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第二章 芸者刑事初手柄

歓迎会も無事終わり、広美は再び怖い鬼軍曹に戻っていた。

数日後、ビルのオフィスの金庫が破られ、たまたま忘れ物を取りに戻った社員と鉢合わせして焦った犯人に殺害された。

翌朝出社した社員が発見して腰を抜かした。

しばらくして我に戻った社員は慌てて警察に通報した。

その後、総務部長に連絡した。

強盗殺人事件として三係に連絡があり、広美達刑事は現場に急行した。

現場に到着すると、すでにパトカー数台が到着していた。

鑑識も到着していて鑑識作業を開始していた。

その後、検死官が到着して死体を調べていた。

    **********

何も知らずに出社した社員から事情を聞くと、被害者は同僚社員と十九時ごろ退社したが、途中で忘れ物をした事を思い出した。

職場より自宅のほうが近いので、一旦帰宅して車で忘れ物を取って、その後ファミレスで食事すると一緒に帰った社員に伝えていた。

鑑識から報告があった。

「犯人は余程焦っていたようで、指紋は拭き取られていませんでした。社員や出入り業者などの指紋を除外すれば、犯人が手袋をしていなければ指紋が判明する可能性があります。」と報告して、社員の指紋採取をお願いしていた。

犯人は社員と鉢合わせしたのは予想外で慌てて逃走したらしく、現場近くで聞き込みをしていると、近くの川に刃物らしき物を捨てている男が目撃されていた。

警官隊が川底をさらった結果、川底から凶器のナイフが発見された。

鑑識が鑑定した結果、形状から凶器だと断定された。血痕は川の水で洗い流されていたが、被害者の血液は検出された。

凶器に残された指紋が前科一犯の鈴木一郎の指紋と一致して、事務所からも鈴木一郎の指紋が検出された。

死亡推定時刻の二十一時三十分ごろに鈴木の目撃証言があった。

犯行時刻が早いという意見もあった。

広美が、「あのビルは巡回警備していて、他のビルの巡回後あのビルに来るために、二十二時ごろに巡回があり、その時に施錠しています。残業していなければ、泥棒にとってはあの時間が一番都合いいのよ。犯人が焦っていたのは、その巡回警備の時間が迫っていたからなのよ。」と説明した。

「なぜ巡回警備で死体に気付かなかったのですか?」と不思議そうでした。

「その点は私も不審に感じて先ほど警備会社に確認しました。物音など不審な事がない限り各オフィスには入らないそうよ。通路を見渡すだけのようですね。企業秘密などもあり、オフィスへの立ち入りを嫌うそうなのよ。」

