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名もなき魔術師の一生  作者: きゅえる
【3章】
106/106

【109】

【13】


 転移門を抜けると、そこは倉庫だった。

 ツボや絵画などの調度品が規則正しく並べられており、人の気配は全くない。


「リュミエラ?」

「はい。ここは私たち侍女がよく扱う道具をしまっておく所です」


 なるほど。

 戦闘状態においては武器庫や食料庫は人の出入りが激しい。調度品の倉庫は盲点になりやすく、うってつけの転移ポイントと思えた。


「敵が戦闘状態になる前に片をつけましょう。二手に分かれて、防衛チームと制圧チームに分かれます」


 後ろから、ぞろぞろと仲間達が転移してきた。このままでは手狭になる。

 モニカは兵士達に廊下を索敵させて、空間を確保するように命令した。


「リュミエラは防衛チームへ。ブローチを持って〈転移門〉を守護しなさい」

「はい」

「城下町内の〈転移門〉も含めて、どこか一つでも敵に落とされると、ほぼ負けです。場合によっては味方を置いてでも、門を閉じなさい」

「はい」

「それが私であっても同様です」

「……はい」


 リュミエラはブローチを受け取って〈転移門〉の中に戻っていった。


「クヴィラは私と共に、ここの拠点を守りなさい。貴方のオリジナル魔法〈空気固化(エアソリデフィケイト)〉は防衛向きと思われます」

「……分かった」


 クヴィラは少し不満そうにうなずいた。

 彼は復讐の為にここまで来ている。どちらかといえば、制圧チームに加わりたいと考えているはずだ。


「敵が迎撃準備が済んだら、第二フェイズに移ります。王座を奪取しに行きますので、その時はお願いします」

「……」


 クヴィラが黙っているのは、命令を了承したと解釈して良い。

 モニカは話を進める。


「スコナとトリーネは制圧チームに加わり、王宮内の道案内を。効率よく敵を捕縛して〈転移門〉内に閉じ込めるように」

「分かりました」

「了解です」

「もし危険が伴うようになれば、撤退の合図です。その判断は二人の総意で行いなさい」

「はい」

「仰せのままに」


 次。

 ヴァスマイヤ村の人達については、あまり無茶はさせたくない。彼らは魔術師の血統の祖であるから。

 かと言って、本人達が乗り気である以上、戦いに参加させないわけにはいかない。

 すると結論は。


「ルローとタンコは伝令役を。二人の戦力はよく存じてますが、相手は殺し屋専門の兵士です。後方支援に回りなさい」

「ああ、分かった」

「は、はい」


 タンコは出会った頃と比べて、落ち着いてきた。最初はひどく臆病だったのに、今ではここにいる。かなり成長した人間の一人だ。

 生き残って欲しい。


 最後にモニカは、自分の近衛隊に自身の護衛を命令を下す。


「それでは各自、編隊を組んで行動を!」


【14】


 モニカは倉庫内に待機した。これから伝令を受け取る。

 初めに連絡が来たのは制圧チーム。

 スコナとトリーネが各部屋を回り、順調に縄で捕縛しているとの事。今のところ、大きな反抗はない。

 非戦闘員の侍女や庭師、楽師に対しては、猿轡をして縛り、その場で放置しているそうだ。

 王宮に仕える侍女たちは非戦闘員とはいえ、基本的に魔法が使える者を採用している。訓練はしていないとはいえ、攻撃に転用できる技術をもっているはず、との判断だろうが……。


「それでは不十分です」


 口上なしで魔法を使える〈無詠唱(ゼロキャスト)という技能がある。誰がその術者かわからないので、全てモニカの元へ運ぶように指示した。

 その一連の流れにクヴィラが反応した。


「それなら、少し時間をくれれば何とかする」

「何か案があるのですか?」

「魔法を使えない空間を作る魔法がある」


 すごい。よく分からないが、すごい。


「では、その部屋を幾つか作って下さい。そして捕虜を閉じ込めて監視をつけること。その為の人手は防衛チームから引き抜くように。引き抜かれた者はクヴィラの指示に従いなさい」


 あれこれ考えている暇はない。直ぐに命令を下す。

 クヴィラと防衛チームの兵士達が慌ただしく動きだした。指示変更によって有機的に配置換えしていく。


「今の所、城下町の国民に被害は出ていません」


 今度は外から攻める部隊からの伝令だ。

 こちらの行動が迅速だったおかげで、敵の準備がまだ出来ていない。できる限り城下町には傷をつけないようには言ってある。だが戦闘が始まってしまっては、不幸な事故も起きかねない。


「了解しました。民には屋外に出ないで戸締りするように、と指示して下さい」


 と命令してはみるものの、実際は難しいだろう。

 特に商人。店じまいを強制すれば不満も出てくる。命令に従わない部分も出てきて不思議ではない。


「西から六百人規模の兵隊が接近中です。タイミングと速さからして、フィンク卿の私兵だと思われます」

「……ついに来ましたか」


 フィンク卿は貴族の一人だ。

 王都の西側に隣接する地区の領主である。性格はかなりの野心家で、前情報によれば反乱の功績により、かなり広い領土を奪取してきたとのこと。

 この迅速さも、今後の政治を有利に持っていく為の政略と予想できる。そうなると、たいした戦略はなさそうだ。


「北の兵数は?」

「およそ三百です」


 その差は二倍。

 戦闘の勝敗は基本的に数で決まる。このまま戦略もなくぶつかれば無駄に戦力を失う。

 功績が欲しいだけ、という仮定が正しければ、圧倒的な戦力差で威圧すれば敵は逃げていくと予想する。


「北の兵はフィンク兵が接近するまで、そのまま待機。王宮を攻めているエマニュエル隊以外の全勢力を〈転移門〉で北口に移動させよ」


 モニカは一息置いて、迷いを断ち切る。

 そして、


「全力で叩きなさい」

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