069 僕達の夕食会② 〜前菜の物語添え〜
途中から物語になります。ローレルの口調の語りではありません。三人称、かな?
★★★
「公爵! シルヴェスター公爵家にはあの大広間の仕掛けと儀式について、効果も含めて今も伝わっているのですか?」
王ですら聞かされていなかった、城の大広間の秘密について。あらかじめ知っていたのにも関わらず、それらしい事を一切告げてこなかったシルヴェスター公爵。
兄上は立ち上がらんばかりに声を上げて問いつめようとしたが、そのタイミングでパインが前菜の皿を置いたので、勢いをそがれて口をつぐむ。
「左様です。シルヴェスター家の当主にのみ伝わる手記に、詳しく残されておりました。私の先祖にあたる者が、王族によるあの儀式の続行を止めさせようです。記録に残る最後の術の発動では行使者が無理に儀式を続けた結果倒れられて、そのまま表舞台からは姿を消したと。極度の魔力枯渇による後遺症で、残りの生涯をほぼ寝たきりで過ごされたようです。共議の末『白の精霊殿』に休止の声明を出して頂く事で、周囲を納得させました。それから、国内の図書館や学園に存在していた関連資料を閲覧禁止に。また王家の喧伝の為に、『奇跡の魔法』の物語として市井に出回っていた本を回収。数世代をかけて、完全に忘れられた魔法とする事に成功しておりましたな。唯一公にされている申し伝えは、『大広間の改修を行う際は、造りや床の模様を変えない事』と。ただ、シャンデリアや床のタイルなど大広間の大部分の物に【自動修復】の魔法がかけられているので、無用の心配ではありますが」
「王家の禁書庫には、それらしい記述の資料は見受けられませんでした。その点については事情を知っていますか、公爵?」
シルヴェスター公爵の口から次々と明かされる歴史。僕も驚いていると、兄上がまるで詰問するかのような声をかけた。
というか兄上。あの膨大な禁書庫の資料、もう全部読んだとでもいうんですか? いつの間に? 父上に報告する為に、本や資料のタイトルだけは毎回メモを取らせてもらってたけど。……あー、そういえば確か。一時期『王家の歴史』に関する物を、片っ端から読みあさっていたみたいだし。ひょっとすると、それかな?
公爵は兄上の勢いに動じる事などなく。ただ静かにまっすぐに、兄上の目を見つめる。
しばし二人は無言のまま顔を見合せていたが。ややあって、公爵がゆっくりと口を開いた。
「当家と『白の精霊殿』で、それぞれ預かっております。試すのも危険であると、王家の禁書庫に本来あるべき物は『白の精霊』様が持っていかれたと。手記にはこうも残されておりました。『ただこれは一時的な休止である。いつの日にか再び適格者が現れた際には、『白の精霊殿』と協力を取り合い資料を渡し、大広間の儀式の復活に向けて動くべし』と。今日の日を迎える事は、代々の宰相を輩出したシルヴェスターの使命となり悲願ともなっておりました。――リンデン王子が正式に『もう一つの継承権』を引き継いだ暁には、『白の精霊殿』に保管されている文書は返還される事となるでしょう。当家に伝わる物は『学術のシルヴェスター』としてこのまま収蔵し、未来へと正しく遺していく事とします」
んん??? 『もう一つの継承権』って? 学術? あれ? シルヴェスターは内務の公爵家じゃなかったっけ?
★★★
全員に前菜の皿が行き渡ったので、僕達はひとまず夕食を摂り始める。お皿にのっているのは様々な料理の盛り合わせだ。おそらくだけど、舞踏会の会場に並べられているのとだいたいは同じ料理か、もしくはソースなどの味付けがちょっと違うくらいだろう。
僕はまず冷製のお肉から食べ始めた。もぐもぐもぐもぐ……。たぶん魔物系の鳥肉だと思うけど。初めて口にしたな、これは。
この夕食会の給仕の主導は、王宮勤めのグラスとパインだけど。年長者であるシルヴェスター公爵家の男性使用人の事を、二人共ちょっと気にしているような感じだな。ある程度以上の家に勤める使用人は、国立シード学園の王宮使用人育成コース出身だという話だし。たぶんだけど、先輩なのかもしれない。彼は彼で気を使われているのに遠慮をしてやや下がり、マクローリン家のメイドに一言二言アドバイスをしている。
「何から話始めたものでしょうな……。ローレル王子はこのような話はご存知ですか? 大陸を守護する『白の精霊』ことホワイトドラゴンは他のドラゴンよりも長命で、優に一万年は生きられるそうです。中央大陸のホワイトドラゴンが『ハーモニー山脈』に居を構えてから今日までの間に、ヒトの文明は二度ほど滅びかかったみたいなのですよ」
僕は口に運ぼうとしたフォークをピタリと止めて、シルヴェスター公爵の方を振り向いた。い、いきなり壮大なトコロから話始めたな。
公爵は僕の顔を見ると「ニコリ」と口の端を上げてから、手が止まった僕とは反対に前菜をパクパクと食べ始めた。いや自分でもマヌケな表情になっているんだろうな、っていうのはわかるけど。何というか、とらえどころがまだよくわからないおじいちゃんだな。でも食欲はあるみたいだから、その点は安心かも。
「そのお話は初めて聞きました。さっきまで、アドベント神聖国のようにドラゴン達を怒らせてはいけないとか、そういう話を兄上達としていたんですけど」
公爵に返事をした僕は、フォークに刺したままの焼き野菜を口に入れた。父上の誕生祝いの期間中は、カーティス公爵領でもとっておきの食材が料理されて振舞われる。お肉の方が好きな僕だけど、この野菜はとってもおいしい!