全員納得して重要参考人として鈴木の行方を追った。

刑事達の必死の捜査にも関わらず鈴木の行方は掴めなかった。

どうやら、鈴木も指紋や凶器の事を思い出して、やばいと判断してどこかに潜んでいると思われた。

張り込みは十二時間交代にして、自宅アパートと立ち回り先を張り込む刑事を残して刑事達は一旦帰宅した。

    **********

広美が帰宅すると母の初美から、「小春ちゃんが急な腹痛で困っています。広美!ピンチヒッターお願い。」と頼まれた。

広美は、“鈴木発見の連絡があればどうするのよ。”と思いながらも渋々芸者姿で都ホテルに向かった。

広美は宴会コンパニオン終了後、帰りにホテルのロビーで鈴木を発見した。

三係に電話した。

「林です。鈴木を都ホテルで発見しました。至急全員招集して下さい。」と指示した。

広美が気付かれないように鈴木を尾行しているとトイレに入った。

“トイレか。さすがに男子トイレには入れないわね。”とトイレの外で携帯を出して電話している芝居をしていた。

“遅いわね。大きいほうかしら”と心配していると、鈴木がトイレから出てきた。

尾行を続けると地下駐車場に向かい車に乗り込んでエンジンをかけた。

刑事達が到着する前に鈴木がホテルから出ると判断した広美は、すぐに地上へ出てタクシーで追跡しようとしていると、自宅が近い緒方係長の車に気付いた。

    **********

広美は緒方係長の車に合図しながら駆け寄った。

緒方係長は停車後窓を開けて、「ごめん、鶴千代さん、今は急いでいるので。」と車を発進させようとしていた。

広美は警察手帳を提示して、「林です。鈴木が今、車でホテルから出てきます。」と報告した。

緒方係長は、「えっ?!林君?」と目を丸くして驚いていた。

広美は、「係長、驚いている場合じゃないわよ。鈴木に逃げられるわよ。」と緒方係長の車に乗り込んだ。

広美が、「今出てきた白のワンボックスカーです。」と報告した。

緒方係長も確認して、「確かに鈴木だ。どこに隠れていたんだ。俺の車には警察無線が搭載されている。全員に連絡して下さい。」と広美に指示して鈴木の車を尾行した。

広美が警察無線で都ホテルに向かっている刑事達に、「林です。鈴木は車でホテルを出て堀川通りを北に向かっています。」と連絡した。

数名の刑事から、「了解。」と応答があった。

応答がなかった刑事達は自宅からタクシーで直接都ホテルに向かっていると判断して携帯に連絡した。

    **********

緒方係長は鈴木の車を尾行しながら、「林君。君が鶴千代だったとは驚いたよ。」と人気No.1の売れっ子芸者の素顔を知り驚いていた。

広美は、「私の実家は置屋です。学生の頃から鶴千代の源氏名でお座敷にでていましたが、今は芸者姿の時に事件が発生して緊急呼び出しされてもすぐに対応できない為に母の手伝いは断っていました。先日係長が引き受けるから、それ以来断れなくなりました。」と不満そうでした。

緒方係長は、「芸者だとも知らずに余計な事をして申し訳なかった。しかし、そのおかげで鈴木を発見できたのでしょう?」と切り返した。

広美は、「確かにそうですね。鈴木も私が芸者姿だった為に尾行には全く気付いていませんでした。鈴木が車でホテルから出た時も、この車に芸者が乗っていたので警察車両だとは気付かなかったようですね。しかし歓迎会の時は係長も含めて誰も私に気付かないとは情けないですね。容疑者の変装を見破れませんよ。いつもきつい事を言っているので、たまには優しく接しようとして先日の歓迎会で優しくすれば、皆私の肩を抱いて鼻の下をのばしちゃって。前田刑事なんか私のホッペにチュウしたのよ。」と歓迎会での事を思い出して笑っていた。

緒方係長は、「えっ?あの前田勉君が?そういえば悪酔いしていたな。」と真面目な前田刑事がそんな事をするとは信じられない様子でした。

広美は、「そういう係長も私に頬ずりしていましたが、白粉がほっぺに付いて奥さんにばれませんでしたか?」と笑いながら心配していた。

緒方係長は、「バカにして笑っているのか?それとも本当に心配しているのか?白粉は拭いたが、臭いで女房が気付いて問い詰められました。スマホで撮影した写真を見せて、芸者に抱きつかれたと説明すれば納得してくれたよ。」と苦笑いしていた。

広美は、「まあ、私を悪役にされたのですね。携帯で撮影された写真を見せたのでしたら、私の芸者姿を奥さんはご存知なのですね。今度奥さんに芸者姿でお会いして、ある事ないこと喋ればどうなるかしら?例えばホテルの部屋に連れ込まれてベッドに押し倒されたと伝えれば、奥さんどんな顔するかしら。」とからかった。

緒方係長は、「おいおい、ちょっと待てよ。」と広美を睨んだ。

広美は、「前向いて運転して!係長の弱点を掴んでしまいました。」と笑っていた。

    **********

しばらく尾行していると、左京区の廃工場に入った事を確認した。

緒方係長は、「まだ強奪された現金が発見されていません。ここに隠している可能性があります。林君、君は芸者姿なのでここで待機して下さい。ここに向かっている刑事達に、今から廃工場の中に入る事を伝えて下さい。」と広美に指示して廃工場に入った。

しばらくすると仲間の刑事達が警官隊を引き連れて到着した。

広美は気付かれないように座席を倒した。

刑事達は緒方係長の車に広美がいる事に気付かずに廃工場に入った。

その後、廃工場内部で応援が到着するまで鈴木を見張っていた緒方係長と鈴木の身柄を拘束して強奪された現金も発見した。

緒方係長は刑事達に、「鈴木を連行して下さい。私はヤボ用があるので、そのあとで署に戻ります。」と車に乗り込んだ。

緒方係長は、「林君、その姿では都合が悪い。あとは私達で大丈夫ですので君は帰りなさい。送って行きます。」と広美を送って行く事にした。

刑事達は係長の車に誰かが乗っている事に気付いた。

誰だろうと確認すると芸者だった。

芸者の顔を確認して、「鶴千代さんではないですか。」と声を掛けた。

広美も軽く会釈した。

前田刑事が、「係長、芸者遊びしている時に主任から連絡があったのですか?鶴千代さんと遊べなくて残念でしたね。でも事件現場にまで鶴千代さんを連れて来なくてもいいでしょう。鶴千代さんに万が一の事があればどうするのですか?ところで主任はどこですか?」と広美がいない事に気付いた。

