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監禁された女の子

 午前中に望月家に現れた二人組の女。片方は長い黒髪を後ろに纏めた看護師姿の少女に喪服を着用した長髪の女性で黒い帽子には星の飾りが付いている。何処かで見た顔かと思えばその女は人形造形界隈で圧倒的カリスマ性を持つ、蒼星シリウスと呼ばれる人形造形師だった。傀儡師について確認を取りに来たというので、私は隙を突いて手に握った箒で看護師の女性を殴って気を失わせ、携帯していた防犯用スタンガンで唖然としている喪服のワンピースの女を感電させた。

 かつてその名を馳せた月黄泉と呼ばれた人形造形師が居た。その男の名は望月曳光。その手が生み出す少女を模った人形達は土塊に魂を宿らされたかのように今も変わらず命の息吹を放ち続けている。

私の頭の中でこの人形造形師が工房として使用していた大きな納屋は当時の姿をそのまま残し、数多の少女の素体が吊り下げられている。この人形保管庫の奥へと続く鉄扉が二つある。一つは完成品の少女達が大事に保管されていて、そこれの鍵は私が所有している。

そしてもう一つ、不恰好に後付けされた錠が溶接でつけられている方の扉の鍵を私は持っていない。この部屋は嘗て私が監禁された場所であり、人形造形師月黄泉が殺人鬼傀儡師として何人もの幼い少女を閉じ込め、その肉体の隅々、皮膚下の筋組織や内臓の造形や色彩を知り得たいが為に何人もの少女をここで解体し続けていた。近くで四肢をもがれた半死の女性が壁に飾られ、私と男の行為を何の感情も見せずに見下ろしている。私のちっぽけな身体が散々男に弄ばれた後、その時が訪れた。鉄の扉が開かれ、暗がりの部屋に強く差し込む光と共に女性のシルエットが映し出される。傀儡師として世間から恐れられていた男の背中に声をかける女性。裸のままの私達に戸惑う様子は一切見られなかった。

「どうしたんだい?此処に顔を出すなんて久しぶりじゃないか」

 顔は影でよくは見えなかったが、目を凝らすと水色の簡素なワンピースに裸足姿の女の人だった。

「パパ……私の事はもう抱いてくれないの?人形じゃなくなった私はもう愛してもらえない?」

 するりとそのワンピースをはだけさせるとその人形の様な白い肌と均整の取れた綺麗な胸元が露わになる。その美しさに目を奪われた男が刃物を捨て、涙を流しながらその女性を抱き締める。

「ずまない……本当にすまなかった。でも、もういいんだ。そんな事をしなくても私は君の事を愛して……不器用な父親を許してほしい……」

「パパ……嬉しい」

 その女性の指先が私と床に落ちた鉈とを交互に差し、最後にゆっくりとその男の背中に指を突き立てた。

私は衰弱しきった身体にありったけの力を込め、鉈を拾い、そこ男の背中に鉈を突き立てる。

男の呻く声が倉庫内に響き、此方に振り向く。女の子の私のしかも弱り切った体では深く刺さらない。怯えて尻餅をつく私。目に見えにない殺意と憎しみが混じり合い、その部屋に充満してむせ返りそうになる。私が諦めかけた時、その異様な殺気に驚いたのは男の方も同じだった。

「さと……み?」

「パパ……私に嘘をついていたのね」

「あの子の事……気付いたのか?」

その後の出来事は一瞬だった。

瞬く間の刹那の時間。私の刺した鉈を引き抜くと男の身体を切りつけ、身体を回転させながら放った渾身の一撃が男の首を身体から切断し、それが宙に舞い、辺りに鮮血を撒き散らしていく。

「私の身体……私の一部は必ず取り返してみせるから」

 それが私の知る殺人鬼傀儡師の最後の姿だった。

そして今、私を救ってくれた女性の手元には壊れた裁ち鋏が握られ、私の胴体に突き刺さっている。この場で果てた殺人鬼傀儡師は……私と彼女、新たな殺人鬼を生み出し、死んでいった。私はエプロンから鍵を取り出し、それを里実お嬢さんの前に翳す。狂気に取り憑かれ、我を失っている彼女が首を傾げ、それを受け取る。今度は私がもう一方の部屋を指差す。

「そこにきっと……答えがあるはずです……奥様と私の意思もそこに……」

 私はそこで意識を失った。これが私に出来る恩返し。私を闇から救い出してくれた殺人鬼の貴女へ出来る精一杯の恩返し……だ。


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