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009 『ヒロインんん』は大物! っていうかアレ過ぎる



 ★★★



「アコナイト殿下には王城にて、国王陛下夫妻を支えて頂きたいとお願い申し上げておりましたが、学園の生徒を守ると、突っぱねられましたな」


 突如、第三者の声が掛かり、全員がそちらに注目する。


「お帰りなさいませ、旦那様」

 逸速く反応し、軽くドレスを摘まんで挨拶をしたのは、妻のカメリアだった。

「ああ、今戻った。カメリア、ホーリー、ローズ。随分賑やかな事だな。そう思うだろう、ウィロウ」


 『ヒロインんんと愉快な逆ハー達』がなだれ込むように押し入ってきた扉は、開け放たれたままだった。

 そこから堂々と入室して会話に加わったのは、この屋敷の主であり、宰相の職務に就いているカーティス公爵、その人である。


「お、お帰りなさいませ、父上」

 ただ、視線を向けられて声を掛けられただけなのに、竦み上がるウィロウ。

 疚しい事があると言わんばかりの態度に、目を細め、視線を切って捨てる公爵。カメリアとホーリーは、自分達とほぼ同じ結論を出したのだろうと感じ取った。

「私も客を連れてきた。ロクなもてなしが出来ないのは、カーティス公爵家当主としても忸怩たるものがあるが、状況が状況だ。仕方有るまい」

 そう口にしつつ、自らが案内してきた人々を振り返る。


「皇太子殿下のお側に控えておったというから、それも役割だと思っていたのだが。報告にない事実が、後から後から発覚しおる。一体全体どういう事なのだ。のう? ヴァイン」

「父上……!?」

 この場にいる人々の中で一際立派な装備を身に纏い、ヴァインを睨み付ける騎士団団長。


「ここに来る前に学園に寄ってきたよ。実技の時間で魔道具を作製して、討伐には間接的に協力していたと言っていたね。先生に何をして口裏を合わせてもらったのか、吐き出させなくちゃなぁ。『四月から教室で見ていない』とクラスの生徒達に言われて、身の置き所がなかったんだよ、父さんは。君の弁明が楽しみだなぁ〜。何と言ってくれるんだい、トランク。失望させてくれるなよ?」

「……お父様」

 魔術師団団長を表す紋章が縫い付けられたローブを身に付け、手に持った杖で息子の顎を持ち上げる父の目は、獲物を定めたソレだった。


「学園を一時休学し、仕事を手伝ってほしいと手紙を認めたけど、何の音沙汰も無かったよね。王都や討伐部隊の前線が物資不足に陥らないよう、あちこち駆けずり回って調整して、大変だった。不眠不休で働いていた時、君が傍に居てくれたらどんなに有り難かっただろうか。そう思った私は我儘かい? リーフ」

「父さん……」

 力なく、他の父親達よりも遠い位置からリーフに声を掛けるのは、王都、いや王国でも一、二を争う商会の会長だ。

 両脇を武装した兵士に挟まれているからだろうか。酷く顔色が悪いように映った。


 リーフの父の近くで、やはり兵士達に挟まれた男の顔色もまた、酷く悪かった。

「ピーチ……」

「あ、お父様! うれしい。かわいいピーチに、わざわざ会いに来てくれたのね!」

 父、であるローリー男爵の方を振り向いて、両手を胸の前に組む。『無邪気で愛らしい、わ・た・し☆』をアピール。駄目押しのウインクだって忘れない。

「……」

 ピーチの振舞いを受けて、言葉を発する事も出来ない男爵は、血の気の完全に引いた、白い、亡霊の様な姿を晒していた。


「私はローズとウィロウの双方に、作戦に参加して前線で魔物を討伐せよ、と言い渡した。魔法実戦コースに所属しているのだ。誂え向きだろう? ローズのクラスメイト達が協力した王都の守備にすら、ウィロウが不参加だった事は、もうすでに調べがついている」

 ビクリとして俯くウィロウ。

「逃げ出した貴族がいなかったわけではない。その上学生の身だ。学園も王都も、非常時であった為、罪に問うような事はない。それ相応の評価を甘んじて受けるだけだ。……普段は威勢のいい口も、魔物の前に怖じ気付いたか。日頃の二人とは逆だったな。ローズ」

「はい、お父様」

「夏期休暇前の試験、ウィロウが一つも受けていないというのは、真か?」

「事実です」

「まあ……!」

 カメリアは扇子で口元を隠し、貴婦人らしさを保とうとはするが、見開かれた目は末子から逸らせないでいる。

「七月に入って、私が再び学園に通えるようになってから昨日まで、ウィロウを学園内で見た事は一度としてありませんでした。すれ違っているのか、避けられているのか、わかりませんが。今日顔を合わせたのは春期休暇以来になります」