緒方係長は、「林君は主任として定時後も捜査して鈴木を発見しました。あとは皆さんで大丈夫でしょうと帰りました。」と説明して、張り込んでいた刑事も帰宅させて、残りの刑事達と警官隊とで、鈴木を連行した。

    **********

翌日緒方係長は広美に、「昨日は御苦労さまでした。君が定時後も捜査して鈴木を発見した事にしたので残業届を提出して下さい。」と指示した。

広美は、「ええ、皆に説明している時に昨日私も聞いていました。良いのですか?昨日、私は捜査していませんよ。芸者としてコンパニオンをしていてたまたま鈴木を発見しただけですよ。」と申し訳なさそうでした。

緒方係長は、「こうしないと、何故君が都ホテルにいたのか説明できない。君が鶴千代だとわかると都合が悪いのではないですか?たまに人気No.1の売れっ子芸者、鶴千代に皆の労をねぎらって頂ければそれで良いですよ。」と条件を出した。

広美は、「私の労は誰がねぎらってくれるのですか?」と高い残業代になりそうだと嫌な予感がしていた。

緒方係長は、「君の労は、別に私がねぎらいます。」と今後出費が多くなりそうだと財布の心配をしていた。

広美は、「財布のほうは大丈夫ですか?係長が変な説明するから可笑しな事になるのですよ。ホテルは誰でも行きます。例えば、お見合いだとでも説明すれば問題なかったのではないですか?着物姿だった為に帰宅したと説明すれば問題ないでしょう。」と不満そうでした。

緒方係長は、「君がお見合い?鬼と見合いする物好きはいないだろう。そんな事は天と地がひっくりかえっても・・・・」と笑っていると広美が、「係長!それはどういう意味ですか!その鬼に頬ずりしたのは誰よ!」とブチ切れた。

    **********

緒方係長と広美が雑談していると前田刑事がきて、「主任、鈴木の情報をどこから掴んでいたのですか?私達に連絡頂ければ私達が捜査しますよ。」とあれだけ捜査しても鈴木の逃亡先は掴めなかったのに、広美がどこからその情報を入手したのか確認して、今後の捜査に役立てようとしていた。

広美は、「あなたがチュウした鶴千代から聞いたのよ。」と前田刑事を横目でチラッと見た。

他の刑事達に、「前田!お前歓迎会の時に俺達に隠れてそんな事をしていたのか!真面目なのは表面だけか?本当は助兵衛なのか?」と問い詰められていた。

前田刑事は、「しかし、何故鶴千代さんがそんな事を知っていたのでしょうね?」と責められたので、話題を情報入手経路に戻した。

広美は、「鶴千代がお座敷で聞いたらしいわよ。何でも鈴木は、都ホテルのトイレで麻薬の売人から麻薬を買い、残りの現金は取り敢えず、逮捕された廃工場に隠していたらしいのよ。その現金を持って、他府県に逃亡するつもりだったらしいわよ。」と偶然鈴木を発見した事がばれないように、取り調べで鈴木から聞いた事を説明した。

前田刑事が、「そんな話を何故お座敷でするのですか?人に聞かれる可能性が高いですよね?聞き出したのですか?主任!まさか鶴千代さんに危険な事をさせてないですよね?彼女に万が一の事があればどうされるのですか?」と鶴千代に危険な事をさせたくない様子でした。

広美は、「大丈夫よ。彼女には私がピッタリと貼りついていたから。」と説明した。

緒方係長は、“それはそうだろう。二人は離れられないだろう。”と笑いを堪えていた。

    **********

緒方係長は、広美が責められていたので話題を変える為に、「鈴木を逮捕した夜に鶴千代さんから聞いたが、前田刑事、明日鶴千代さんと会う約束をしたらしいな。」と他の刑事達にも聞こえるように大きな声で確認した。

他の刑事達が、「前田だけずるいぞ!そうだ係長!鶴千代さんの予定は前田が押さえているので、事件解決の打ち上げを明日にして鶴千代さんも呼びましょうよ。鈴木逮捕の時に一緒だったのは知り合いなのでしょう?主任も鶴千代さんに捜査の事を依頼する仲なのでしょう?話をして下さいよ。」と提案した。

緒方係長は、「私も白粉で最初は気付かなかったのですが、先日偶然に鶴千代さんの素顔を知り私の知り合いでしたので驚いています。事件が解決して暇な時は皆でお金を出し合えばホテルや料亭などに呼ぶ事は可能です。安くしてくれるそうだ。明日の打ち上げも頼んでみるよ。場所の予約は林主任にお願いします。」と芸者が来ても場違いではない安い店を広美なら知っているだろうと判断して依頼した。

