波旬、その暴虐
直後、刹那にも満たない一瞬。アロウの腹部にかつてない衝撃が奔った。血の華が周囲に散る。
波旬の笑みが、すぐ近くに近付いている。まさか、此処まで接近を許すとは。不覚だった。
「・・・っ、がはっ!!!」
アロウの腹部に、波旬の拳が突き刺さる。比喩ではない、本当に拳がアロウの腹部にめり込み、そのまま突き刺さっているのだ。その恐るべき威力に、アロウは愕然と目を見開く。
波旬は邪悪な笑みを浮かべながら、拳を引き抜く。血が周囲に散った。
アロウは腹部を押さえ、よろよろと数歩後退した。今ので、一体どれ程のダメージを受けたのか。
「よもやこの程度で死ぬとは思ってはおらぬよ。立て、もう少しわしの調整に付き合って貰う」
「・・・・・・っ」
その瞬間、アロウは目の前に真の絶望を見た。これぞ真の魔王、第六天魔王波旬の暴虐なのだ。恐るべき事にこの魔王は、アロウがこの程度ではないと本気で思っている。
つまり、相手を常に過大評価しているのだ。魔王たる者、この程度ではない筈と。故に、波旬はその暴虐の手を一切止めようとしないのだ。暴虐を緩める事をしないのだ。
それ故、その暴虐は決して止まる事はない。大魔王は嗤う。
「ふむ、では往くぞ!!!」
音を追い抜いて、雷速すらも追い抜いて、波旬はアロウに猛攻を加えていく。胸部、脇腹、肩、腹部と刹那にも満たぬ一瞬の内に、アロウはその身体に拳を叩き込まれていく。
その一撃一撃が、必殺の威力を有している。恐るべき猛攻だ。しかし、それでも波旬にとってはこの程度の攻撃は所詮、鈍った腕を調整する為の軽い戯れでしかない。
つまり、波旬にとってはこの程度、全く本気ではない。そもそも、これは攻撃ですらない。
・・・第六天魔王波旬は強い。この大魔王こそ、最強の魔王だ。それ故、この大魔王は相手を自身と同等のレベルで見る悪癖がある。この程度では無い、まだまだこの程度では無い筈と。
本気を出した事はなくても、この大魔王は加減という物を知らないのだ。故に、すぐに壊す。
嗤いながら、大魔王は猛攻を加える。連打連打連打、更に拳を打ち込んでゆく。
そして、それはアロウにも来た。
ぼぎゃっ!!!鈍い音が、辺りに響き渡る。血が、周囲に飛び散る。もはや、周囲は血の海だ。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
アロウは静かに頽れた。波旬という暴虐を前に、ついに壊れたのだ。もう、ソレは動かない。
虚ろな目で倒れるソレを、波旬はつまらなそうに見ていた。
「何だ、この程度で終わるか。・・・・・・つまらぬ」




