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機動要塞の聖女さま~魔力暴走で廃棄された私、魔導工学の天才に「電池」として再就職しました。~  作者: 朔夜
第3章 空中都市と空飛ぶ請求書

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洗脳解除(デトックス)は、荒療治に限ります


ガシャアアアアン!!

シスターズが破壊したクリスタルビルの残骸が降り注ぐ中、享楽の道化師ジョーカーは、瓦礫の上でケタケタと笑い続けていた。


『暴力!破壊!アハハハ!ソレもまた「エンターテインメント」ダネ!』


ジョーカーが指を弾く。

瞬間、アガルタ第3階層の空間そのものが変質した。


ビッ、ビビッ、ビッ!

アルトの視界が、無数の「極彩色のウィンドウ」で埋め尽くされる。


【YOUWON!(おめでとうございます!)】

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「うおっ!?なんだこりゃ!?」


ポップアップ広告。

それも、視界を完全に遮断するほどの密度と光量。

物理的な攻撃ではない。脳の視覚野と聴覚野を「情報ノイズ」で飽和させる、精神汚染攻撃メンタル・ジャミング


『思考ハ不要!選ブ必要モナイ!タダ与エラレル情報ヲ飲ミ干セバ良イ!!』


アルトもシスターズも、情報の濁流に飲み込まれ、身動きが取れなくなる。

だが、その中でただ一人、涼しい顔をしている少女がいた。


「――見つけました」


パリーンッ!!

セレスが、目の前の広告ウィンドウを素手で叩き割った。

彼女は、かつて「神の声(電波)」を受信し続けていた元・聖女だ。ノイズ耐性は人一倍高い。


「騒音の『発生源コア』はそこですね!」


セレスはジョーカーの虚像ホログラムをすり抜け、その背後にある排熱ダクトの隙間へと飛び込んだ。

そこには、ゴミと配線に埋もれた、古びた「巨大サーバー(投影機)」が鎮座していた。


「勝手に押し付けないでください!私の『好き』は、私が決めます!!」

「――『広告遮断アド・ブロック』ッ!!!!」


ズドォォォォォォン!!!


セレスの拳が、物理的なコアを粉砕した。

ジョーカーの幻影が、ノイズと共に霧散し――大量の「チラシ」となって爆散した。


幻覚が晴れる。

だが、その後に訪れたのは、感動的な目覚めではなかった。


「あ……れ……?」

「音楽が、止まった……?」


貴族たちがふらりと立ち上がる。

そして、彼らは互いの顔を見て――埋め込まれた喉元のスピーカーから、絶叫を発した。


「《ヒッ、ヒイイィッ!?》」

「《ナ、ナンダソノ顔ハ!?顔ガナイ!!》」


阿鼻叫喚。

洗脳が解けても、肉体は戻らない。

彼らの顔は、目も鼻もないつるりとした肉塊のままだ。長年の快楽漬けの代償として、不要な器官はシステムによって削除(最適化)されてしまっていたのだ。


「《タ、助ケテクレ!金ナラアル!》」

「《コンナ顔ジャ生キテイケナイ!》」


のっぺらぼうの貴族たちが、手探りでアルトたちにすがりついてくる。


「……やれやれ。商談の時間だな」


アルトはため息をつき、通信機で地下のガメルを呼び出した。


「おい工場長!在庫処分だ!『高機能フェイス・ユニット』をありったけ弾道輸送しろ!」


数分後、広場にドリルミサイルが突き刺さり、中から大量のサイバネティック・マスクが溢れ出した。


「よう、金持ち共。……顔が欲しいか?」


アルトはニヤリと笑い、マスクを放り投げた。


「元通りとはいかねえが、もっと便利な『新しい顔』をインストールしてやる。視界良好、表情自在……ついでに『課金モジュール(投げ銭機能)』も標準搭載済みだ。便利だろ?」


将来、彼らからさらに金を巻き上げるための機能もしっかり仕込んである。


「……ただし、料金は全財産の『3割』だ」


救済ではない。足元を見た商売だ。

だが、貴族たちは躊躇した。

財産の3割。それは彼らにとって、命の次に重いものだ。


「《さ、3割だと……!?足元ヲ見ルナ!》」

「《高スギル!負ケロ!我々ハ被害者ダゾ!》」


まだ、彼らには「客」としての自覚が足りないらしい。

アルトが「なら一生のっぺらぼうでいろ」と言い捨てようとした、その時。


「――あら、残念です」


セレスが、すっと前に出た。

彼女は聖女の慈愛に満ちた微笑みを浮かべながら、契約書とペンを手に、貴族たちの方へ歩み寄った。

その背後には、フリルの付いた新型ボディでチェーンソーを構えたシスターズが「壁」となって退路を塞いでいる。


「迷っている時間がもったいない(コストの無駄)ですよ?」


セレスは、躊躇する貴族の一人を壁際に追い詰めた。


「思考停止していたから、お顔を奪われたのでしょう?……貴方たちは今、生きているようで死んでいる『ゾンビ』と同じです」


彼女は、ニッコリと笑いながら、貴族の胸元にペンを突き立てた。


「思考停止は『死』と同じです。さあ、ここにサインして『蘇生』しましょうね?(逃げ道を塞ぐ)」

「《ヒッ……!?》」


貴族が震え上がる。

目の前の少女から発せられているのは、救済の光ではない。

「買わないなら死んだままでいろ」という、絶対的な「死刑宣告クロージング」だ。


「さあ、書いてください。全財産の3割なんて、命の値段に比べれば『実質無料』みたいなものですよね?……ね?」

「《か、買イマス!書キマスゥゥ!!》」


貴族が半泣きでサインをする。

それを見た他の貴族たちも、我先にと契約書に群がった。

聖女の笑顔が、何よりも怖かったからだ。


「……おい」


その光景を見ていたアルトが、頬を引きつらせて呟いた。


「あいつ……俺よりエグくねえか?」

『肯定シマス。セレス様ノ営業圧力プレッシャーハ、マスターノ1.5倍デス』


シスター・ワンが冷静に分析する。

純粋培養された「善意」が「商売の論理」で武装すると、ここまで恐ろしい「押し売り」が誕生するのだ。


「《見エル……!見エルゾ!》」

「《アハハ!コレガ私ノ顔!》」


マスクを装着した貴族たちが歓喜する。

だが、そのマスクには「脳の空き容量をシステムに提供する」という裏契約が仕込まれている。

彼らはこれから死ぬまで、顔を維持するために「考え続ける」ことを強制されるのだ。

そして、アルトが仕込んだ課金モジュールによって、いずれ推し(アイドル)に全財産を貢ぐ未来も確定している。


「ふふっ。商売繁盛ですね、社長♪」


契約書の束を抱えたセレスが、小走りで戻ってくる。

その笑顔は、一点の曇りもなく晴れやかだった。


「……ああ。お前、いい『営業部長』になれるよ」


アルトは少し引いた顔で、彼女の頭を撫でた。

この聖女には、もう誰も勝てないかもしれない。


第3階層・無限享楽都市、攻略完了。

嘘と快楽の霧は晴れ、そこには機械の顔を持ち、眉間に皺を寄せて考え込む「新しい市民」たちと、最強の営業ウーマンが生まれた。

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