第三章 刃物男、町中で暴れる
翌日出勤すると、刑事達は昨日の打ち上げの話をしていた。
キスの話題になってきたので広美は渡辺刑事にだけキスしたので火の粉が渡辺刑事に飛ぶ前に、「ほら、皆、いつまでそんな話をしているのよ!仕事しなさい。」と止めた。
北大路大宮付近で刃物を持った男が暴れていて、数人負傷したと三係に連絡があり、刑事全員で現場に向かった。
広美達が現場に到着すると、刃物男の姿はどこにもなく、最初に現場に到着した交番巡査に事情を聞いた。
交番巡査は、「肩が触れたと男二人で喧嘩になり、片方が刃物を取りだした為に喧嘩の相手は逃げ出して、刃物男がその男を追いかけて、その途中邪魔な人を刃物を振り回して追い駆けて、数人が刃物で刺されたり転倒したりして負傷しました。その人物が南に向かったと思われる為に、跡を追い捜すと、男が車で逃走した為に、刃物男が近くにキーを付けて停車していた車を盗難して追い駆けて行ったとの事でした。」と報告した。
持ち主から、車は白のリバティ、京都ぬ500、46―99と判明し、緊急手配した。
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広美は、「車は交通課に任せて、私達は事件の背景を調べるわよ。」と指示した。
学生時代に柔道部で、体力に自信があるスポーツ刈りの須藤健一刑事が、「事件の背景?ただの喧嘩とは違うのですか?」と不思議そうに首を傾げた。
広美は、「あなたは何年刑事をやっているの!刃物男は常時刃物を携帯していた可能性もありますが、ただの喧嘩であそこまでするかしら?普通は車で逃走すれば諦めるでしょう。最初から彼をただの喧嘩に見せかけて殺す目的で刃物を用意していた可能性のほうが高いとなぜ考えないの!」と何故事件を深く考えないのか失望していた。
前田刑事は、「背後から襲った方が殺せる確率が高いですよね?刃物男は何故そんな事をしたのでしょうか。」と疑問に感じていた。
広美は、「も~、どいつもこいつも役立たず!被害者の交友関係から捜査の手が及ぶ事を恐れて、ケンカに見せかけたとは思わないの?須藤刑事、刃物男が故意に肩をぶつけた可能性がないか、目撃者に確認して下さい。他の刑事で負傷した被害者や他の目撃者に事情を聞いて、はっきり顔を確認した目撃者に加害者と被害者のモンタージュ写真作成を依頼して下さい。」と指示した。
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しばらくして須藤刑事が、「主任の勘があたりました。刃物男は刃物を確認して路地に潜んでぶつかるタイミングで路地から出て来たそうです。」と報告した。
渡辺刑事から報告があり、「被害者と加害者の目撃者が数人いて、モンタージュ写真作成に協力して頂いていますが、目はもっと細かったとか太かったとか意見が分かれて収集がつきません。」と困っていた。
広美は、「役立たず!モンタージュ写真ひとつ真面に作れないの?被害者の目撃情報に食い違いがあれば、全員にもっと詳しく話を聞いて、誰か一人に絞りなさい。」と再び被害者が襲われる可能性があり焦っていた。
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交通課から、「手配中のリバティ発見、現在西大路五条を南に向かって追跡中!」と三係に連絡があった。
緒方係長から連絡を受けた捜査員達は覆面パトカーで急行した。
広美は無線で、「係長、所轄署に連絡して道路封鎖して下さい。」と依頼した。
緒方係長から、「車は一七一に入った。久世橋の手前で数台のパトカーが取り囲んで、刃物を持って暴れている運転していた男を銃刀法違反の現行犯で緊急逮捕した。」と連絡があった。
現場に到着した前田刑事が、「パトカー警官が刃物男を知っていました。暴走族のリーダーで西森友二です。これから署に連行します。」と報告して連行した。
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前田刑事が取り調べた。
「どうしてあんな事をしたのだ?」と襲った理由を確認した。
友二は、「“妹の涼子を拉致した。殺されたくなかったら、ポストに入れた写真の男を殺せ。報道で死んだ事が確認できれば妹を解放する。写真の裏に名前と住所がある。期限は、妹が飢え死にするまでだ。”と脅迫された。涼子に連絡したが連絡できなかった。涼子を助けて!」と焦っている様子でした。
前田刑事が捜査会議で報告した。
広美は、「その話が本当なら、西森友二を逮捕した今、妹の涼子さんが殺害される可能性が高いわ。事は急を要します。ベテランの西田刑事に西森友二の取り調べを任せます。須藤刑事、被害者を恨んでいる人物を捜して下さい。前田刑事、西森友二の自宅のポストに写真を入れた人物を捜して下さい。渡辺刑事、西森友二の話が本当なのか調べて下さい。」と指示した。
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翌日、渡辺刑事が、「確かに涼子さんは行方不明です。行方不明になる数日前から、涼子さんはストーカーされていると訴えていたそうです。確証はありませんが、誘拐された可能性は高いです。」と報告した。
広美は、「西森友二の話から、犯人は涼子さんをどこかに監禁して放置している可能性が高いわ。でも、何とか捜し出さないと飢え死にするわ。」と全員で涼子さんの足取りなど捜査していた。
その後、手がかりもなく涼子さんの生死も不明で捜査員達は疲れていた。
広美は、「このまま、だらだら捜査していてもどうにもならないわ。皆、今日は定時で帰って気分転換して明日から頑張りましょう。」と全員帰宅させた。
他の係は、殺人事件も解決していないのに、残業も徹夜もしないのか?鬼軍曹は何を考えているのだ?と噂していた。
一課長も検挙率が一番高いので大目に見ているようでした。
