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フランテールは学園内でよく目立つ。髪はピンク色のファンタジーカラー、目はキラキラ輝くエメラルドグリーン。愛嬌のある笑顔は王太子のみならず、学園のイケメンたちを釣り上げているようだ。
「なるほど、これは乙女ゲーの世界」
教室の窓から庭園を見下ろすと、そこにはフランテールとイケメンその1とその2がいた。きっと彼らも人気者なのだろう。それを陰から見るお嬢様の中にはヒソヒソと悪口を言う者もいる。
小脇に抱えた人形も庭園を爛々とした目で見下ろしている。その表情は「THE・憎悪」とわかりやすい。
「エカチェリーナ様、あの平民娘をまた懲らしめてやる必要がございますわよね」
そう声を掛けてきたお嬢様その1とその2は悪役令嬢エカチェリーナ・学園編にたびたび登場していたように思う。名前は忘れてしまった。
「男爵令嬢ではなかったでしたっけ、まだ設定が頭にちゃんと入っておらず」
「そうですわ、『イモ男爵』」
そう言ってお嬢様その1とその2はクスクスと笑いあう。イモ男爵?男爵イモの間違いではないだろうか。
「元々はただの農民風情が、イモの収穫量を上げて爵位を賜ったのをいいことに、のうのうとこの伝統ある学園に娘を入学させるだなんて、身の程知らずにもほどがございますわよね」
設定を説明してくれたお嬢様その1に感謝である。しかし爵位をもらうほどイモの収穫量を上げるとは、農業改革ではないか。教科書に載るぞ。すごい所の娘さんだ。
「いや、収穫量を上げるのは並大抵じゃない。食糧のコントロールは常に国家の課題です」
「し、しかしエカチェリーナ様も、伝統ある貴族の子息が集うこの学び舎には釣り合っていないといつも仰っているではありませんか」
「バカ娘なんでね…挽回を考えると憂鬱でしかない」
窓辺に置いてある人形は私の陰になっているのでお嬢様たちからは見えていない。それをいいことに背中に向かって体当たりをしてくるが、まったく痛くない。
「なんだかエカチェリーナ様…いつもと雰囲気が違っておりませんこと?それに平民あがり風情を庇うなんてことしましたら、いくら公爵令嬢とはいえ、お名前に傷を付けるかと…」
上目遣いでいやらしい笑いを浮かべながらお嬢様その2が言う。どんな育て方をしたらこんな顔をするガキンチョになるのだ、親を張っ倒したい。
一つ、ため息をしてから気合を入れるために息を大きく吸い込む。
「レッツ!おはモ~ン!」
ポーズもバッチリ決まった。レツモンお兄さんの元気な挨拶はいつも元気をくれるのだ。口を開けて黙ってしまったお嬢様その1とその2を置いてその場を立ち去る。小脇に抱えた人形も同じ顔をしていた。
「友達は選んだ方がいいですよ、類友っぽいですが」
『彼女たちはわたくしと家柄が釣り合う子女です。文句を言われる筋合いはございませんわ』
「文句はないですよ。今後は私の好きなように友人を作りますんで」
『そんな勝手な真似が許されるとでも思っているの!?』
小脇に抱えた人形が睨みつけてくるが全くもってノーダメージである。この体がもう自分の体ではないという自覚をもって話してほしいところだが、まだ三日三晩ギャン泣きをしてないので無理だろう。それには答えず庭園へ向かう。
自分が入り口に立つと視線が集まってきた。フランテールとイケメンその1とその2も気づきこちらに目を向ける。意地悪な者たちはこれから始まるショーを楽しみに笑い、イケメンその1とその2はフランテールを庇うように前に出る。
しかし、そばで見るとフランテールはよく似ている。レツモンに出るピンク色のモンスター「フララン」に。愛嬌のある笑顔に緑色の大きな目。アニメ版のレツモンのフラランはいつも元気いっぱいな性格で、そのイメージとぴったり重なる。
『…ちょっと、何をするおつもり?』
周囲には聞こえない程度の声で人形が聞く。が、とりあえずは無視だ。
「一体何の用だエカチェリーナ。昨日も殿下に厳しく叱責されたのにまだ懲りないのか?」
イケメンその1の筋肉ムキムキが言う。名前は憶えていないのでとりあえず心の中で「マッチョメン」と呼ぶことにする。アメコミのヒーローみたいでかっこいい名前だと思う。
「フランテール嬢に何かしても無駄ですよ。殿下は我々にフランテール嬢の騎士になるよう命じられました」
イケメンその2の眼鏡が言う。こっちはそのまま「インテリメガネ」と呼ぼう。こんな庭にまで分厚い本を持ってきているくらいだ、きっと頭脳派キャラなはずだ。
「あの、エカチェリーナ様…私に何か御用でしょうか?」
そう言い、真っすぐに自分を見つめるフランテールはやはりフラランと似ていて、フラランの擬人化と言われても納得してしまう。フランテールとイケメン1、2の目の前にいるため人形は大人しい。良いことだ。
「フララ…フランテール様、数々の無礼お詫び申し上げます」
「はぁ!?」
