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エカチェリーナは召使いたちが声をかけるのも構わず、ズカズカと大股歩きで屋敷の自室に向かう。
「誰一人入って来ないでちょうだい!」
そう怒鳴ると大きな音を立てて扉を閉めた。入るなと命じられたのだ、しばらくはあの我儘なお嬢様に構う必要はない。ヤレヤレといった様子で執事もメイドも持ち場へ戻る。
「あの忌々しいフランテール・ヴァンパー…!アリオン殿下にいつもいつも馴れ馴れしく!」
エカチェリーナの目は血走っている。学園で開かれる卒業式前のダンスパーティーに婚約者であるアリオン王太子殿下は、男爵令嬢であるフランテールをパートナーに誘ったのだ。
「許さない…あの女さえいなければ!」
エカチェリーナは濡れたように美しい濃紺の髪を振り乱し、机の鍵のかかる引き出しから一冊の本を取り出した。一心不乱に捲りとあるページに辿り着いたとき、その美貌を歪に歪ませた。
「フランテール…あなたのその余裕に満ちた笑みを塗りつぶして差し上げてよ」
手にした本は禁じられた魔導書である。公爵令嬢である権力を振りかざして王立図書館から無理矢理に持ち出したものだ。
エカチェリーナは魔導書を見ながら美しい絨毯の上にインクと筆で魔法陣を描く。
そうして、タンスの上に置かれた美しい人形に手を伸ばす。
「ライラ、私に協力してね」
人形を抱きしめながらエカチェリーナは言う。
ライラ、というのは人形の名だ。幼い頃に両親に贈られた。
その人形を魔法陣の中央に置くと、エカチェリーナは魔導書の呪文を唱える。
「さあ!憎きフランテールの魂を人形に閉じ込めなさい!肉体は死んだも同然になるのです!ホホホ…ホホホホホ!!!」
狂ったように笑いながらエカチェリーナが叫ぶと魔法陣は黒い光を放つ。
真っ黒な光は、エカチェリーナの心とよく似ていた。