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広美も帰宅後、母の初美に依頼して気分転換にお座敷に出ていた。
初美は広美が京都府警の刑事なので怪しいお座敷を広美に任せていた。
梅菱商事の木曽雄太副社長が、府議会議員の城島幸雄議員を接待していた。
広美がおしゃくしていると城島議員が、「西森のやつ、失敗しやがって。次の手を考えろ。」と木曽副社長に指示していた。
広美は西森が失敗と聞いて、「その西森さんは、何かヘマでもしたのですか?」と話に割り込んだ。
木曽副社長は、「彼が担当している顧客から契約打ち切りの通知がきた。契約を打ち切らないように次の手を考えているのだ。」と慌てて説明していた。
商事会社の契約について、何故府議会議員が指示するのかしら?嘘っぽいわね。西森の名前も気になるわ。と事件に関係ある可能性も否定できないと判断して、どう対応しようかと考えながら、次のお座敷に向かった。
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次のお座敷は、造り酒屋の慰労会でした。
広美がおしゃくしていると社長秘書が、「今日は社長のお坊ちゃまが、たまたま時間がとれたので顔をだしてくれました。」と社長のご子息を社員達に紹介していた。
広美は、そのご子息が渡辺刑事だったので言葉を失い絶句していた。
広美は渡辺刑事におしゃくして雑談していた。
広美は、「また会ったわね、刑事さん。」と声を掛けた。
渡辺刑事が、「芸者さんは、色んなお座敷で色んな人と会うのでしょう?西森友二という名前をどこかで聞いた事ないですか?」と捜査が進展しない為に、藁をもつかむ思いで不特定多数の客の相手をする客商売の芸者から情報を掴もうとしていた。
広美は、「梅菱商事の木曽副社長と、府議会議員の城島議員を調べれば解るわよ。」と渡辺刑事に捜査させようとしていた。
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翌日渡辺刑事は、「主任、昨日鶴千代さんから、西森友二が梅菱商事の木曽副社長と府議会議員の城島議員に関係あるとの情報を入手しました。」と広美に報告した。
前田刑事が、「渡辺、お前いつの間に鶴千代と・・・」と渡辺刑事を追求しようとしていたので、「前田、今は焼き餅を焼いている場合じゃないでしょう!」と広美が止めた。
前田刑事は、「いえ、決してそんなことありません。情報の信頼性を確認したいのです。私達の捜査でも手がかりが掴めなかったのに、何故鶴千代さんが知っているのですか?どこから入手した情報なのか確認する必要があります。」と鶴千代に連絡しようとしていた。
広美は、「あなたは鼻の下を伸ばすだけだから私が確認しておきます。西森と木曽と城島との関係を調べて下さい。」と慌てて止めて全員捜査に出させた。
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緒方係長が、「林君、前田君が気にしていましたが、どこで入手した情報ですか?」と確認した。
広美は、「私も昨日は気分転換でお座敷にでると、たまたま木曽と城島のお座敷で、そこで偶然小耳にはさみました。次のお座敷が、渡辺刑事の関係のお座敷で、そこで渡辺刑事に伝えました。」と説明した。
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翌日前田刑事が、「梅菱商事が所有している不動産の中に、交通の便が不便な為、現在未使用の事務所が岩倉にありました。」と広美に報告した。
広美は、「何故そんな不便な場所に?」と不思議そうでした。
前田刑事が、「最初は研究所だったらしいのですが、社長交代でその研究が中止になり、その残務処理で事務所だけあったそうです。現在は閉鎖され未使用状態だったそうです。」と説明した。
広美は、「交通の便が不便なら、監禁するには都合がいいわ。その事務所を調べて下さい。」と指示した。
数時間後前田刑事から、「涼子さんを発見しました。無事救出して病院に搬送しました。」と報告があった。
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広美は緒方係長と相談の上、捜査員に、「被害者が死亡したとニセの報道をして頂くように報道機関に依頼しました。監禁場所と、木曽、城島をマークして下さい。」と指示した。
広美は近くに前田刑事と警官隊を待機させて監禁場所で涼子さんに変装して待機していた。
しばらくすると前田刑事から、「主任、やくざ風の男が二人きました。気を付けて下さい。」と無線連絡があった。
しばらくすれば、やくざ風の男が来た。
やくざ風の男が広美に、「お前の役割は終わった。死んでもらう。」とロープで首を絞めようとしていた。
広美はやくざ風の男を投げて、「私の役割って何?」と睨んだ。
やくざ風の男は、「お前は誰だ!」と焦っていると前田刑事が警官隊と入ってきた。
警察手帳を提示し、「京都府警の前田です。殺人未遂の現行犯で逮捕します。」と二人を取り押さえた。
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取り調べの結果、やくざ風の男は木曽副社長に雇われた銀龍会の組員、木島雄介と高島雄一だと判明した。
梅菱商事の木曽副社長と府議会議員の城島議員を捜査していた須藤刑事が、「木曽副社長が城島議員に賄賂を渡して仕事に便宜を図ってもらっていたそうです。現金の受け渡し現場を、梅菱商事の社員に目撃されて、その社員とは関係のない、暴走族のリーダーに喧嘩を装い殺害を依頼して口を塞ごうとしたそうです。」と報告した。
事件も無事解決した。
広美は、「捜査員たちにご苦労様、今日はゆっくり休んでください。」と指示して、涼子さんのお見舞いに行った。
検査の結果、特に異常はなかったために明日退院すると聞いて安心して広美も帰宅した。
次回投稿予定日は、5月25日を予定しています。