033 学食の階段から落ちたら 隠しキャラルート(強制)だった
★★★
陛下に報告をする必要がある為、『ヒロインんん』の現状を確認しに移動した。
シールの案内で入室したのは、存外広い部屋だった。扉を開けて直ぐ目に付いたのは、作りかけのフィギュア――どうやら芸術活動を行うアトリエのようだ。 部屋の奥には、可視化された魔力で組まれた格子があり、その向こうが牢なのだろう。
(何だありゃ!? どこのアイドルPVのセットだよ!)
格子の向こうはパステルカラーのカワイイ物で溢れかえっていた。シールが力作して揃えたのだろう。扱いが良いのか悪いのか分からない。
「お二人共、お客様がお見えですので餌付けはその辺にして、こちらへ来て下さい」
シールが声を掛けると、セットの一部が動いた。よくよく見ると、人の姿をとったアニキとハレさんで、アニキは赤系の、ハレさんは青系の作業服を着ていて、周囲の小物に溶け込んでいた。声を掛けられた二人は魔力格子など物ともせず、そのまま突っ切ってやって来た。
(餌付け、という事はあの床に寝ているのが『ヒロインんん』か?)
(あれ? あの、私、目がおかしくなったのかしら? 『ヒロインんん』が未だに『桃』型アフロに見えて解せぬ件について)
「おー、お嬢ちゃん久しぶり」
「お久しぶりです。改めて、ご成婚おめでとうございます」
「あー、そうか。もう人妻なんだよな。『お嬢ちゃん』はないか。なんて呼べばいいんだ?」
「私は『職人』を推します」
「普通に『奥さん』や『奥様』じゃないのかい?」
「おう、じゃ俺もそう呼ぶとスッか」
「ではそれでお願いします」
ローズは(妥当なところだろう)と了承して、改めてドラゴン達に頭を下げる。
「結婚式の際には参列して頂き、ありがとうございます」
「こちらこそ。ドラゴンとして産まれてからは、同族以外で初めての出席で、中々興味深かったです」
「しかも王族のだしな。俺としては、二人のラブラブ顔写真がプリントされた皿が引き出物として出てくるかと思って、期待してたんだが」
「そんな風習、こっちには無いですよ」
「宜しければ作りましょうか」
「扱いに困るから止めて下さい! っていうか仮にも王族なんですよ。うっかり割ってしまって、不敬だなんだって不和の元なんて、ばら蒔けませんよ」
「まあ、そうでしょうね」
「こっちの習慣がわからなかったから、お祝い何も用意しなかったんだよなー」
「いえ、参列していただけでも十分です。ドラゴン達から金品を授けられたなんて広まったら、各国のパワーバランスが崩れてしまいますから」
「式の前もリンちゃんがそう言ってくれたから、甘えちまった」
「でも気にしてしまうのも、元・日本人のサガという奴です。ですので毒にも薬にもならない、手作りの品などがいいだろうと。リンちゃんさんと『職人』さんのフィギュアなど作ってはどうかと、両親に持ち掛けてみました」
「今日、リンちゃん達来るって言うから、こう、形から入ってチャレンジはしたんだけどよ……」
「私も旦那も、息子程の才能は無いようです」
アニキとハレの視線の先には、試行錯誤をして、でも結局諦めた粘土の固まりがあった。
「シロウトがいきなりチャレンジするモンじゃないよな」
「ええ。ですから結局出来る事にシフトしました。旦那と二人でカレーを作ったので、後で食べましょう」
「カレー!? 最高じゃないですか!」
「ベヒモス肉使用で、自信作ですよ」
「ファンタジー食材キターー!!」
ローズは、ドラゴン夫妻からの心尽しのお祝いに喜んだ。ちなみにシールはリンデンに対して、“夜の特殊アイテム”を提供する事でお祝いとした。リンデンが対価を支払ったので、大きな問題ではない。
★★★
「シール殿。“彼”の今現在の様子は如何ですか?」
ローズとハレの遣り取りを微笑ましく見詰めるリンデンが、別の話題を切り出した。
「今はすっかり回復していますよ」
問われたシールは言葉を返しつつ、『ヒロインんん』、ローズ、『ピーチ(真)』の順に視線を向ける。
「彼をここに連れて来て下さい」
「わかりました」