さっきは僕の手を止めさせて、自身は次々と食べ進めていた公爵だけど。僕の言葉を聞いた後、今度は彼の手が動かなくなった。
「アドベント神聖国ですか……。陛下の御前で、書状の内容は共に確認致しましたな。まぁカーティス公爵とマクローリン公爵に『処遇は任せる』と笑顔で告げたところ、非常に恨みがましい表情で睨まれてしまいましたよ」
公爵はバーチの方を向いて笑みを深めると、まるで見せつけるように「パクッ!」と料理を口に入れる。すると、お次はバーチの手が止まった。前菜には含まれていないはずなのに、酸っぱい物を食べた顔になっているな。
……というか、これは何? 新しいゲームなの? シルヴェスター公爵は、なかなかお茶目でゆかいなおじいちゃんなのかもしれない。
「話を戻しまして。ヒトの文明が二度滅びかけたという事についてですが。一度目に滅びるより以前は、極端な魔力至上主義の暮らしをしていたそうです。身の回りのありとあらゆる物が魔道具化され、非常に便利で快適ではあったようですよ。所謂『遺跡型』と呼ばれるダンジョンはこの時代の名残で、得られるアイテムも古代の有益な魔道具が主ですな。――さて、ここで問題です。一体どうして滅んでしまったのでしょう。答えられますかな? ローレル王子、オーキッド嬢?」
今回は僕とオーキッド嬢が手を止める番だ。とはいっても、元々子供向けに少なめに盛り付けられていた一皿目を、彼女はすでに食べ終えていたんだけど。
僕はオーキッド嬢と目を見合せてから、首を傾げつつも思った事を口にする。
「えっと……。何か昔、絵本でそういうのを読んだような読まなかったような」
「――ああ! 『すべての まりょくを ほしがった 王さま』でしたわね。私、つい最近も読みましたわ。どこの国にもこの物語は伝わっておりますし、絵を見くらべるのが楽しくて、各国の絵本を集めていますの。ストーリーはだいたい同じですし、文字の勉強にもなりますわ」
僕と違って内容まで熟知しているオーキッド嬢は微笑むと、楽しそうに物語をつむぎ始めたのだった。
★★★
昔々ある所に、魔道具作りで世界にその名を知られた国がありました。
その国の王子は父王の跡を継いだ時に、「どうせならイチバンの魔道具を作って、世界中を我が国の魔道具でいっぱいにしたい」と目標をたてたのです。
今よりも世界に魔力が満ちあふれ、精霊も身近にいた時代。
王様はまず、魔道具を動かすのに必要な魔力は常にたくさんあった方がいいと考えます。
この時目をつけたのは、豊富な魔力のカタマリと言ってもいい精霊達。
どうにかして捕まえられないかと近づいた王様は、話をするうちに精霊達がとっても知恵者だという事を感じ取りました。
そこで精霊達を、魔道具を開発したり作ったりする技師にしようと思いつきます。
ふわふわと頼りない精霊達をヒトと同じように扱うために、『素体』と呼ばれる飾りの少ない人形のような魔道具を真っ先に生み出した王様の国。
術を使って契約をすると『素体』に精霊が宿り、ヒトと変わらない行動ができるようになりました。
ヒトの暮らしに興味があった精霊達はこぞって王様の元に集まり、『素体』に納まって王様の国の民として迎え入れられます。
彼らの協力を得られた王様の国は、まさに百人力。身の回りの全てのモノを次々と魔道具にしていきます。
また術と契約によって縛れるのをいい事に、自分の部下も民も家族でさえも魔道具にしていってしまう王様。
だけど彼は知りませんでした。
魔道具を動かすのに必要な魔力は、世界に精霊達がたくさんいるからこそ、正しくめぐっていたのだという事を。
『素体』を通じて国に縛りつけてしまったせいで魔力が滞り、肝心の魔道具がだんだんと動かなくなっていく事に、王様はあせってしまいます。
そこで王様はまだ動く魔道具達に命令を出して、魔石を得るために狩りつくす勢いで魔物を討伐させました。
この狩りでキズつき壊れた『素体』達は、修復に使う魔力も惜しいと打ち捨てられていきます。
魔物からの魔石では足りないと頭を悩ませた王様は、他の国々から奪えばいいのだと思いつき、今度は魔道具達に戦争での勝利を命じました。
やはり戦闘でキズつき壊れた『素体』達が、次々と動きを止めていきます。
契約に縛られているせいで『素体』から自由になれず、魔力を完全に失って存在を維持できずに消失していく精霊達。