驚きの声を上げたのはイケメン1、2である。人形はビクリと動いてワナワナと震えているので抱えている手で締め上げた。
「何のつもりだエカチェリーナ!」
マッチョメンは不快を露わに叫ぶ。この脊髄反射は反応、なるほど、脳筋キャラかわかりやすい。
「まあまあ、ここは話を聞いてみましょう。さ、エカチェリーナ。言い訳をどうぞ」
インテリメガネが話を促すが、その顔は侮蔑に満ちている。
この体の元の持ち主である我儘クソお嬢さんもどうかと思うが、横から口を出すこのイケメン1、2も大概だと思う。イケメンには用は無いので擬人化フラランちゃんに向かって口を開く。
「昨日殿下に言われて目が覚めました。殿下を好きな余り殿下に優しくされるフランテール様に醜い嫉妬をした挙句、いらん行動力が爆発し超新星しておりました。お詫び申し上げます」
そう言って深々と頭を下げる。正直自分がやったことの謝罪ではないので、お客さんの所に形だけのお詫びに行くのと気持ちは変わらない。嫌なことは早々に済ませてレツモンやろうという感じだ。終わった後にレツモンが無いのがなんとも寂しい。
「今後についてですが、フランテール様には一切関与はいたしませんのでご安心ください。ダンスパーティーにはぜひ殿下と参加をしてください」
「怪しいな、何を企んでいるんだ!」
「確かに。あなたが関わらずとも手足となる者は学園にいるでしょう。到底信じられません」
謝ったところでこの言われよう、このお嬢さんの評判はすでに地の底ではないか。人形がぶるぶる震えているが誰も気づいてないようだ。
「確かに。教科書をダメにしたり、わざとぶつかって転ばせたり、その他にも人としてどうかと思うことを数々やってきました。しかしそこは殿下好きさにとち狂ってしまったと、生ぬるく許してはもらえないかと」
言いながら考えていたが、別にこの学園にいることに拘ることはない。卒業式前と言ってもこれは殿下の話であって、自分は来年もここの学生であるのだが、転校してしまえばいいのではないか。どうせ全てを1から始めているのだから学校生活も斬新した方が却って簡単ではないだろうか…
そんなことを考えていたら、フラランちゃんが声を上げた。
「謝罪を受け入れますエカチェリーナ様、どうか顔をあげてください!」
フランテールの言葉にイケメン1、2も周囲のモブのみなさんも驚きを隠さない。
「エカチェリーナ様がどうして私に冷たく当たるのかずっと疑問でした。私と殿下の仲に誤解をしておられたのですね。知らずに心をかき乱してしまってごめんなさい!」
「フラランちゃん…」
その真っすぐな気持ちと前向きさと光属性具合いは間違いなくアニメ版フラランそのもの。思わず出た呟きは誰も聞いてなかったようだ。
「私は手のかかる後輩として、殿下にとても良くしてもらっています。ドーリス様やエルヴァルト様にも」
ドーリスとエルヴァルド。どっちかがマッチョメンでどっちかがインテリメガネの名前だろう。あとから覚えている自信はない。
「エカチェリーナ様はこんな大勢の前でご自身を保身することなく私に謝ってくれました。私も間違えたとき、そんな人間でありたいです」
「…ありがとう、フランテール様」
私が右手を差し出すとフラランちゃんはその手を取り、仲直りの握手となった。なんて出来た子だろう。自分なんかは相手が謝ってきたところで適当に距離を保てばいいと思ってしまうが、そうはならないからこそ乙女ゲーでイケメンとフラグを立てまくることができるのだろう。
「ったく…フランがそれでいいならいいけどよ」
なんとマッチョメンはフラン呼びだ。親密度の進行具合が気になるところだ。
「君には参ったよフランテール。まあ、だから放っておけないんだがな」
ヤレヤレといった感じでインテリメガネが笑っている。これそのうち男たちで修羅場になったりしないんだろうか。
「それでは、これで失礼します」
「あの…!」
「はい?」
業務終了とばかりに退場しようとしたが、フラランちゃんことフランテールちゃんの話はまだ終わっていないらしい。
「私に一切関与しないっておっしゃいましたが…私はもう気にしてません。その、エカチェリーナ様がお嫌ではなければですが…」
この様子、もしかしてこのクソ娘と友達になってあげようとしているのか?光属性にもほどがある。
「喜んで。これからは気軽に声をかけてください。それじゃあ、レッツ!バイナラモ〜ン!」
今のはレツモンお兄さんがする番組が終わるときの挨拶だ。ポーズもしっかりキマっている。シンと静まり返った庭園で、中央の道を歩く私の靴音だけが鳴り響く。小脇に抱えた人形はぐったりとしていてただの人形になったみたいだ。静かでいい。
「なんだあいつ…おかしくなったのか…?」
「エカチェリーナ…殿下に冷たくされて壊れてしまったか…」
マッチョメンとインテリメガネが引き気味に話す中、フランテールだけは真っ直ぐにエカチェリーナを見送る。
「エカチェリーナ様…本当は気高く、そしてお茶目な方なのね」




