波旬降臨
信長とアロウが戦っている最中に、それは唐突に起きた。にやり、何者かが嗤った。その直後。
ドクンッッ!!!信長の中で何かが脈打つ。信長の目が、大きく見開かれる。
「ッッ!!?」
「っ!!?」
その変化に、アロウも感付く。何かが、来るっ!!!瞬間、信長を中心に暴風が吹き荒れた。物理的な暴風では断じて無い。霊的な嵐が信長を中心に吹き荒れる。余りの暴力的な力の渦に、アロウが焦る。
これは、拙い!!!何か、途方もなく拙い何かが来る!!!
それを感じた瞬間、アロウはヨーランの方を振り返った。
「ヨーランっ!!今すぐ此処から離れろ!!!全力でだっ!!!」
「・・・・・・はい?」
しかし、何もかもが遅かった。
瞬間、霊的嵐は弾け飛んだ。静寂が訪れ、しかしそれでも尚圧倒的な力を感じる。
其処には姿形こそ信長だが、断じて彼では無い何者かが居た。あまりに異形で禍々しい。その力の発露にアロウは冷や汗を流す。口元が、自然と引き攣る。ヨーランも、今更ながら冷や汗を流す。
その異形で異質な力に、ヨーランも異常に気付いたのだ。
「・・・貴様、何者だ?」
「・・・波旬。第六天魔王、波旬」
アロウの問いに、信長だった者はそう、嗤いながら答えた。
第六天魔王波旬。他化自在天、第六天欲界を司る魔王。天魔とも呼ばれる、人が仏に至る道を阻害する欲界の魔王である。その波旬が、化身である信長の身体を使い降臨したのだ。
「はは、ははは、あはははは、はははははははははははははははははははははははははっ!!!」
波旬の哄笑は天地に響き渡り、それだけで可視可能な波となった。世界が揺れ動く。大地が砕ける。
その衝撃の波だけで、ヨーランは彼方へと吹き飛ばされる。悲鳴が遠くへ。
波旬は一頻り笑うと、やがてアロウへと視線を向けた。その視線だけで、圧倒的な圧力が襲う。その圧力はまさしく魔王と呼ぶに相応しい。視線一つで物理的な圧力が伴うのだ。
もはや、アロウからして規格外と言わざるを得ないだろう。それ程に、波旬は圧倒的なのだ。
しかし、たかが視線程度に屈服するなど、魔王として恥さらしだろう。故に、アロウは渾身の力でその視線圧力に抗う。アロウは全力で力を解放した。
「おおおおああああああああああああああああああっ!!!!!!!!!」
「・・・・・・ほう?」
その抵抗に波旬が嗤う。直後、更に圧力が増す。倍という程度の話では無い、一気に圧力が上がる。
その圧倒的圧力に、アロウは必死に堪える。歯を食い縛り、全力を超えて力を解放する。
「があああああああああああああああああっ!!!!!!!!!」
全力を超えて力を解放した結果、その抵抗の甲斐あって圧力を弾き返す事に成功した。
アロウは荒い息を整え、波旬を睨む。しかし、当の波旬は面白そうに嗤うだけだ。
その瞳は、愉悦の色を浮かべている。波旬にとって、今の視線は攻撃ですらない。只の戯れだ。
「面白い」
故に・・・只、波旬はそう呟いた。




