出会い
春。少し冷たい風の中に、やわらかい陽の光が混ざる朝。
保育園の門の前で、小さな手がぎゅっと握られていた。
「大丈夫よ、すぐ慣れるからね」
母親の声に、こくんと頷く女の子。
——茉白。
まだ“その名前のまま”呼ばれていた頃。
短いショートの髪が、風に揺れる。
少しだけ緊張していたけれど、その瞳はやわらかくて、どこか安心する色をしていた。
先生に手を引かれて、教室へ入る。
中ではもう、何人かの子どもたちが遊んでいた。
「ねぇ、新しい子だ!」
「ほんとだ!」
一瞬で囲まれる、小さな輪。
「名前なんていうの?」
「……ましろ」
少しだけ間を置いて、でもちゃんと答える。
するとすぐに——
「ましろちゃん、遊ぼう!」
ぱっと差し出される手。
「うん、いいよ!」
その笑顔は、初めての場所とは思えないくらい自然だった。
そのまま、女の子たちの輪の中に溶け込んでいく。
積み木を積んで、崩して、笑って。
まだ何も知らない、ただ楽しいだけの時間。
⸻
その少し離れた場所で。
「おい、それ俺の!」
「ちがうよー!」
走り回っている男の子たちの中心にいたのが——海人だった。
元気で、声が大きくて、じっとしていられない。
笑うと、周りもつられて笑うような、そんな少年。
先生に「走らない!」と注意されても、すぐまた走る。
そんな、今と変わらない性格。
ふと、水を飲みに行こうとして立ち止まる。
その視線の先には——
楽しそうに笑う、見知らぬ女の子。
(新しいやつだ)
それだけ思って、すぐに興味は別の方へ移る。
「おい!続きやるぞ!」
また走り出す海人。
⸻
まだ、交わらない二人の時間。
同じ場所にいるのに、まだ遠い。
でも、この日、同じ空間にいたという事実だけが、
これから先を、ほんの少しだけ繋いでいた。