    **********

広美は昼の休憩時間に更衣室に置いている鶴千代専用携帯に前田刑事から着信があった事に気付いた。

休憩室には緒方係長しかいなかった為に、広美は携帯を休憩室に持って行き、緒方係長に、「恐らく明日の事だと思います。」とハンズフリーで留守電を二人で聞いた。

「京都府警の前田です。明日は他の刑事も一緒でもいいですか?お電話下さい。」と伝言を二人で聞いた。

広美は前田刑事に電話して、「鶴千代です。明日は他の刑事も一緒でも、うちはかましまへんえ。ほな、そういう事で。」と緒方係長と笑いながら返答した。

そこへ前田刑事が来たので広美は慌てて電話を切った。

「あっ!主任、係長、丁度良かった。今、鶴千代さんから電話があって、明日は他の刑事も一緒でもいいそうです。」と何も知らずに伝えた。

広美は緒方係長と、「解りました。」と必死に笑いを堪えていた。

前田刑事は、「二人とも何かあったのですか?」と二人の異様な様子に気付いた。

広美は緒方係長と、「いや、何でもない。」とその場から逃げるように立ち去った。

    **********

翌日広美は職場で緒方係長に、「料理茶屋を本日一九時から二十一時まで予約しておきました。私の顔で安くして頂けるように頼んでおきましたので。」と報告した。

料理茶屋に全員集まった事を確認した緒方係長が、打ち上げ開始の挨拶をした。

「今回も主任の活躍で事件が解決しました。今日は私用があって来られませんが、会費は頂いています。皆さんの希望で鶴千代さんにも参加して頂きました。その主任から伝言があります。“私も会費を払っていますので、鶴千代さんにも食事して貰って下さい。”との事です。鶴千代さんも遠慮なく飲み食いして下さい。それでは乾杯!」と乾杯して打ち上げを始めた。

    **********

しばらくすると広美が、少し頼りない渡辺刑事が一人ポツンとしている事に気付いて声を掛けた。

「どうしたの、一人でなにしているの?」と心配していた。

渡辺刑事は、「私は先日大阪から京都に異動になりました。まだ皆と上手く話を合わせられません。仕事の時も気付けば私一人取り残されています。」と現状説明していた。

広美は、「大阪から移動になったのでしたら、大阪ではどうでしたの?」とまだみんなと馴染めないだけなのか確認しようとしていた。

渡辺刑事は、「いいえ、大阪でも似たようなものでした。」と広美の疑問に答えた。

広美は、移動が原因ではなく渡辺刑事の性格の問題だと感じていた。

渡辺刑事は、「主任は会費を払うから鶴千代さんによろしくと言っていましたが、主任とお知り合いなのですか?年齢的に同級生ですか?テキパキ仕事される主任にあこがれています。」と悩みを打ち明けていた。

広美は、「ええ、同級生よ。あなた、お名前は?」と初対面の芝居をした。

渡辺刑事は、「渡辺善一です。一日に一回でも善い行いをする人間に育ってほしいと親が付けた名前です。」と自己紹介した。

広美は、「先ほどの話は各個人の性格なので仕方ないと思うわよ。あなたにも、どこかいいところがあると思いますよ。」と慰めていた。

渡辺刑事は、「そんな事を言ってくれるのは鶴千代さんだけですよ。鶴千代さんも仕事で僕を慰めているだけでしょう?心の中では暗い奴やな、と思っているのでしょう?」と自分で自分の性格が嫌になっていた。

広美は、“これは重傷だわね。機会があれば彼のサポートをしなければいけないわね。”と心配していた。

    **********

前田刑事が、「鶴千代さん、そんな奴の事は気にしないで皆と一緒に楽しく飲みましょうよ。」と広美の手を引っ張って連れて行った。

広美は渡辺刑事の事を気に掛けながら、皆におしゃくしたり楽しくお喋りしたりしていた。

他の刑事が、「鶴千代さん、先日前田にチュウされたのは本当ですか?そんな事をされたらホッペをビンタしてやればいいですよ。でないとエスカレートして何をされるか解りませんよ。」と前田刑事がこれ以上鶴千代と親密にならないように忠告した。

前田刑事は、「俺を変態みたいな言い方するなよ。挨拶のチュウをしただけだ!鶴千代さんも、そんな事でビンタしないよ。」と雑談していた。

    **********

やがて打ち上げが終わり帰る時に悪酔いした前田刑事が、広美のホッペにチュウしたのを他の刑事も見ていた。

「鶴千代さん、ビンタしないのですか?それじゃ俺も。」と広美はキス攻めに遭っていた。

広美は渡辺が一人ポツンとしていたので、最後に渡辺のホッペにキスして帰った。


次回投稿予定日は、5月22日を予定しています。

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