢理電車から降ろされて、ポケットやカバンを調べられて、札を全て抜き取られ、免許証も調べられて身元も知られました。“これで済んだと思うなよ。また行くからな。“と薄笑いを浮かべて去って行きました。怖くて家に帰れないです。」と怯えていた。
広美は、「それは災難だったわね。それでしたら、今夜はホテルにでも宿泊して、明日、京都府警捜査一課三係の林主任を尋ねて下さい。林主任には、今晩にでも私から伝えておきます。」と安心させた。
お座敷が終わり置屋に戻った広美は事情を緒方係長に報告して、「芸者にかまってもらいたくて作り話をしたのかもしれませんが、もし本当なら明日私を訪ねてきます。鶴千代からの依頼だと伝えれば前田君も頑張るでしょう。彼に担当させます。」と報告した。
**********
翌日、男性が京都府警に広美を訪ねてきた。
広美が会議室で会うと、昨日のお座敷でのお客様でした。
お客様は名刺を出して、「私は菊池翔太と申します。今、私はやくざに絡まれていて、昨日お座敷で鶴千代さんに相談すると、あなたを訪ねるように助言されました。」と広美を訪ねた用件を伝えた。
広美は、作り話ではなく本当に困っているようでしたので、「聞いています。心配しなくても大丈夫ですよ。」と菊池さんを安心させて、内線電話で前田刑事を会議室に呼んだ。
広美は前田刑事に、「彼は菊池さんで、今やくざに絡まれています。鶴千代に相談したそうです。前田君、鶴千代からの依頼です。対応して下さい。鶴千代には、前田君が担当するから大丈夫だと伝えておきます。菊池さんに何かあれば、鶴千代を失望させますよ。」と指示した。
**********
その後、広美は前田刑事と菊池さんの話を聞いた。
広美は、「今日は日曜日だから、やくざがくるかも知れないわね。前田君、菊池さんをマンションまで送って、近くの喫茶店で待機して下さい。菊池さん、やくざがくれば前田君の携帯に電話して下さい。前田君、現場を押さえるのよ。」と指示した。
前田刑事は、「了解。」と鶴千代の為に張り切っていた。
菊池さんは、「近くの喫茶店ではなく、何故私の部屋で待機しないのですか?」と心細そうでした。
広美は、「もし仲間がいれば、菊池さんが警察にチクッたと今後も付きまとわれるわよ。前田君が近所の住民から通報があったと駆け付けると問題ないと思います。」とその理由を説明した。
その後菊池さんは、前田刑事と京都府警をでた。
**********
午後前田刑事から、「例のやくざが来たらしいです。今から菊池さんの部屋に向かいます。」と報告があった。
広美は、「了解。鶴千代の為に頑張りなさい。」と励ました。
その後、広美は事情を西田刑事に説明して、「念の為に前田君をサポートして。いざとなったら手を貸してやって。」と手を打っておいた。
前田刑事は菊池さんの部屋に行き、「近所の住民から警察に通報があったぞ。お前は流星会の狭山良蔵じゃないか。脅迫の現行犯で逮捕します。」と告げた。
狭山が慌てて逃げようとすれば、西田刑事が階段室から現れて逃亡を阻止した。
狭山を連行して、電車に乗っていた他のやくざも特定した。
狭山は現行犯でしたが、他のやくざは犯行を否認した。
広美は、「電車に乗っていた乗客を捜して目撃証言をとりなさい。」と指示した。
前田刑事は夕方、菊池さんが狭山達と遭遇した時間に大阪から新快速に乗車して目撃者を捜していた。
**********
翌日前田刑事は、目撃者の女子大生を見つけた。
前田刑事は、「目撃者は大阪音大の女子学生、岸田陽子さんで、大学から自宅に帰る時に目撃したそうです。目撃したのは、乗客の一人が数人の男性に絡まれて電車から降ろされた事でした。ホームでの事は電車が発車したので目撃してないそうです。」と報告した。
広美は、「大学から帰る途中?岸田さんは京都に住んでいるの?でしたら、数名のやくざの顔写真を見せて確認して下さい。」と指示した。
**********
その後広美は苗字が同じなので、置屋の客の岸田さんに関係あるのか母に確認した。
初美は、「娘さんがいると聞いた事はありますが、年齢や名前は知らないわ。芸者の指名はしない岸田さんから今夜予約が入ったわ。誰にしようかと考えていたのよ。自分で聞けば?今夜の岸田さんのお座敷頼んだわよ。」とお座敷を押しつけられた。
前田刑事は、「主任、岸田さんの知人と面識があるのですか?」と電話の内容から、岸田さんと関係ありそうでしたので確認した。
広美は、以前岸田さんと雑談した事があり、その時に娘の名前が陽子だと聞いた覚えがあった。
「鶴千代の今夜のお座敷は岸田さんらしいです。陽子さんと関係あるのか他人なのか不明です。鶴千代に確認依頼したわよ。」と前田刑事の反応を見ていた。
前田刑事は、「鶴千代さんを事件に巻き込まないで下さい。私が鶴千代さんのお座敷が終わる頃に料亭に行きます。」と鼻の下を伸ばしていた。
広美は、「オーバーね。ただ、娘さんの事を確認依頼しただけよ。」と呆れていた。
緒方係長が、「そうじゃなく、ただ鶴千代さんに会いたいだけだろう。いや、キスしたいのかな?」と笑っていた。
広美は、「係長!余計な事はいわないでください。」と前田がその気になればどうするのよ。と慌てていた。