シールに一礼をしてから部屋を後にする『ピーチ(真)』。
「“彼”ですか」
「ここまでの馬車の中で話をしたでしょう。この神殿を襲撃した男達の、生き残りですよ」
ローズは馬車での話を思い出し、その人物の処遇について話し合うのだろうと予想して頷く。
「彼が来るまでの間に相談があるのですが」
シールはローズに声を掛けて、作りかけのフィギュアの元に案内をする。
【『ヒロインんん』ピーチのフィギュア(未完)】
〔1/1スケール、シスターコスVer.〕
一目で未完成品、いや原型というべきが。塗装はされておらず、しかも頭髪部分がなく、つるっぱげになっている。
「実は、あの桃の形のアフロの再現が難しくてですね。しょうがなく後からウィッグを被せようかとも考えているのですが、どうもしっくりこなくて困っています」
「はぁ……。でも、私も、フィギュア製作は」
「いえ。『職人』さんのユニーク魔法で魔改造して頂きたいのです」
「宜しいのですか? こう言っては何ですが、仕上がりはランダムで、コスチュームチェンジも有り得ますよ」
「それでも構いません。是非お願いします」
「……わかりました」
ローズはすでに慣れたもので、魔力を練り始めて然程の時間を掛けずに“バクダン”を投げる。
これまでと同じように黒い煙がピーチ像を包み、やがてモクモクの煙が雲散霧消していく。
【『ヒロインんん』ピーチのフィギュア】
〔1/1スケール、スク水の上から水濡れスケTの着エロで爆破オチVer.、着色済〕
(……案の定、こうなった)
(ゼッケンは『ぴーち』。やっぱり平仮名だよね)
(敢えて『破損済眼鏡』は外して片手で持って、黒塗り前歯を隠すとか)
(ポーズの変更はいいんだが、やはり質量どーなってんの!?)
「見て下さい、ココ! 片手の人差し指でお尻の食い込みを直すとか、ポイント高いです!」
シールは像の台座を動かして、全員に熱く語り出す。
「おー、次やったら全裸か」
「何を言っているのですが。まだ『スリングショット』が間に入りますよ」
「防御力がナゾのファンタジー防具、『ハイレグビキニアーマー』も捨てがたいよ」
「あ、俺アレがいい。貝殻ビキニ」
ドラゴン達は次のコスチュームで盛り上がり始めた。リンデンとローレルは理解が及ばず、呆然と見るだけである。この世界でこの出で立ちは……
「シール様、連れて参り……え!? きゃああぁぁ! いけません、そんな破廉恥な! 見ちゃダメです! ウィロウ様!!」
(……ウィロウ!?)
思わぬところで、半ば存在を忘れ掛けていた弟の名前を聞いて、声の方を振り返る。以前のローズも疎遠気味だったし、今のローズは、どこかゲームのキャラクターがざまぁされた風に捉えたところがあって、肉親だというのには随分薄情な態度であった。
『ピーチ(真)』はウィロウとおぼしき男性の視界を封じ込めていた。自分の胸でウィロウの頭部を包み込むという――
(『ラッキースケベ』だと!? さすが『真性・ヒロイン』恐ろしい子!)
ウィロウは『ピーチ(真)』の胸で窒息しそうになり、闇雲にもがいていた。
(いや、何だかんだと、しっかり揉んでいやがる)
ローズは二人のラブコメ振りに呆れつつも、シールにフィギュアを隠すようにお願いをした。この社会でスク水は公序良俗に反する。
フィギュアが無くなった事で漸く、『ピーチ(真)』はウィロウを離す。
ウィロウとの再会は、昨年の夏以来となる。少しだけ身長が伸びて、痩せたのか、心労が滲み出たのか、以前よりも精悍な顔付きになっていた。最大の相違点は、神殿職員の制服を身に付けている事と、左頬からこめかみに掛けて残る傷痕だろう。確かにドラゴンと敵対して生き残った証のように見えた。
「ローズ……。いえ、ローズ皇太子妃殿下。お久しぶりでございます。リンデン皇太子殿下とのご結婚、真におめでとうございます」
「ウィロウ……」
ローズは、双子の姉弟なのにいつまでも子供っぽいままだったウィロウの変化に、大変驚いた。
(狙って、ショタな振舞いをしていたところがあったけど、何があった?)
(死にかけて、前世日本人の記憶を思い出したとか、言わないよね!?)
