第十二章 広美の芸者仲間誘拐される
翌日の午後、広美が仕事中に母の初美から携帯に着信があった。
広美は、「何?今仕事中よ。」とまた芸者のピンチヒッターかとうんざりしていた。
初美は、「それどころじゃないわよ。梅駒が誘拐されて身代金要求の電話があったわ。すぐに梅駒に連絡したけれども連絡がつかないのよ。心当たりに電話で確認したけれどもいなくて、踊りの稽古にも顔を出してないのよ。助けて!」と慌てていた。
広美は、「えっ!?」と不機嫌そうな顔から真剣な顔になり、「大丈夫だから落ち着いて。身代金の受け渡しはいつなの?」と体制を整える時間がどれだけあるか確認した。
初美は、「“また電話するから、五千万準備して待っていろ。”と一方的に喋って電話は切れたわ。」と京都府警の刑事である娘を頼った。
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係長や刑事達は身代金と聞いて、「主任、誰か誘拐されたのですか?」と直接広美の携帯に着信があったので、広美の知り合いだと直感した。
広美は、「鶴千代と同じ置屋の芸者が誘拐されました。受け渡し場所など詳しい事は後日犯人から連絡があるそうです。」と全員に伝えた。
緒方係長は一課長に三係が中心に捜査する事を報告した。
一課長は、「それは、林君の実家の事だな。規則で林君を捜査から外すように。それができなければ他の係に担当させます。」と三係が担当する条件を提示した。
緒方係長は、「了解しました。西田副主任の腕試しと説明して、林君を捜査から外します。」と三係で担当すると返答した。
緒方係長は三係に戻り、この事を刑事達に説明した。
前田刑事が、「私が鶴千代さんの置屋に行きます。」と立候補した。
緒方係長は、「君は鼻の下を伸ばすだけだから、目撃者などの聞き込みをして下さい。誘拐された芸者は梅駒で、今朝芸者姿で踊りの稽古に向かったそうですが、踊りの稽古には顔を出していないそうです。林君はここで待機して下さい。残りは私と鶴千代さんが所属する置屋で待機します。」と人員配置した。
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しばらくすると、広美の実家に犯人から連絡があった。
「金は準備できたか?」と確認した。
緒方係長が通話を引き伸ばすジェスチャーをした。
初美は、「五千万なんて大金、右から左に簡単に準備できないわよ。もう少し待って。」と通話を引き伸ばそうとしていた。
犯人は、「芸者遊びするお前らの客は富豪が多いだろう。客から借りろ。但し誘拐の事は喋るな。今晩客に依頼して明日の朝引き出しに行け。午後から取引だ。現金は鶴千代に運搬させろ。午後三時に糺の森で待っていろ。人気No.1の売れっ子芸者の顔は知っている。こちらから声を掛ける。芸者姿でこい。それが目印だ。」と指示した。
初美は、「梅駒は無事なの?声を聞かせて!」と犯人に食い下がった。
犯人は、「通話時間を引きのばそうとしても駄目だ。」と電話を切った。
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電話を終えると初美は、「そんな事、お客様に依頼できないわ。どうしよう・・・」と困っている様子でした。
緒方係長が、「それはこちらで準備します。」と安心させた。
須藤刑事が、「何故鶴千代さんではなく梅駒さんを誘拐したのでしょうか?売れっ子芸者の鶴千代さんのほうが人質としても価値があり、客から大金も引き出しやすいですよね?」と疑問に感じていた。
緒方係長が、「確かに不自然だな。営利誘拐以外に、何か目的があるのかもしれないな。まさか・・・」と席を外した。
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緒方係長は一課長に電話して、身代金の準備と、広美を捜査に加える理由や広美が狙われている可能性もある事を説明した。
一課長は、「了解した。身代金は準備する。林君には私から説明してそちらに向かわせる。」と犯人の指名なので、やむを得ず広美を捜査に加える事にした。
一課長は総務に連絡して、新聞紙で身代金準備の依頼をした。
一課長から犯人の目的は金銭ではなく鶴千代の可能性があるため、身代金は新聞紙で準備したと聞いた広美は、防弾チョッキを着用し拳銃を携帯して芸者の準備の為、一旦帰宅した。
広美は帰宅後、芸者仲間から、「鶴千代姉さん、梅駒を助けて!」と梅駒の事を心配していた。
広美は、「大丈夫よ。警察を信じて待っていて。」と芸者仲間を安心させた。
芸者姿になった広美は緒方係長の携帯に電話して別室に呼んで打ち合わせした。
その後、広美は居間に緒方係長と現れた。
