第一章 芸者刑事誕生
夫に交通事故で先立たれた林初美は三歳の広美を置屋の経営をしながら女手一つで育てていた。
初美は将来広美が芸者になるかどうかは別にして、小学生の頃から三味線や踊りなどの芸を仕込んでいた。
初美は自分が少し小太りなので、広美が太りすぎないように適度な運動もさせていた。といっても、毎朝ランニングさせただけだが・・・。
やがて広美が小学校を卒業して中学生になったある日、下校途中に暴漢に襲われた。
暴漢の被害が連続していた為に、近くをパトロールしていた京都府警の倉田刑事が広美の悲鳴に気付いて駆け付けた。
倉田刑事に助けられて特に被害はなかった。
この事件を切掛けにして、広美は将来刑事になる夢を抱くようになり、柔道の道場に通うようになった。
やがて広美は中学校を卒業して高校生になった。
勉学より柔道に熱中していた広美は女子柔道部の主将を務めていて全国大会で優勝までしていた。
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小学生の頃から適度な運動をさせていた事が報いられて、長身でスラッとした美人女性に育った広美は、刑事になる為に大学では法学を専攻した。
その他、役に立つ事はなんでもしようとして大学では射撃部に入部した。
広美は母の初美から、芸者も人手不足なので学生の間は芸者としてお座敷に出てほしいといつも頼まれていた。
時間がある時は、お座敷に鶴千代の源氏名で出ていた。
他の芸者に比べて、お座敷に出る回数が少なく予約が取りにくいので人気芸者だと勘違いしたお客様から予約が殺到して人気上昇していた。
お客様は、人気芸者かどうかなどは関係なく、他のお客様に予約の取りにくい鶴千代の予約が取れたと自慢したかっただけのようでした。
このように、多忙な大学生活を送っていた広美もやがて大学を卒業した。
その頃には広美も人気No.1の売れっ子芸者になっていた。
母から芸者になるように勧められたが、刑事になる夢を叶える為に京都府警に就職した。
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警察学校卒業後、広美は下鴨警察署に婦人警察官として配属された。
生活安全課に配属された広美は、先輩と町の巡回などを行っていた。
凶悪犯にも怯まず容疑者の追跡も積極的に行ない、柔道で犯人を逮捕していた。
数年後、そのような広美の勤務が京都府警捜査一課長の耳に入った。
捜査一課長は広美の写真を見ると、以前会った事がある事に気付いた。
捜査一課長は広美が法学部を優秀な成績で卒業して刑事志望で捜査一課に異動願いを提出している事を知り、捜査一課に引っ張った。
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辞令を受け取った広美は上司から、「京都府警に栄転おめでとう。」とお祝いされた。
広美は京都府警捜査一課三係に念願の刑事として配属された。
広美が帰宅すると、「京都府警に栄転おめでとう。」と母の初美や置屋の芸者達からお祝いされた。
母から芸者のピンチヒッターを頼まれる事もありましたが、公務員は副業禁止だとか、芸者姿の時に事件が発生して緊急呼び出しされたらどうするのよ。などと断っていた。
数年後、広美の成績が良かった為に捜査一課三係主任に抜擢された。
主任になってから広美は更に頑張り、部下の男性刑事達にも強い口調で指示していたので鬼軍曹と呼ばれるようになっていた。
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非番の日に、母の初美と散歩しながら芸者のアルバイトの話をしていた。
時間の取れるときだけでもお座敷にでてほしいと説得されていた。
近くを通りかかった黒縁メガネで天然パーマの緒方正一係長が、「林じゃないか。今日は林も非番か?お母さんと何の話をしていたのだ?」と広美がプライベートで家族とどんな話をしているのか鬼軍曹の素顔に興味がある様子でした。
広美は、「緒方係長も今日は非番ですか?単なる親子の雑談ですよ。」と挨拶した。
