距離
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冬の午後。
外では冷たい風が吹いていた。
園庭で遊んでいた子どもたちも、少しずつ教室へ戻ってくる。
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「さむー!」
「手いたい!」
「お茶飲むー!」
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教室は一気に賑やかになる。
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茉白は窓際の席に座っていた。
外を見ると、小さな木の枝が風で揺れている。
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(寒そう)
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ぼんやり眺めていると、
隣の席の子が言った。
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「ねえ、ましろちゃん」
「なに?」
「海人くんって元気だよね」
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思わず窓の外を見る。
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海人は園庭で走り回っていた。
友達と追いかけっこをしている。
寒さなんて気にしていないみたいに。
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「うん」
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茉白は小さく頷く。
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「毎日楽しそう」
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その言葉に、
自分でも少し驚く。
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友達は笑った。
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「たしかに!」
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その時。
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「海人くーん!」
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先生の声。
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「あ!」
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海人が足を止める。
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どうやら転んだらしい。
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膝についた土を払っている。
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「大丈夫ー?」
「平気!」
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元気な返事。
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でも少し痛そうだった。
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茉白はそれを見ていた。
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(また転んでる)
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少し呆れる。
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でも。
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(痛そう)
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そう思った自分に、
少しだけ首を傾げた。
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海人ならいつも転んでいる。
今までだって見てきた。
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なのに今日は、
少しだけ気になった。
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理由は分からない。
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その日の帰り。
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教室で荷物をまとめていると、
海人が近くを通る。
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「お」
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海人が立ち止まる。
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「どうした?」
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茉白は海人の膝を見る。
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擦りむいていた。
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赤くなっている。
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「膝」
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「ん?」
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「痛くないの」
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海人はきょとんとした。
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それから笑う。
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「これ?」
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膝を見る。
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「全然」
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たぶん少し痛い。
でも海人はそう言う。
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茉白は少しだけ眉を寄せた。
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「うそ」
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「うそじゃねーし」
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「さっき痛そうだった」
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海人は一瞬黙る。
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そして、
少しだけ照れたように笑った。
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「見てたのかよ」
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その言葉に、
今度は茉白が固まる。
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(あ)
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見ていた。
確かに。
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海人が転んだところを。
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ずっとじゃない。
でも見ていた。
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「……別に」
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思わず目を逸らす。
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海人はその反応を見て、
なんだか少し嬉しくなる。
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好きな子が、
自分を気にしてくれた。
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それだけで。
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冬の夕暮れ。
窓から差し込むオレンジ色の光の中、
二人はまだ、
自分たちの気持ちをちゃんと知らないまま、
少しずつ距離を縮めていた。
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