第57話 王の裁判
王都の戦いから数週間後、合同裁判が始まった。
法廷に選ばれたのは宮殿の謁見室ではなく、地上と地下の境にある旧関税所だった。
入口は二つ。地上側と地下側のどちらから入っても、同じ距離だけ歩いて中央の法廷へ着く。片方の王座も、女王席も置かれていない。
裁判官は、地上の司法官二人、地下の評議会から選ばれた審理員二人、独立記録院と記憶庫から中立記録守三人。
被害者代表、被告弁護人、公開傍聴人。証拠の閲覧手順と異議申立ての期限も、開廷前に両側へ公表された。
私は被害者であり、地下の女王でもある。
最終決定者にはならなかった。
「王家を倒した本人が裁かなければ、責任から逃げるのか」と言う者もいた。
逆だ。
私が証拠を集め、軍を率い、被害を受けた当事者であるからこそ、私一人の判決では報復と区別できない。
私は証人席に立ち、帰還門で何があったかをもう一度話した。
泣いたこと。拒絶したこと。拘束されたこと。石を奪われたこと。
ただし、裁判はそれを初めて明かす舞台ではない。
命令原本、投票接触痕、装置部品、共同証言、公開供述はすでに双方が閲覧している。争われたのは、確定した行為を誰がどこまで認識し、どの選択をし、その後どう隠したかだった。
国王オズヴァルトと王太子レオナードの弁護側は、「国家存続のための緊急権」を主張した。
「地下との戦争状態において、記憶庫の機密と星脈炉を守るため必要だった」と。
「必要な決定だった」
レオナードは被告席から自分で答えた。
「深層の機密を回収し、十三人を帰還させるには境界術師を残すほかなかった。指導者が損失を選べなければ、国家は全体を失う」
裁判長が、位相環撤去命令を掲げた。
「この命令の作成日は、遠征出発前です。危機が起きてから選んだのではありませんね」
「起こり得る危機へ備えた」
「正常な遠隔維持装置を外し、十三人しか帰れない状態を作ることが備えですか」
レオナードは答えなかった。
続いて、私の票を差し替える補助手順と候補表が示された。拒否させない投票を用意し、一人を残す状況を先に作った記録だ。
「私は、装置を確認させてほしいと求めました」
証人席から、私は言った。
「使える道を先に奪った者が、その後で『ほかに方法がない』と主張することを、緊急判断とは呼べません」
さらに六十年前を含む二十七人の記録が、同じ英雄譚で隠されていた事実も照合された。
裁判官は、国家機密を守る必要性があったとしても、生命権の剥奪、記録改竄、地下収奪、民間人を盾にした砲撃と放火を正当化しないと判断した。
国王と王太子には、終身拘禁、公権と王位継承権の永久剥奪。王家の私有資産は、地下の水路復旧、王都火災の被害者、過去の置き去り被害者遺族への賠償基金へ充てられる。
王家の宝物を地下側が戦利品として分けるのではない。被害目録と第三者監査に基づき、用途ごとに支出する。
死刑を求める声は強かった。
地下では、故意に多数を死なせた指導者へ生命刑を科す慣習がある。地上側にも、王殺しではなく国家反逆として処刑すべきだという意見があった。
一方、記録守は、処刑すれば「国を救うため命を差し出した最後の王」という新しい英雄譚を生む危険を指摘した。
最終的に、彼らを生かしたまま公権から切り離し、記録閲覧と異議申立てを保障された拘禁下で、自分たちが作った被害の回復を見届けさせる判決になった。
私が選んだ刑ではない。
だが、手続きと理由が公開され、反対意見も少数意見書として残った。
クレマンは、投票札の差し替え、認証偽造、位相環の運搬を認めた。命令を受けた事情は考慮されたが、専門知識を用いた直接実行者として、長期拘禁、公職と認証資格の永久剥奪、報奨の返還を命じられた。
ヴァルターは、正常な装置から位相環を外し、兵器転用を監督した。命令原本を持ち出し、炉解放へ協力したことは量刑へ反映されたが、無罪にはならない。拘禁と、王権設備を単独で扱う資格の永久剥奪が決まった。
エドガーには、私への投票、物理的拘束、置き去り、虚偽証言が問われた。
さらに、ネラの質問状を監察局へ提出し、監視と解雇の端緒を作った行為も別件として審理された。
裁判官の一人が尋ねた。
「あなたは、リディアを愛していたと供述していますね」
「はい」
「その愛を、彼女の拒絶より上に置いたのですか」
エドガーは、傍聴席の私へ目を向けなかった。
「……理解してくれるはずだと、私が勝手に決めました」
「逮捕させる意図はなかった」という主張は、監察へ渡せば何が起こるか予見できる地位にいたとして退けられた。
公開証言と王都守備兵の離脱へ寄与したことは考慮される。それでも、相当期間の拘禁、騎士位と指揮資格の永久剥奪、被害者への賠償が科された。
彼は判決を聞き、私を見なかった。
それでよい。私の表情から許しを探す場ではない。
マリエルには、投票、脱出石の強奪、共同証言、大奇跡の虚偽と、異常を知った後も装置を使い続けた責任が認定された。
自ら装置を止め、公開証言し、患者の救護を続けたことは量刑へ反映された。しかし、聖女資格と王家から得た特権は剥奪され、拘禁と賠償を受ける。
治癒能力を刑罰として強制使用させることは認められなかった。将来治療へ戻るなら、資格を取り直し、通常の監督を受ける。
ヒューゴ、セリーヌ、ブラム、イネス、オスカー、ダリオ、ミレーヌも、一括して同じ刑にはならなかった。
退路を塞いだ行為、虚偽への関与、証拠隠滅、後の協力を分け、拘禁期間、資格剥奪、賠償額が個別に定められた。
テオは私へ投票していない。
だが、置き去りを止めず、虚偽証言へ署名した。直接投票者より刑は軽いが、無罪ではない。地図師としての公的任務を一定期間禁じられ、共同証言によって得た報奨の返還と被害記録事業への賠償を命じられた。
最後に、ガレスの審理が行われた。
彼の地上被害は、王家が武器と情報を渡したからだけではない。民間人も報復対象とすると自分で決め、獣冠の強制機能を使い、守護獣と兵を苦痛の中で動かした。
同時に、王家が彼を侵攻の道具として使い、殲滅する計画だったことも確認された。
被害者であることと、加害者になったことを相殺しない。
ガレスは評議員資格と指揮権を永久に失い、監督拘束下に置かれた。王家との取引を公開証言する義務を負い、守護獣へ接触する権限も失った。
判決には、地上と地下の双方から不満が出た。
軽すぎる。重すぎる。王を生かすな。証言者を罰すれば次の内部告発が出なくなる。
裁判所は証言協力を量刑へ反映したが、告白によって行為そのものを消しはしなかった。被告側には上訴権が残された。
裁判が終わり、私は旧関税所の外へ出た。
王都の広場には、まだ白い聖女像が立っている。
柔らかく笑い、自ら死を選んだことにされた私の像。
王と十三人の責任が裁かれても、社会の中に作られた嘘の記憶は、判決だけでは消えなかった。