最後に会ったのが、『ヒロインんんと愉快な逆ハー達』活動のクライマックスだったので、ギャップが物凄い事になっている。
「本日お会い出来たのは幸いでした。どうか姉上の口からお伝えして頂きたいのです。私、ウィロウ・カーティスはこれまでの自分の行いを猛省し、家名を捨て、一個人のウィロウとして、これから先を生きていくと」
「平民となって生きていくと言うのですね。その服装は?」
「シール様の寛大なお心によって、この神殿でお世話になる事になりました。かつての自分と友の罪を、一生かけて償っていきたいと思います」
「……なんでよ」
ウィロウが殊勝な態度で宣言をしていると、まるで老婆のように嗄れた声が、微かに響く。
「なんで、私を、助けなさいよ。アコナイトも、ヴァインも、トランクも、リーフも、死んじゃって。誰が、ピーチを、助けてくれるの? あんたしか、いないのよ、ウィロウ。今、助けて、くれたら、あんたのものに、なって、あげてもいいわ。だから、助け……」
「ごめん!」
「なんでよ、助けてよ」
「僕はシール様に逆らって、死ぬような目に遭った。とてもじゃないが、かないっこない。今僕がこうして生きているのは、彼女が、本物のピーチ・ローリーが回復魔法を使って助けてくれたからだ。後で、自分が苦しむのを承知で助けてくれたんだ。僕はこの先、彼女と共に生きていく」
「……助けて、ウィロウ」
「聞いてくれ。僕は、真実の愛に気付いた!」
「――!?」
ローズは吹いた。
「姉上?」
「〜〜! ウィロウ、お前がかーー!!」
「姉上! どうされたのですか? 姉上!?」
目眩を覚えて頭を抱えたローズは、リンデンの胸におでこを付けて、ナイナイグリグリと動かした。
「ウィロウの件は、カーティス公爵に私の方からも伝えておこう」
「は、はい。お手数をお掛け致しますが宜しくお願いします。ローレル王子」
ローレルがウィロウの件を請け負っている間、リンデンはローズを抱き締めて背中を優しく撫でる。
『あらやだ、聞きました、奥様? “真実の愛”ですってよ』
アニキの茶化すような【念話】がローズに届く。
(聞いた! 吹いたわ!)
『まるで乙女ゲームのヒーローのようですね』
【念話】に加わったのはハレだ。彼女は乙女ゲームそのものか、題材にした小説を読んだ事でもあるのだろう。
(「のよう」じゃなくて、そうなんですよ!)
(『真性・ヒロイン』は、元・公爵令息のイレギュラーエンドってところか)
『――やはりそうでしたか』
「やはり」と言う事は、今の【念話】を発したシールは、ゲーム知識そのものがあるのだろう。
『あの、「声に出すと恥ずかしい乙女ゲーのタイトル」に挙げられた作品ですよね』
『なんだそりゃ』
『その話、もっと詳しく』
『お二方には、後でじっくり説明致しますよ。私もゲームのキャラクターとして出ているんですよね』
『マヂで?』
(攻略の取っ掛かりさえ掴めなかった、超シークレットの『ビジュアル系謎モブ』です)
『確かに、私の知る範囲でゲームユーザーに攻略される事はありませんでしたね。でも……』
シールは魔力格子の傍らへと移動し、中の『ヒロインんん』を覗き込む。
「でも、魔改造されたフィギュアに大笑いをして、その後に神殿に護送されて来た彼女を見た時、胸の高鳴りを感じました」
(――は?)
ローズは、滔々と語りだしたシールの言葉の内容に、思わずポカンとしてしまう。
「貴女が攻略に成功した王子様は、既に亡くなりました。『きっとみんなが助けてくれるんだモン☆』と言っていた男達の殆どは、私の手で直接屠りました。しかも、わざわざ貴女の目の前で。敢えて残した一人は、かつて貴女が手酷い裏切りをした女性との間に『真実の愛』を見出だしました」
「その節は感謝しています、シール様」
シールの何気に酷いセリフにも我関せずと、『ピーチ(真)』を抱いて頬を染めて見詰め合うウィロウ。
「既に貴女に希望はなく――いえ、時々は与えてあげましょうね。これから一生涯、私に飼われて生きるのですよ。ちゃんと長生きさせてあげますから、せいぜい、私のタイクツを紛らわせて下さい。ね?」
(――うわぁ……。コレナンテヤンデレ?)