緒方係長は、「これから鶴千代さんが身代金を持って犯人が指定した場所に向かいます。今回の誘拐事件には不自然な点もあり、鶴千代さんが狙われている可能性もあります。各自充分注意して下さい。」と指示した。
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現金に見せかけた新聞紙の入ったバッグを持って、糺の森で待っている広美を刑事達は遠巻きに囲んでいた。
須藤刑事が、「これだと鶴千代さんに近づけないな。」と周囲を見渡していた。
しばらくすると、犬の散歩をさせている青年が近づいてきた。
緒方係長が無線で、「油断するな。」とその青年に気を取られていた。
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鶴千代の身を心配していた前田刑事が草むらから銃口がでている事に気付いて、「鶴千代さん、銃で狙われている!危ない!」と銃を構えて飛び出した。
前田刑事が足を撃たれて転倒し、持っていた拳銃を落とした。
男が銃を構えて、「死ね!」と叫んだ為に刑事達は、「辞めろ!」と銃を発砲したが、木の幹に命中した。
男は木の幹に隠れて広美を殺そうとしたので、広美のところまで膝行ってきた前田刑事が、「辞めろ!鶴千代さん、逃げて!」と立ち上がろうとしたが、拳銃で撃たれた足が痛く立ち上がれずに、尻餅をついた状態で両腕を広げて鶴千代を守ろうとしていた。
他の刑事達が、“前田が撃たれる!“と直感して、「やめろ!」と必死に叫びながら飛び出した。
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男が銃を発砲しようとしたので、前田刑事は殺される!と観念して目を閉じた瞬間、男と広美が銃を発砲して、男の右肩に命中し、広美も胸に銃弾を受けた。
広美が撃たれて前田刑事が、「鶴千代さん!」と焦っていた。
犬の散歩をしていた男が止めを刺そうとして、「止めだ!死ね!」とナイフで襲いかかった。
刑事達が、「やめろ!」と叫び、前田刑事も尻餅をついた状態で広美を庇おうとした手を広美が押し退けて、広美が男を取り押さえた。
須藤刑事が駆け寄り、「鶴千代さん、撃たれたのではないですか?大丈夫ですか?でも何故銃を持っているのですか?」と不思議そうでした。
広美は鬼軍曹に戻り、「何ボケーッしているのよ!共犯に逃げられるわよ!そこの草むら!」と指差した。
草むらから共犯が飛び出して逃げようとしていた。
刑事達は、「こら!待て!」と捕まえると女性でした。
広美は、「あなたが主犯だったの。」と広美も予想外の主犯の正体に驚いていた。
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主犯格の女性は、「畜生!鶴千代!いつもあたい達の客を取りやがって!銃で撃たれたのではないのか?銃を所持していて格闘技の達人の彼を簡単に撃退するお前は何者だ!」と怒りをぶちまけた。
広美は、「人聞きの悪い事を言わないで。あのお客様は、私の芸が見たくて私に乗り換えたのよ。芸者だったらこんな事をせずに芸で勝負しなさいよ。」と説教して警察手帳を提示し、「京都府警の林です。防弾チョッキを着用していたので助かったわ。襲った相手が悪かったわね。刑務所で反省しなさい!」と反省してやり直すように促した。
主犯格の女性は、「鶴千代!てめえ刑事だったのか!」と諦めた。
刑事達は、「主任が鶴千代さんだったのですか?お知り合いですか?」と目を丸くして驚いていた。
広美は、「商売敵のお駒よ。そんな事より、人質の監禁場所を聞き出して早く救出しなさい!」と怒鳴った。
お駒は広美が刑事達に指示して、刑事達は広美に敬語で話している様子を見て、この刑事達をまとめている責任者だと直感した。
お駒は、「死んでも喋るか!お前を苦しめてやる。」と責任者の広美を困らせようとしていた。
広美は、「梅駒にもしもの事があったら許さないわよ。無事なのでしょうね!梅駒が死ねば殺人罪よ。誘拐殺人は特に罪が重いのよ。あなたの人生も終わりよ。刑務所から簡単に出られないわよ。一生でられない可能性もあるわよ。」と梅駒の身を心配していた。
広美は西田副主任に、「お駒が隠れている事に気付かないとは、まだまだね。私がいなければ主犯のお駒を逃がしていたわね。」と睨んだ。
西田副主任は、「犯人が銃を発砲して、前田と鶴千代さんが撃たれたので、それに気を取られていました。しかし、草むらに隠れている人物が何故共犯だと判断されたのですか?」と謝った。
