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本日2回目の投稿です。
こちらの世界でも、図書館というのは静かな場所だ。
本を保護するためか薄暗い室内。
天井まで届く書架に整然と並ぶ数えきれないほどの本。
静寂に包まれた図書館は読書や自習にもってこいの場所で、集中したい時によく来る場所だ。
倒れる前に読んでいた本の続きを読もうと思ってやってきたのだけれど。
「…集中できないわ」
パタンと本を閉じた。
さっきから目が滑って全然進まない。
———これも全部殿下のせいだ。
あんな…突然、キスなんかするから。
思い出してしまい顔に熱が集まる。
お茶会で泣いてしまった私を殿下が抱きしめ、口付けたのは三日前の事だ。
以来、油断するとすぐにあの時の事を思い出してしまう。
前世では高校生の時は彼氏もいてキスは何度も経験したけれど。
今の人生では…初めてだった。
その後も殿下は、固まった私に何度もキスして…。
わあぁ!
恥ずかしさで机に突っ伏したくなるのを堪える。
さすがにそんな姿、他の生徒に見られる訳にはいかない。
もうあの時の事は思い出さないようにしないと…。
そう思うのに、殿下の囁くような声が耳に蘇ってしまう。
殿下…私が好きって言った…。
その後にキスしたって事は、好きってやっぱり、そういう好きなのだろうか……。
「…帰ろう」
思い出すまいとするほど思い出してしまう。
火照った顔を冷ますようにぺちぺちと頬を叩いて私は椅子から立ち上がった。
「ニコラス様」
本を戻して帰ろうとすると、図書館の入り口で所在なげに佇むニコラス様がいた。
「…ああゾーイ嬢」
「どうなさったのですか?」
「いや…」
ニコラス様は困ったように頭を掻いた。
「父にお前も少しは本を読めと言われたのだが、何を読んでもすぐ眠くなってしまって…。図書館なら俺が読めそうなものもあるかと思って来てみたものの、こう本が多いとどう探せばいいのか…」
「まあ」
ニコラス様は、いわゆる脳筋キャラだ。
正義感があり剣の技術に優れ、将来は騎士として有望視されているけれど…勉強の方は苦手なようだった。
図書館などこれまで来た事もなかったのだろう。
「そうですわね…それでしたらあちらの棚へ」
少し考えて、私はニコラス様を奥にある書架の前へ連れていった。
整然と並ぶ背表紙を眺め、お目当ての本を見つけて取り出す。
「こちらの本がよろしいかと思いますわ」
「これは…『剣豪列伝』?」
「ええ、伝説の勇者や剣豪と称えられた方々の逸話や名言が書かれておりますの。一人一人の文章量は少ないですから、飽きずに読めると思いますわ」
「へえ、それは面白そうだ」
ニコラス様は私から本を受け取りパラパラとめくった。
「気になった方がいらっしゃれば、こちらにより詳しい伝記がありますので読んでみるとよろしいですわ」
私は本の列を指し示した。
読書が苦手なニコラス様も、剣にまつわるものなら興味が持てるだろう。
それにこういう過去の偉人の逸話は自分が剣を扱う時にも役立つ事がある。
前世でもこの手の本が好きだった。
「そうか、ありがとう。———そういえばゾーイ嬢は剣に興味があると言っていたな」
「…ええ…」
「女性で剣に興味を持つのは珍しいな」
「…そうですね」
この国では女性は剣を持たない。
ニコラス様の姉で代々の騎士団長の家の娘であるロザリー様も扱った事はないそうだ。
…やっぱり剣を習いたいというのは無理なのだろうか。
「それじゃあ少しここで読んでいくよ」
「ええ、それでは失礼いたしますわ」
近くの椅子に腰を下ろしたニコラス様を残して、私は今度こそ帰ろうとした。
壁のように並んだ書架を抜け…私は立ち止まった。
目の前にヒロインのキャロルが立っていた。