ローズはドン引きして、リンデンに思わずしがみついてしまう。
「ね? どういう事かは行って見れば解る。言った通りだったでしょう」
ローズの耳元に囁きを落としたリンデンの言葉に、頷くしかない。
(恐らく、ウィロウやリーフの脱走は仕組まれたものだ。やらかした『ヒロインんん』の件で身柄の引き渡しを打診されたら)
「正直、厄介払いも出来るので、協力しない理由もなかったのですよ。ここだけの話、王族としては異例の処置ですが、アコナイトの葬儀をこちらの神殿で行っています。アコナイトを籠絡していた彼女には、特別席で参列して頂いたのですよ」
ローズは言われて表情を伺うと、悪くていい笑顔をしたリンデンと目が合う。
確かに、リンデンとシールは気が合うのだろうという事実に、ローズは目を逸らしたくなってしまう。
顔を動かすと、目が合ったのはアニキ。
『まあ、子供つっても性癖まではとやかく言えんよな』
『ドラゴンの生は長いですから。行く行くはパートナーを得てくれればいいのです』
『神殿に殴り込みを掛ける計画立ててたのはちげーねーし。キッチリボコるのも、必要なんだよなー』
『ドラゴンは甘くないですから』
ドラゴン達の言葉を聞いて、人の身でしかないローズは頷くしかなかった。
★★★
場所を変えて、ローズ、リンデン、ローレル、アニキ、ハレ、シールの六人で食事会となった。
『ピーチ(真)』とウィロウがカレーを運んできてくれるのを待つ間、ローズはシールに相談を持ち掛けた。
「ある物を封印して頂きたいのです。人の世に悪影響を及ばさないのであれば、手段は問いません」
「封印ですか。何だか穏やかじゃないですね。物はどちらに?」
「これです」
ローズは以前から隠し持っていた、二つの『桃型、桃サイズの赤い魔石?』を取り出す。
「なんだそりゃ? 桃じゃねーの?」
「魔石……? とも少し違いますね」
「これはどういう経緯で手に入れたのですか?」
シールの問いに、包み隠さず説明するローズ。
リンデンもローレルも、この場で初めて目にするので、興味深そうに手に取って確かめる。
「ふむ。……原材料だけで言ったら、魔力のカタマリなんですよね」
「原材料……」
シールの違和感しかない物言いに、引きつるローズ。
「うーん。封印たってなー。こんなの初めて見たぞ」
アニキは服の袖でゴシゴシと擦り、ガブリとかじりつく。
「あ!」
「っ! かっ、かれー! 辛い辛い辛い!」
「辛いの!?」
「なんじゃこりゃ〜! 水くれ、水」
「ふーん」
「おいよせよ、カミさん。やめとけ」
ハレは、アニキのかじった桃型魔石を手に取って、少しだけかじる。
「あっ! 甘!?」
「甘いの!?」
「何だかけったいな物質のようですね〜」
その時、『ピーチ(真)』とウィロウが、他の神殿職員と共にカレーライスを配り始める。
(一人、『ピーチ(真)』に似た女性がいるけど、母親かしら? 娘が一生神殿暮らしだし、ローリー男爵家自体は取り潰されているから、避難したのかもなー)
などと、皿が目の前に置かれる様を見ながら考えるローズ。
職員達は、カレーとご飯の入った容器を乗せたワゴンをハレの側に置いて、一礼して去って行く。慣れた様子から、おそらくは、よくドラゴン夫婦が来ていて、おかんがお代わりをよそうのが常なのかもしれない。
「「「「いただきます」」」」
リンデンとローレルを除く四人が手を合わせて唱和する。
リンデンとローレルは互いに顔を見合せて、何となく手を合わせてからスプーンを手に持ち、おっかなビックリ生まれて初めてのカレーを口に運び――揃って美味しさに破顔した。
(ウマーー! カレーとか前世ぶりなんですけど)
もちろんローズも、ウマウマとカレー堪能する。
「……ふむ」
それまで、黙々とカレーを口に運んでいたシールが何かを思い付いたのか、桃型魔石を一つ手に取った。それから、手の甲の一部をドラゴンのウロコに変化させて、ふりかけのように魔石をすりおろしてトッピングする。まんべんなく全体に掛けたところで手を止めて、再びスプーンで掬って一口食べる。
「こ、これは……」
「なんだ、辛いのか?」
「甘くなったのですか?」
「ウマイ!」
シールの声に、アニキとハレも同じようにトッピングをして食べてみる。
「おー、すげー、なんだコレ!」
「旨味がぐっと増しましたね」
「これは、新しい万能調味料の爆誕か!?」
と、ドラゴン組は大いに盛り上がっている。ローズはちょっと食べてみたかったが、人類の手には負えないだろうと諦める。
その後、定期的に桃型魔石を奉納する事で手打ちとして、皇太子夫妻の初めての公務は無事に完了した。