初美は、「係長さんですか?いつも娘の広美がお世話になっています。娘に、非番の日ぐらい家の手伝いをしてほしいと頼んでいたのよ。係長さんからも口添えして頂けませんか?」と商売が置屋だとは説明せずに広美の上司に協力依頼した。
緒方係長は、「家の手伝いだったらしている人もいるぞ。林も家の手伝いぐらいして親孝行しろよ。」と手伝いが芸者だとも知らずに勧めた。
広美が芸者はまずいと説明しようとすれば初美が、「ありがとうございます。広美、来月から一人産休にはいるから人手不足なのよ。予定いれておくからね。二十日の土曜日は特に人が少ないのよ。頼むわね。」と広美が芸者だと説明する前に宣言した。
緒方係長が、「解りました。来月の二十日は林君の勤務は非番にしておきます。林君、親孝行しろよ。」と決まってしまった。
広美が係長に、仕事は芸者なので都合が悪い事を伝えようとしたが、初美がそれを察知して広美の腕を引っ張り、「係長さん、お気づかい感謝します。失礼します。」と広美を引っ張って帰った。
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翌日勤務中に緒方係長が、「欠員補充で、来月十五日に大阪府警から渡辺刑事が配属されます。歓迎会を二十日にプリンスホテルで行います。林君は家の手伝いがあるらしいので無理に出席しなくてもいいですよ。」と自分が広美の母親と決めた事で、最初の手伝いにケチをつけたくない様子でした。
広美は帰宅後小梅から、“当日は小菊と一緒に行ってね。詳しい事は小菊に伝えておきます。”と母からのメモを受け取った。
当日小菊と行くとプリンスホテルだったので嫌な予感がした。
宴会場に小菊と行くと、京都府警捜査一課三係殿と表示された和室の宴会場でした。
広美は、“嘘でしょう?母ちゃんに騙された。“と気付いたが、今更どうにもならないし、芸者姿なので気付かれないかと判断して、いつもきつい事を言っているので今日は優しく接しようと覚悟を決めて宴会場に臨んだ。
逆にその優しさが、鬼軍曹とは別人に見えて誰も広美には気付かなかった。
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最初に緒方係長が歓迎会開始の挨拶をした。
「今日は歓迎会なので芸者を二人呼びました。その為に和室の宴会場にしました。皆さん、足を崩して楽にして下さい。」と挨拶して歓迎会を開始した。
順番に自己紹介して雑談を始め、広美も順番におしゃくしていた。
刑事達は、「おい、小菊は御膳をはさんでおしゃくするが、鶴千代は横に来て体を密着させておしゃくしてくれるぜ。お色気たっぷりでスタイルも抜群で興奮したよ。小菊に聞いたが、鶴千代は人気No.1の売れっ子芸者らしいぞ。」と鶴千代と広美が同一人物だとは全く気付いていませんでした。
結局帰るまで誰も気付かなかった為に広美は、「ったく皆私の肩を抱いて鼻の下のばして誰も気付かないんだから。あれでよく刑事が務まるわね。」と呆れていた。
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帰宅後広美は母の初美に、「今夜の事を何故私に詳しく教えなかったよ。騙したのね。小菊も共犯なの?詐欺罪で逮捕するわよ。」と不機嫌そうに怒っていた。
母は、「お~こわ、刑事の娘を持つと怖いわね。最初に伝えれば行かないでしょう。同僚刑事に広美が芸者だと解ってしまえば、堂々と芸者のピンチヒッターができるわよね?」と嬉しそうにその理由を説明していた。
広美は、「お生憎さま、誰も私の事に気付かなかったわよ。」と母を睨んだ。
母は、「あら、そうなの?残念ね。確かに白粉で顔の雰囲気は気付かなくても、声や雰囲気で刑事なら気付くと思っていたけれども、そんな事にも気付かないようだと犯人の変装を見破れないわね。そんな部下をもつ広美も苦労するわね。警察を退職して芸者になりなさい。」と広美を芸者にさせようとして勧めた。
広美は、「またその話?何度聞かれても私の返事は変わりません。もう寝る。」と不愉快そうに自分の部屋に戻った。
次回投稿予定日は、5月18日を予定しています。




