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016 晴れの日のドラゴン



 ★★★



「さあ! こちらへ。フォーブス領自慢の展望室となります。セレステブルー湖が一望できますよ」

「……わぁ!」


 リリーの案内で足を踏み入れる、ローズ達王都からの遠征組や、湖畔に集合しつつあった冒険者達。

 広々とした部屋の先には一面のガラス張り、絶景の大パノラマが広がっていた。

 ローズはもちろん、口々に感嘆のため息を洩らす一行。


「湖から見て北の方角にあるのが『レイホウ山』。西に広がるのが『ジュカイの森』――こちらは相当に広大な森で、オーキッド様のお家、マクローリン公爵領とも繋がっております。南のなだらかに広がる丘陵が『キボウが丘』。そして湖の東方、今私達がいる場所が『ガンバン』です」


(絶景かな、絶景かな。スイスとかアルプスとかみたい!)

(霊峰……樹海……希望ヶ丘……岩盤……。なんだろう、乙女ゲーム制作スタッフが適当に名付けた弊害かしら?)

 リリーの観光案内を耳にしながら、首を捻るしかないローズ。


「この『ガンバン』は、フォレスト王国建国よりはるか以前に、攻略されたダンジョン跡地で、ダンジョンの機能が失われた後も、空洞に沢山の魔物が住み着いていたそうです。建国王よりこの地を賜った、フォーブス家代々の当主によって整備が進み、今は観光客向けのホテルとして運営しています」

「これは……ガラス、魔道具ですか?」


 近付いて指先で軽く叩いてみるリンデン。叩かれたガラスの一部が、仄かに発光する。


「はい。巨大な一枚ガラスで、魔力を流す事によって、強度と透明度、また魔物避けの機能を維持しています。また外からは、岩肌の一部のようにしか見えません」

「それはそれは……」

「凄いな。王城や王家でさえ、これ程の魔道具は所持していないぞ」


 口元に手を当てて、呆れたように息を吐くリンデンと、感心してカラカラと笑うローレル。


「一介の伯爵家には過分な魔道具です。過去には自国他国を問わず、王家や高位貴族家から、差し出すよう命令が下ったそうです」

「それはそうだろうね」


 外からはガラスとしても見えないなら、隠し砦など、軍事施設に利用したがる輩なども多いだろう。


「でも、今もこうしてあると。こう言っては何だが、よく無事でいるな」

「それは、この魔道具を提供して下さったのが、あの方達だがらです」


 リリーが言い終わる直前、展望室は唐突に暗い影に覆われる。

 一同は驚き、そして影の正体を目で追って湖に視線を向ける。

 そこにいたのは――


「ドラゴン……」


 誰が口にしたのか。でも、この時展望室にいた皆の心は一つだった。

 湖面すれすれの位置で羽ばたいて飛んでいたのは、水色の鱗に覆われた、スカイブルードラゴン。


「『レイホウ山』には古来より、番のドラゴンが住まいます。あのドラゴンは妻の方で、今日のように、澄み渡る青空の日のお昼前頃に、ああして湖に現れます」


 一行の見ている前で湖に飛び込んだかと思うと、手に魚型の魔物を持って、直ぐに湖面に浮かび上がってくる。湖面に寝そべると、手にした魔物をおもむろに食べ始める。


(なんか、死海に浮かんで雑誌を読む人、みたいな?)

(ドラゴンかぁ〜、初めて見た。『桃酢姫』での扱いって、どうだったっけ?)

(確か……、王子ルートに入る前に一定の知力が必要で、〔図書館で本を読む〕で出てきたか)

(〔魔法〕〔魔物〕〔暮らし〕の他に、〔ドラゴン〕の項目が独立してあったんだよなぁ〜。……あれ?)


 早々に食べ終わってしまい、手を水中に突っ込んで掻き混ぜ始める。

 すると、魔物の方も怒ったのか、威嚇もしくは攻撃の為に、一匹が水中より飛び出してドラゴンに体当たりをする。

 対して、ドラゴンはあっさりと魔物を捕らえ、手で握り締めると、再び口に持っていって食べ始める。


(……休日にソファーで寝っ転がって、ポテチがナイナイ慌てるヒトにしか見えないのは何故だろう? 片腕を枕にしているところとか、それっぽくしか見えない)

(その、食べ終わって空いた手を、さ迷わせているのは何だ。ダイエットしたいヒトか?)