ただし、奉納は表向きの事で、米、味噌、醤油や各種食材を対価として分けてもらえる事になっている。実質は物々交換となった。
★★★
陛下達へ報告を済ませて離宮へ戻ったローズとリンデン。二人で夕食を摂った後、ローズは浴室へと誘われて、リンデンから一枚のシャツを手渡された。
シールから、またナニかを吹き込まれたのか。男物のだぶだぶシャツを身に付ける、所謂『彼シャツ』に、それプラス濡れスケの着エロプレイを求められた。いい笑顔で。
ローズは、リンデンに髪の毛を洗ってもらいながら、神殿での“濃い”出来事を振り返る。
(『ヒロインんん』は廻り廻って、超シークレットキャラに堕とされました。ってか)
(あの夏の日に階段から落ちて、隠しキャラルートに入ったんだから、『ヒロインんん』も予想出来なかったんだろうな)
お湯で髪を濯いでもらい、今度はローズがリンデンの髪の毛を洗う。
(……まぁ、かく言う私もそうなんだけどねー)
(ゲームだと、ルートによって扱いが異なって、最悪が公開処刑。次いで一家没落。私一人だけが平民落ちで国外追放。ヒロインのバッドエンドでのみ、元々の婚約者や、レギュラー攻略対象の貴族と結婚)
(……悪役令嬢ローズが、第一王子とくっつくエンドは一切無かったハズなんだけどな〜)
リンデンの髪にお湯をかけながらつらつらと考えるローズ。
(“18禁追加ソフト”バージョンでは、最悪が平民からの娼館堕ち。他は、ものすごいキモ親父と強制結婚か愛人か。あれ? 確かナントカ侯爵たったような……)
「ローズ」
ローズがスチルを思い出そうとしていると、リンデンに声を掛けられて、やや強引に引き寄せられる。
「ローズは私だけを見て、私の事だけを考えていれば、それでいいんですよ」
リンデンの甘い囁きの直後に塞がれた、ローズの唇。今日一番の、激しく長く溶けそうな口づけを交わしながら、ローズはしみじみと考えた。
(階段から落ちたら、リンデン王子――隠し攻略対象――の元に続いていた)
唇と唇を離し、シャツ越しに張り付いて透けて見えるローズの肢体に満足気に頷くリンデン。互いの泡を洗い流した後、一緒に湯船に入り、どちらからともなく抱き合った。
「愛していますよ、ローズ」
耳元に囁かれた言葉に頬を染めるローズは、お返しに、リンデンの耳元に唇を近付ける。
「はい。私も。愛しています、リンデン」
ローズが言い終わるか終わらないかのタイミングで、強く抱き締められる。
「ローズに、一つ伝えたい事が」
「何でしよう?」
「道は私が作ったんですよ。ローズが私の前で無防備にその身を横たえた時から、私と結ばれるのは定められた道理です」
「え……?」
「まあ、そう仕向ける為に、本来私が行く事のない往診の役割を、あらゆるテを使ってもぎ取ったのですけどね」
(え……と、どう、いう……)
ローズがリンデンの言葉を咀嚼して理解をする前に、ローズの唇はリンデンに奪われる。
ローズは思考に意識を割こうと、リンデンを止めようとするが、リンデンの情熱的な求めには抗えず、ぎこちないながらも、必死に舌で応える。
(ダメだ。もう……この強制力は振り切れない)
ローズは、そんな事をぼんやりと思いながら、これからの長い夜と、リンデンと共に生きる道を覚悟した。
以上で、『学食の階段から落ちたら 隠しキャラルート(強制)だった』の、本編が完結になります。
まともにライトノベルの執筆に挑戦するのも、ネットを通じて公開するのも、『小説家になろう』さんに連載するのも、初めて尽くしでしたが、ひとまず完走出来て良かったです。
初めての投稿ということで、『悪役令嬢、婚約破棄モノ』で『一万字くらい』で書こうと……、思っていた時期もありました。
企画段階では、
悪役令嬢がヒロインよりも先に階段から落ちる→他の言い掛かりにも鉄壁のアリバイ→ヒロインざまぁ
程度だったのに。
……リンデンとの、最初の治療の遣り取りが面白くて、放任してたら、彼は何処までもイッた。
企画段階では、アフロもドラゴンも、『ヒロインんん』再登場で幻の隠しキャラでヤンデレエンドとか影も形も無かったのに。
どうしてこうなった?
なるべく伏線は回収したと思うのですが、まだ手付かずのところもあるので……番外編を書こうと思っています。これから。
作者的に『フォローの人』の二つ名を授けた、ローレルからの話です。リンデンのスキルについてとか触れていきたいです。
ここまで読んで下さった皆様、評価をして下さった皆様、感想を下さった皆様、ありがとうございます!
終わらないよ、まだ。
番外編が準備出来次第、投稿します。
もう暫く、お付き合い下さいませ。
追記。作品のタイトル名が上手い事、略せません。




