名前を知ってる理由
少し前。
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「……ましろ」
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ぽつり。
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宿題しながら、無意識に出た名前。
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海里が近くで遊んでて、
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「ましろ?」
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そのまま覚えた。
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海人は気づいてない。
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■再び、海人の家
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「ましろー!」
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玄関に入った瞬間、
海里が駆け寄る。
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「え、覚えてるの?」
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「ましろー!」
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嬉しそう。
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「すごいね」
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茉白、しゃがんで笑う。
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(……なんで覚えてんだよ)
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海人、少しだけ焦る。
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(……俺、言ってたのか?)
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思い当たる。
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(……最悪だ)
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■三人で遊ぶ
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おもちゃ広げて、
三人で座る。
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「これこうするんだよ」
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茉白が教える。
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「おー」
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海里、楽しそう。
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海人は少しだけ横で見る。
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(……なんでこんな馴染んでんだよ)
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自分の家なのに、
ちょっとだけ居場所取られた感じ。
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でも——
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(……まあ、いいか)
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完全には嫌じゃない。
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■爆弾発言
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遊んでる途中。
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海里がふと、
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「ましろは」
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二人を見る。
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「にぃちゃの?」
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空気、止まる。
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「……は?」
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海人、固まる。
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「え?」
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茉白もきょとん。
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「にぃちゃのましろ?」
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純粋な顔。
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「……ちがっ」
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海人、即否定しようとして——
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詰まる。
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(なんて言えばいいんだよ)
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「……別に」
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結局それ。
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「ちがうの?」
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海里、首かしげる。
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「……ちがう」
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ちょっと強め。
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でも——
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(ちがうってなんだよ)
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自分で引っかかる。
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■茉白の天然
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「海くんのってなに?」
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茉白、普通に聞く。
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「わかんない」
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「ねー」
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海里と一緒に首かしげる。
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(……なんなんだよこいつら)
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海人、顔ちょっと赤い。
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■少しだけズレる感情
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そのあとも遊ぶ。
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でも、
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海人だけ少し静か。
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(にぃちゃの、ってなんだよ)
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頭の中で繰り返す。
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(……違うだろ)
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でも——
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(……違くねぇかも)
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一瞬よぎる。
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(……は?)
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自分でびっくりする。
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(なに考えてんだ俺)
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でも、
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茉白が海里と笑ってるのを見ると、
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胸がちょっとだけ、
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ぎゅっとする。
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(……取られたくねぇ)
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また出てくるその感情。
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■帰り際
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「ましろ、またね!」
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「うん、またね海里」
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手を振る。
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「……また来んのかよ」
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海人、ぼそっと。
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「来るけど?」
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即答。
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「海里いるし」
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にこっと笑う。
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(……は?)
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一瞬、固まる。
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(……違うだろ)
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(俺だろ)
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言えない。
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でも——
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ちょっとだけ、
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面白くない。
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■帰り道
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並んで歩く。
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「海里かわいいね」
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「……まあな」
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「懐いてくれて嬉しい」
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「……そうかよ」
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少しだけ間。
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「海くんが名前言ってたから覚えたのかな」
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止まる海人。
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「……は?」
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「だって急に名前呼んできたし」
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(……バレてる)
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一気に顔熱くなる。
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「……言ってねぇし」
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即否定。
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「ほんと?」
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「ほんと」
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でも目、逸らす。
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茉白、少しだけ見る。
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(……言ってたんだ)
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なんとなく分かる。
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少しだけ、
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嬉しい。
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「海くん」
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「……なに」
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「ありがと」
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「なにが」
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「なんでも」
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にこっと笑う。
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(……なんなんだよそれ)
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でも、
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(……悪くねぇ)
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