前田刑事は、「宴会ではなく仕事で行くのですからそんな事はしないですよ。」と不満そうでした。
広美は、「前田、その言葉に間違いないわね。今晩鶴千代から聞いて、変な事をしていたら許さないわよ。」と前田刑事を睨んで帰宅した。
**********
その晩、広美はお座敷が終わると前田刑事に声を掛けられた。
前田刑事は警察手帳を提示して、「京都府警の前田です。主任が岸田さんの事を依頼したそうですが、どうでしたか?」と確認した。
広美は、残業までしてこんな時間まで御苦労な事ねと思いながら、「お客様の娘さんが岸田陽子さんでした。話の内容から、被害者も数人のやくざも京都に住んでいるようです。やくざと目があったらしく怖がっているそうよ。助けてあげてね。」と前田刑事に色っぽく伝えた。
前田刑事は、「任せて下さい。」と張り切っていた。
広美は、“単純ね。容疑者が女性の場合、彼は使えないわね。”とため息を吐いていた。
**********
翌日広美は捜査会議で、昨日のお座敷での事を鶴千代から聞いたと説明して、「電車の乗客は関わりになりたくなく目を逸らしていて声だけで見ていませんでした。他に目撃者もなく、ホームでの目撃者もいませんでした。数名のやくざが唯一の目撃者である岸田陽子さんを襲う事は充分考えられます。前田君、岸田陽子さんに事情を説明して護衛して下さい。他の刑事で数人のやくざを監視して下さい。」と脅迫事件の目撃者をリスクまで犯してまで襲わないだろうと思いましたが念の為に指示した。
**********
数日後須藤刑事が、「数名のやくざが大阪方面に向かいました。通学途中で襲う可能性があります。」と報告した。
広美は、ただの脅迫事件ではなく、裏に何かあると直感して、「京都と大阪とでは管轄が異なるので、大阪で襲われる可能性が高いです。大阪府警には連絡しておきます。大阪府警と協力して犯人を逮捕して下さい。」と刑事達に警官隊を引き連れて大阪音大方面に向かうように指示した。
更に、「前田刑事、今日襲われる可能性があります。婦人警察官に防弾チョッキを着用して岸田陽子さんと替わるように指示しています。岸田陽子さんを覆面パトカーに保護して下さい。」と指示した。
前田刑事が、「主任、そこまでしなくても、襲われた時に逮捕すれば問題ないのではないですか?」と不思議そうでした。
広美は、「先ほど西田刑事が、やくざの中の一人はゴルフバッグを持っていると言っていませんでしたか?もし、それがライフルだったら襲われた時では手遅れよ。」と指示した。
**********
その後、婦人警察官が到着したので前田刑事が岸田陽子さんに事情を説明して入れ替わった。
しばらくすると西田刑事が、「婦人警察官の前方植田ビルの屋上にライフル男を発見しました。今からでは間に合いません。」と焦っていた。
広美が、「了解、私に任せて下さい。」と連絡して、まさかの時の為にライフルを持ってきていて正解だったわ。通学路を下見しておいて正解だったわ。狙撃ポイントは、やはりあのビルしかないわね。と近くのビルの屋上から監視していた広美がライフルを構えて、「ライフル男までの距離、約百五十m」と目算して、ライフル男の肩に照準を合わせて撃ちぬいた。
その後西田刑事が、「お見事!」と感心して警官隊とライフル男を逮捕した。
狙撃失敗に気付いた残りのやくざが、婦人警察官を岸田陽子さんだと思って襲った。
他の刑事と警官隊が取り囲み全員逮捕した。
**********
前田刑事が、「これで事件解決ですね。」とホッとしていた。
広美は、「相変わらず単純ね。誰か気付かないかと黙っていましたが、ただの脅迫事件でしょう?ライフルまで準備して証人を暗殺する価値があると思うの?誰も不信に感じなかったの?岸田陽子さんは、脅迫以外にも何か見ているわよ。それに気付くまえに暗殺しようとしたのよ。須藤刑事、岸田陽子さんに事情を説明して詳しい話を聞いて下さい。」と指示した。
須藤刑事から話を聞いた岸田陽子さんは、「私も脅迫事件に気を取られていました。そういえば、さわぎの少し前に黒のアタッシュケースを交換していたわ。男の人が電車から無理矢理下ろされたとき、そのアタッシュケースを持っていた人も降りて中身を確認していたわ。」と証言した。
**********
須藤刑事から報告を受けた広美は全員に、「そのやくざをマークして下さい。彼らは麻薬か拳銃か何かわかりませんが、取引しているわよ。まさか、混雑している電車の中で取引しているとは誰も思わないから穴場だったわね。岸田陽子さんを殺害しようとした事を考えると、今後も取引する可能性があるわよ。」と指示した。
その後、広美達は麻薬取引現場を押さえて関係者を逮捕した。
広美は、「彼らは電車内でアタッシュケースを交換して、他の乗客に気付かれないように電車の隅で中身を確認して取引成立していたわ。」と刑事達に説明した。
前田刑事が、「取引は人気のない場所でするものだと思っていましたが、何故そんな場所で取引したのでしょうか?」と不思議そうでした。
広美は、「だから穴場だと言ったでしょう?人が大勢いれば騒ぎも起こせないので騙し打ちの可能性が低く、取引成立の確率が高いのよ。」と説明した。
次回投稿予定日は、6月11日を予定しています。