 ローズの心を読んだ訳ではないだろうが、リリーが話始める。


「間食は二匹までと決めているそうです。ああやって寝ながら空を見上げるのは、天候をよむ役割があるのだと、仰っていました」

「『仰っていました』? 魔道具の事といい、意思の疎通はどうやって行っているのですか?」

「ドラゴンの形体では【念話】でです。人の姿になって、街にいらっしゃる事もありますし、記念日には『ガンバン』を貸し切りにして、夫婦水入らずで過ごす事もあります。子供は数百年に一度の周期でもうけるそうです。『独立して、今は居ない時期なのでさみしい』と、私が子供の頃、遊んで頂きました。あのお腹の上に乗って、一緒にお昼寝をした事もあります」

「凄いですわ! リリー様」

「意外に気さく? 人間のように振舞われるのですね」


 感嘆の声を上げるアイリスに、やや呆れたように話すローズ。


(あれあれあれ、アレ? リリーさん今「人の姿で」って仰いましたかね)

(……ひょっとして、ドラゴン、隠しキャラで攻略出来たの?)

(いつも【???】の謎のモブ、サイトでも話題だった)

(あぁー! ゲーム好きとして、なんかもったいなーい!)


「ドラゴンが生息している事を、知ってはいましたが、そこまで詳しくは知りませんでした」

「ドラゴン達は『世界』に関して、それぞれのお役目があるそうなのです。ですので、特定の『国家』に対して深入りはしない、と。我がフォーブス家や領民に対しては、『ご近所付き合い』の範囲だそうです」

「このガラスの魔道具も?」

「はい。『レイホウ山』のドラゴン達は、この辺一帯に対しては『人の手で削ってはならない』と仰いました。無闇な開拓や往来は、しないで欲しいと。このガラスの魔道具を含めた『ガンバン』内部の改装。ここの地下と、一番近い町を繋ぐ転移魔方陣の設置は、ドラゴン達から先渡しにされた対価です。禁を破り、我欲に走れば、瞬く間に滅ぼされる事でしょう」


 リリーの話を聞いていたのであろうか。

 スカイブルードラゴンは湖面から飛び立つと、旋回して、展望室のガラスの前に現れた。

 まるで、リンデンやローレル――為政者に連なる者達に対して、「余計な事を考えるな」と睨みを利かせるよう、青銀の瞳を光らせた。

 リンデンはそれに苦笑でもって、ローレルは顎を引く事で答えた。

 満足いく回答が得られたのか、どうなのか。ドラゴンは僅かに目を細めるだけで、『レイホウ山』へ向けて飛び去って行った。


「さあ、もう大丈夫です。湖へ向かいましょう」


 ドラゴンがいる間は、セレステブルー湖周辺は立入が禁止になる。規制が解除された為、下へ降りて魔物討伐を始めようと、リリーは全体へ声を掛けたのだった。



 ★★★



 結局、街道でリリー達と合流した後は、数日を掛けて一緒にフォーブス領へと入った。道中に出現する魔物達が、中々に手強かったからだ。


 領都でフォーブス伯爵と会談。

 フォーブス伯爵家の兵力を部分的に預かり、セレステブルー湖周辺の魔物討伐の全権(責任)をリンデンが、作戦・総指揮(命令・実行)をローレルが担う事で合意。

 フォーブス伯爵と後取りの長兄が領都に、次兄が湖に近い町に滞在して、それぞれ後方支援――物資補給、情報集積、冒険者ギルドや協力関係にある他領の兵との折衝、等――を行い、末娘のリリーが、自領の騎士や兵士達の旗頭を務める事になった。


 前線基地として『ガンバン』を利用。

 ローレルは、討伐作戦参加者の名簿作成を指示。

 傭兵として組み込む事のなかった冒険者達に対しても、夕食と宿泊施設の提供を報酬に、その日一日の活動内容や情報を報告させた。これは、安否確認を兼ねての事だった。


 また、冒険者ギルドの職員も『ガンバン』に出向してきた。

 冒険者達を取り纏め、代表窓口になり、リンデンと「冒険者達にも治療を行う事」を条件に、協力関係を約束。

 その日に、どのチームがどの方角で活動するのかの調整や、魔物の目撃や討伐情報の擦り合わせ。ドラゴンが湖に来る日の午前中は、休養や会議に充てる事。魔物素材の取引に関しての話し合い。……等々、擦り合わせて細かく確認を行い、各々書面を交わし合った。



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