仲間がどんどん消えていってしまう事を悲しんだリーダー格の精霊は、王様に近づいてとある知恵を授ける事にしました。
世界にめぐらなくなった魔力を取り戻し、なおかつ、王様の望むだけの魔力を得られる方法を。
そしてこれは王様にナイショなのだけれど。リーダー格の精霊は、他にもいくつかの狙いを隠していました。
全ての精霊の『素体』からの解放と、すでにいなくなってしまった精霊達の弔いと、――『復讐』を。
★
リーダー格の精霊に言われるまま、新しい魔道具を作らせた王様。彼は、ただひたすら全ての魔力を集めようと疑う事もせずに、その魔道具を起動させました。
それは異なる世界とをつなげるため、王様のいる世界に無作為に穴を開ける魔道具。
比較的に高位であるリーダー格の精霊が入れ知恵をしたからこそ、空間に作用を及ぼす魔道具。
精霊達が普段住まう精霊界とは似ているようで異なり、触れただけで狂いそうになるくらい濃密な魔力に満たされ、それによって手も足も出ないほど凶悪な魔物達が闊歩する世界とを近づけてしまった魔道具。
リーダー格の精霊の狙い通りの働きを魔道具がしてしまったせいで、王様の暮らす世界はまたたく間に濃い魔力に満たされました。
その事によって新たな精霊達が生まれるようになり、数を減らしてはいたけれど何とか生き残っていた精霊達は大いに喜びます。
その反面で、ヒトの世界は大混乱に陥りました。
強すぎる魔力によって誤作動を起こし、次々と壊れていく魔道具。
生活のほとんどを魔道具に頼りきった暮らしのせいで、もはや自力では生きられなくなっていたヒト達。
渡ってきたこちらの世界を破壊しつくさんと、暴れまわる魔物達。
王様の暮らしていた世界は、見る影もなく変わり果ててしまいました。
★
世界の維持と守護をになうドラゴン達は、神々よりそれぞれ『お役目』を与えられた存在です。
ただ、『お役目』以外のふるまいは原則許されておらず、ヒトの政に干渉する事はありません。
ドラゴン達は神々より、こうも申しつけられていました。
――『ヒトの世・人類の文明社会』も『世界』も、滅びる時は滅びるに任せよ――
そう言われていたドラゴン達ですが彼らは彼らでこの世界が大好きなので、できる事なら世界をなくしたくないと思っています。
『素体』に捕らわれた大勢の仲間が失われた時点で、ドラゴン達は最上位の精霊として、滞った魔力をなかばムリヤリめぐらせて世界の崩壊を防ぐのにかかりきりでした。
王様が全ての魔力を集めようと魔道具を起動させた後。ドラゴン達はもちろん、世界を襲った脅威に大慌てとなります。
何度でも言いますがドラゴン達はこの世界が好きなので、何とか滅びを回避したいと神々にお願いをしました。
そして何とか『お役目』の範囲を変える許可をもらい、異なる世界とを近づける魔道具を停止させます。
世界が滅びる事はなくなって、ドラゴン達がほっと一息ついて世界を見回した時。大地は、蹂躙した後でそのまま居着いた魔物達に支配されたも同然でした。
ヒトで生き残ったのは、以前より核を確保していて、安全に過ごせるように改良されたダンジョンで暮らしていた者達のみです。
濃くなりすぎた魔力の中で動かせる魔道具を持たないヒト達は、改良できる技術者のほとんども失っていました。
そのため彼らに新たに現界してくる強い魔物への対抗手段は、ほとんどないに等しい状態です。
ヒト達は地上では生きていけずに、ダンジョンを地下都市に発展させて拠点としました。
ただ食料の入手には限りがあるために総人口をうかつに増やすわけにもいかず、細々とその数を維持していく事になったのです。
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全ての魔力を欲しがった王様は――。
壊れて動かなくなった護衛に守られる事はなく、攻撃魔法を放つ魔道具で反撃もできず。
異なる世界とを近づけてしまったために、現界してきた魔物達にあっけなく喰い殺されてしまいました。
その事を、契約から解放されて『素体』から抜け出した精霊達は、ただ無邪気に喜んだのです。
元のように地上と精霊界とを行ったりきたりするようになり、精霊達は精霊達のペースで過ごす暮らしに戻りました。
精霊達はその後も気まぐれにヒトとの触れあいを持ち続けましたが、契約にはだいぶ慎重になったというお話です。