「おいおい……。同じ学園、同じコースに所属する双子の姉弟が半年近くも顔を合わせていないなんて、どうかしているとしか思えない」

 元から不仲気味だったのは知っていたが、ローズの話を聞き、妹弟の姿を交互に見て呆れたように話すホーリー。

「愚息のウィロウを含め、どこで、誰と、どのように過ごしていたのか。明らかにせねばなるまい。」

「順番に参りましょう、宰相」

「なんだっけ、トランク。舞踏会でドレスとワイン?」

「アコナイト殿下。いつ、どこで開催された舞踏会かお教え下さい。騎士団として、徹底的にお調べ致しましょう」

「七月の頭に王宮で行われた舞踏会だ。王家が主宰した催しがあっただろう」


 そのアコナイトの発言が響いた瞬間――リンデン、ローレル、ホーリー、騎士団団長、魔術師団団長、ローズの態度が急変する。

 両手で顔を覆ったり、遠い目をして天井を見上げたり、両手を膝に付けてがっくり項垂れたりと様々だ。

「……うぅ〜〜」

「っ! どうか泣かないで、ローズ嬢。もうあの書類地獄は終わりました」

「うぅ、ハイ……」


 態度が急変した面々を見渡して、ゆっくりと首を左右に振る宰相。

 『ヒロインんんと愉快な逆ハー達』は事態がまるで呑み込めなくて、ただ狼狽えるばかりだ。


「七月の頭に王家が主宰で、王城で執り行われた舞踏会は唯一つ。春の魔物の大発生。無事に大多数の討伐を成し遂げた戦士達の偉業を称えて労う為のものです。ただし……」

「私、ローレル、騎士団団長、魔術師団団長、宰相補佐のホーリー、学園代表のローズ嬢は、参加出来なかったのです」

 当時を思い出して口にするリンデンは「自らの手柄であるように喧伝したい、グリム侯爵派の差し金だろうね」と続けて口にする事は慎んだ。

「会場に始終と言っていい程いらっしゃったアコナイト殿下が、何故思いあたらないのですか? 不可思議でなりません」

 宰相はアコナイトが、グリム侯爵や王妃に持ち上げられたり、ローリー男爵の娘を連れて、取り巻きと騒いでいたのは把握していた。ただ、それとローズ達の不在の認知は別の事柄だろうと、「ここまで阿呆だったか」と不思議に思って頭を捻る。

「……っ! で、ではローズはどこに居たというのだ」

「離宮の一つだよ。先程私が名前や役職を挙げた人達は、軟禁されていたんだ。王妃様の張った結界に閉じ込められてね」

「母上が!? 何の為にそんな事をする必要があるのだ。リンデン兄上といえど戯れ言を申すとただでは済まさぬぞ!」

「アコナイト殿下。討伐は、ただ魔物を打ち倒せばいいと言うものではありません。遠征終了後は必ず、大量の書類や資料を纏め上げ、記録に残さねばならぬのです」

「舞踏会当日を含めた前後の数日間、ローズ嬢は、私の部下である魔術師団のメンバーと共に離宮にいましたよ」

「騎士団団長の誇りにかけて、ローズ嬢は舞踏会に一切関わる事が出来なかったと証言致しましょう。私は実際にローズ嬢に手伝ってもらった。ローズ嬢の筆跡の書類などもあるだろう」

「離宮勤務の使用人達も、また他ならぬ王妃様も、妹の無実を保証するでしょう」

「で、では、階段はどうでしょう? 僕、涙を流して震えていたピーチと確かに一緒にいて、『悪いのはローズだから、僕がとっちめてやるっ!』って、いっぱいピーチを慰めてました」

「……。ほう」

 下の息子の発言に目眩を覚えた宰相は、妻と後取り息子の顔を見る。二人は揃って首を横に振る。


「うっ……、グスングスン! ほんとぉなんです。鬼のようなお顔をしたローズ様がぁ、後ろから私を……。すんごく怖かったんだからぁ。ね、ピーチを信じてください」


 『涙目でウル・ぐっすん! やぁだ、ピーチってばチョーかわいそう。守って守って!』なピーチを抱き締めるアコナイト。

 上目遣いでの全方位媚びコビに、『愉快な逆ハー達』以外の人々は全力でドン引きしている。


「それは、いつの事なのかしら?」

 ナニカを散らすかのように、扇子を扇ぎながら問いかけるカメリア。

「「昨日です」」

 続くウィロウとピーチのハモった返答に、言葉が上手く続かない。

 沈黙、イコール、ローズのピンチを確信したピーチは、『やぁだぁ、信じて信じて! でないとぉ、ピーチってばプンプンしちゃうんだゾ』としなを作って畳み掛ける。

「きのうのことです。食堂の二階で夕食を食べたあとでした。食事の時間は、正面の階段はすごくこんじゃうから、人通りの少ない、もう一つの階段を使ったんです。でもでも、きっとそれがよくなかったんですぅ。ピーチの方が、アコナイト殿下や大切なみんなに、とっても愛されてるからぁ。ローズってばしっとのほのーがメラメラでぇ。なんて言ったってえ、『花火師』だし? つい、デキゴコロで、可憐なピーチを突き落としちゃったんだと思います」

「おお、悪意という毒牙にかかろうと、より強い輝きを放つ、私のピーチ。なんてかわいそうなんだ……。嫉妬に狂った醜いローズなぞ、私がその場にいたら切り捨てていた事だろう」

「アコナイト殿下ぁ〜〜、しゅてきしゅぎ〜!」


 ピーチとアコナイトの遣り取りを聞かされて、幾人もの人々の額に青筋が浮かび、また、切り捨ててしまいたいのを全力で堪えていた。


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