広美は、「草村に隠れている人物が共犯者だと確信したのは、犯人や警察が発砲しても逃げなかったからよ。犬の散歩をしている人物もね。関係なければ普通は逃げるでしょう。監禁場所の特定は、お駒の交友関係と梅駒が誘拐される前後の犯人グループの足取りを追いなさい。梅駒は私の置屋の芸者なのでよく知っていてその行動範囲も知っているわ。私が仲間の芸者や客に確認して調べるわ。」と指示した。
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広美が帰宅して、芸者仲間に色々と確認している様子を見て初美が、「刑事ドラマで見た事あるけれども、身内が関与する事件には関われないのでしょう?」と不思議そうでした。
広美は、「確かに最初は捜査から外されていたけれども、身代金運搬役に犯人が私を指名したので、そのどさくさに紛れて捜査に加わりました。だって梅駒の足取りの確認はお客様にも聞く必要があるでしょう?警察手帳を提示すれば関わりになりたくなくて客も一歩引き、客離れの切欠になる可能性があるでしょう?芸者が優しく聞いたほうがいいと思ったのよ。今夜、梅駒のお客様から声が掛ったら私に回して。」と説明した。
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広美が梅駒の監禁場所を特定したのは翌日でした。
広美は係長に報告して監禁場所に向かった。
その後、お駒の取り調べをしていた刑事から、「えっ、主任はもう監禁場所を特定したのですか?さすが素早いな。監禁場所には、見張り役の男が一人いるそうです。目的が身代金ではなく主任だとすれば主任が危険です。」と係長に報告した。
緒方係長が、広美の携帯に連絡して事情を説明した。
広美は、「それは警察を油断させる為に一人だと言ったのよ。誘拐現場を目撃していた人がいましたが、事件に関わりたくなかった為に黙っていたそうです。誘拐は三人で、昨日逮捕した男達とは人相も体格も違うわ。私を襲う事に失敗した時の事も考えていたようですね。恐らく見張りは一人で、残りの二人は私が来るのを近くに隠れて待っている可能性があるわ。解りやすいように芸者姿で向かっています。」と説明した。
緒方係長は、「無茶するな!防弾チョッキが守ってくれるのは胸だけだ。頭など、それ以外の箇所に弾丸が命中すれば危険だ。仲間が向かっている。それまで待て!」と伝えて、刑事達に無線で事情を説明した。
サイレンを鳴らして緊急走行している覆面パトカーの助手席で無線を聞いた前田刑事は運転している須藤刑事に、「主任が危ない!もっと急いで!」と焦っていた。
須藤刑事は、「主任が心配なのではなく、鶴千代さんが心配なのでしょう?落ち着いて。事故を起こせば元も子もない。」と冷静でした。
緒方係長は、広美の同僚芸者が誘拐されて一人で暴走する新人刑事だった頃の悪い癖がでたなと心配していた。
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現場に一番乗りした広美は梅駒を一刻も早く救出したかったので、緒方係長が心配していたように、仲間の刑事が来るのを待たずに周囲を警戒しながら監禁場所に向かった。
広美が予想したように男二人がナイフで襲ってきた。
広美は警棒で二人とも撃退した。
そこへ仲間の刑事達が警官隊を引き連れて到着した。
男二人は逮捕されて監禁場所に行くと、残りの一人が梅駒にナイフを突き付けて、「来るな!殺すぞ。」と叫んでいた。
梅駒は、「鶴千代姉さん。助けて!」と怯えていた。
広美は、「落ち着いて。あなたはまだ若いわ。今なら充分やり直せるわ。誘拐殺人は特に罪が重いのよ。梅駒を殺せばあなたの人生は終わりよ。ナイフを渡して。」と犯人に手を差し伸べた。
広美は犯人の様子に注意しながらゆっくりと近づいた。
やがて広美は犯人のナイフを持っている右手を掴んだ。
犯人はナイフを離して、その場に泣き崩れた。
誘拐グループ全員を逮捕して連行した。
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取り調べで、なぜ鶴千代ではなく梅駒を誘拐したのかを確認した。
お駒が、「本当は鶴千代を誘拐してなぶり殺しにしようとしたが、売れっ子芸者には取り巻きが多く、一人になる事がなかったので梅駒を誘拐して鶴千代を呼び出して殺そうとした。」と供述した。
共犯者の男達との関係と拳銃の入手経路を確認した。
お駒は、「高校時代の不良仲間よ。成功すれば私の体を自由にさせてあげる。と条件を出せば、男の不良仲間は喜んで私の仲間になったわ。やくざの組員になっている不良仲間が拳銃を準備したのよ。」と説明して事件は解決した。
次回投稿予定日は、7月6日を予定しています。
第一部はこれで終了です。次回から第二部の投稿を開始します。




